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愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)(昭和63年2月29日発行)

二 加茂川渓谷と武丈桜

 加茂川流域の観光地

 加茂川は高知県境に接する西条市南部の山地に源を発し、北流して燧灘に注ぐ全長三二・九四㎞の二級河川である。加茂川本流の上流は周桑郡小松町に属し、石鎚山西ノ冠岳から高瀑渓谷を経て北流する。そして、小松町と西条市の境界に位置する河口で河口谷と合流し、大保木を経て黒瀬ダムに至る。河口谷は石鎚山・岩黒山・瓶ケ森を結ぶ尾根の北に広がる水系で、西之川や東之川の集落がある。
 黒瀬ダムをすぎ、兎之山で大きく蛇行した加茂川は、東宮で支流の谷川と合流する。谷川は瓶ケ森・寒風山・笹ヶ峰に囲まれた水系で、旧加茂村の荒川・千町・藤之石などの集落がある。東宮から八堂山麓に向けて北東に流れた加茂川は、支流の市之川を合わせると北西に流路を転じて平野部に至り、燧灘に注ぐ。
 西条名物の打抜きとよぶ自噴水は加茂川の伏流水で、水資源に恵まれた西条は「水の都」とよばれている。加茂川は西年平野の水利の中心で、またクラレ西条工場などの工業用水も供給している。
 加茂川流域の観光地のうち、昭和六〇年に加茂川渓谷を訪れた観光客は約一〇万人(西条市商工観光課調べ)で、その内容は、キャンプ・紅葉狩り・釣りなどである。また、武丈公園・八堂山・津越の滝などに約八万人の客があった。このほか、季節的なものとして武丈の花見客が約三万人、トリム公園や武丈の河川敷で行われるいもたきの客が約三万人である(図3―38)。

 加茂川渓谷

 加茂川渓谷の代表は河口の三碧峡と、下津池の止呂峡である。三碧峡の三碧とは、加茂川の清水の青、「伊予の青石」とよばれる岩肌の青、そして樹本の緑をさし、付近には目鼻石・のぞき岩場・こりとり場などがある。また、絶壁が頭上におおいかぶさるようにそびえ立ち、県道西条久万線の道路が、山岩をくり抜いたトンネルを通っている。河口は市街地から約二〇㎞で、かつては石鎚登山の玄関として知られたが、ロープウェイの開通により哀退した。
 止呂峡は加茂地区を流れる谷川の渓谷で、加茂川渓谷の中でも最大の景勝地である。谷川は下津池で吉居谷と合流して深い峡谷をなし、周囲の切り立った山々は奇岩となって谷間に落ちこんでいる(写真3―31)。
 昭和二六年に吉居部落に通じる林道が開通し、止呂峡につり橋が架けられた。橋の上からみた止呂ケ淵の眺望はまことにすばらしく、国道一九四号を利用して高知からも観光客が訪れる。下津池は市街地から約一四㎞で、付近には薄雲姫物語の伝説を伝える風透がある。また、下津池は笹ケ峰への登山口にもなっている。
 加茂川上流の高瀑渓谷は、三碧峡や止呂峡に比べると市街地から遠く、交通の便も悪いため、訪れる観光客は少ない。しかし、石鎚国定公園に属し、特に紅葉のシーズンには絶好のハイキングコースである。高爆渓谷の最上流部にある高瀑は、高さ一三二m、幅約一〇〇mの雄大な滝で、石鎚山西ノ冠岳のふところにあるため冠瀑ともよばれる。滝は標高一三〇〇mの高所にあり、水量は少ないが規模の大きさは西日本最大といわれる。河口から土居までは舗装道路で、土居から林道が通じている。林道終点から高瀑まで遊歩道が設けてあり、途中に赤ノベラ・白ノベラなどの奇勝がある。
 加茂川と谷川が合流する東宮は、広い河原がありキャンプ場として利用されている。かつてはつり橋の東宮橋が架けられていたが、国道改修によって姿を消しか。市街地に近く交通の便もよいため、夏のシーズンには河原一面にテントが張りめぐらされる。なお、東宮より下流にあるトリム公園付近の河川敷もキャンプ地として利用されている。

 武丈公園と八堂山

 武生公園(面積〇・三ha)は、八堂山の麓にある桜の名所で、加茂川右岸の堤防は桜並本になっている(写真3―32)。武丈の桜は天保六年(一八三五)ころ、明神木村(現西条市)の庄屋加藤定右衛門が植えたのに始まる。定右衛門はこの地に隠居所を建てて武丈庵と名づけ、彼の植えた桜が武丈桜とよばれたことから武丈の地名がおこったという。
 武丈桜は明治維新の後放置されて一時荒廃したが、大正末から昭和初期にかけて、田中大祐・日野岩多ら郷土の篤志家の努力により改値が進められて復活した。しかし、昭和四五年堤防改修のため一部が伐採され、残りは一〇〇余本となった。
 武丈公園の南に隣接する八堂山(標高一九六m)の山頂で、昭和四二年に弥生時代の住居や倉庫の跡が発見された。その後四五年から四六年にかけて、西条市加八堂山公園計画により遊歩道を建設し、沿道に桜を植樹した。また、弥生時代の追跡は四六年に二次にわたって発掘調査が行われ、竪穴式住居や円形倉庫が確認された。四七年にその一部が復元され、山頂に展示されている。
 武丈公園から一・五㎞南に津越の滝があり、この一帯は奥武丈ともよばれる。津越の滝は、加茂川の支流市之川に注ぐ津越谷川にかかる三態の滝の総称で、下流から順に、鮎返りの滝・雌滝・雄滝と名づけられている。津越の集落から雄滝まで遊歩道が通じており、人口から約五〇〇mで雄滝に至る。津越の滝は市街地から近く、また武丈公園や八堂山にも隣接しており、市民の憩いの場となっている(写真3―33)。

 新しい観光開発

 国道一九四号の新中野大橋を渡ったところに、新しいレジャー施設として開かれた「市倉ファーム」がある。これは、加茂川右岸の市倉地区の丘陵地二二万平方mを開いて作った高原観光牧場で、家畜を放牧すると共に、遊歩道や乗馬場・日本庭園・レストランなどをそなえている。同牧場は六一年八月にオープンし、さらに二期工事として、キャンプ場や歴史資料館などの整備が計画されている。同牧場の開設により、休・祝日は国道一一号までの道路が渋滞するようになっており、この解決が今後の課題である。
 また、過疎化が進む大保木地区で、地域の活性化を図って「和起和起村」、が設けられ、山菜・川魚料理店が開業した。これは、同地区にある極楽寺の門徒グループ・修験会(十亀邦人会長)が開いたもので、料理店和起和起亭は六一年八月にオープンした。
 加茂川中流にある黒瀬ダムは、四八年に完成した多目的ダムである。このダムは国道一一万からわずか七㎞南に入った所にあり、ダム湖周辺にはバレーボールコートやテニスコート、キャンプ場などの施設をもつ公園が設けられている。

図3-38 加茂川流域の観光地(門田原図)

図3-38 加茂川流域の観光地(門田原図)