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えひめ、子どもたちの生活誌(平成18年度)

(2)次世代への贈り物-竹の子学級-

 子どもの活動を支援する大人にとって、かかわってきた子どもが成長し、成人後は指導者として活躍するような関係が世代を超えて受け継がれていくことは理想的な形ではないだろうか。愛媛県の南部にある北宇和(きたうわ)郡鬼北(きほく)町(旧広見(ひろみ)町)好藤(よしふじ)地区では、好藤公民館の一事業として昭和49年に好藤小学校の6年生を対象にした「竹の子学級」が開設され、30年以上の時を経た今日では、かつての子どもたちが成長し、指導者として活躍する関係を築き上げている。このような取組の様子や指導者としてかかわる大人たちの思いについて、**さん(昭和8年生まれ)、**さん(昭和21年生まれ)、**さん(昭和43年生まれ)、**さん(昭和52年生まれ)に聞いた。

 ア 竹の子学級を立ち上げる

 **さんは、かつては町役場の職員として社会教育の推進に取り組まれ、現在は好藤公民館長として活躍されている。**さんに竹の子学級開設の経緯や現在の活動の様子について聞いた。
 「好藤公民館が竹の子学級(少年学級)を立ち上げたのは、昭和49年(1974年)でした。当時は広見町でも人口の流出や町の過疎化が進んでおり、お年寄りたちから何か地域のことを子どもたちに伝えていかないとこのままでは伝統が失われていくのではないかという強い危機感がありました。そんな折に老人クラブから自分たちの孫にあたる小学生を対象にこの地域のいろいろな昔のことを語りたいという要望があがってきました。これを一つのきっかけにして竹の子学級は開設されていきます。
 子どもたちは小学生の間は、学校もふだんの生活も好藤で過ごしますが、中学校、そして高等学校へ進学すると地区外に出て行くことになりますので、小学校を卒業する最後の年だからこそ自分たちの地域のことを知ってほしいという地域からの願いや、学校では体験できない冒険というか、ある程度自由闊達(かったつ)に遊ばせたいという思いが込められて竹の子学級は運営されてきたのです。」

 イ 主な活動内容

 「開設当初の昭和49年(1974年)度の事業計画書をみると、活動はほぼ月に1回の割合で、年間の活動総時間数が54時間であったことがわかります。また、指導者には学校の先生や公民館主事、体育指導員、愛護班、婦人会、青年団、郷土史家という実に様々な地域の大人たちがかかわっていたようです(図表2-2-5参照)。
 現在は年間9回の活動があり、総時間数は66時間になっています。また、その指導者は『好藤ヤングクラブ(通称YYC。登録メンバーは約40人)』の若者たちです。
 当初のものと現在の活動を比べると、ずいぶんと様変わりしましたが、基本的に事業計画は6年生という1年間だけで子どもたちにとって最も効果的な学習や体験はどうしたらいいのかと考え、その結果として今やっている形が生まれてきました。現在のような事業計画が定着した時期ははっきりしませんが、基本的に毎年大きく変わるものではなく、ほぼ同じ内容を繰り返し実施してきたわけで、そうやって竹の子学級ならではの歴史が作られてきたと思います。
 今年(平成18年)度の竹の子学級には、好藤小学校の6年生(平成18年度は15人)が全員参加しています。よほど特別なことがない限り、みんなワクワク、ドキドキで活動に出てくるのです。活動日は平日よりも主に土日や長期休業中を利用して設定しています。」
 現在は公民館主事として竹の子学級の活動をサポートしている**さんに、御自身の体験も含め、竹の子学級の主な活動について聞いた。
 「4月の『泉(いずみ)が森(もり)登山』が最初の活動です。泉が森(標高約755m)は鬼北町と宇和島(うわじま)市の境にあり、竹の子学級の開講式を行った後に約3時間かけて登り、山頂から鬼北地方や宇和島市内を望む雄大な眺望を楽しみます。6月の『カヌー教室』では、まず広見(ひろみ)B&G海洋センターのプールでカヌーが沈没した際の対処方法を十分に練習した後に、鬼北総合公園にある市越(いちごえ)池でカヌーの実習を行っています。7月には、1泊2日の日程で『キャンプ』をします。場所は高知県四万十(しんまんと)町(旧十和村(とわそん))のふるさと交流センターです。ここではラフティングボートで四万十川の川くだり体験や飯盒炊飯(はんごうすいはん)などに取り組んでいます。そして、10~11月にかけては、公民館に寝泊まりしながら小学校に通う4泊5日の『藤の子合宿』という通学合宿を行います。この取組は平成14年度から始まり、4~6年生までの希望者が参加しています。実施にあたっては、YYCや女性団体、そして老人クラブやPTAからのバックアップに支えられています(⑤)。
 さらに、11月には中山間地域に住む好藤の子どもたちが、宇和島港からフェリーに乗って九島(くしま)に渡り、愛用の自転車で島を一周する初めての島探索体験の『サイクリング』を行っています。また、2月になると南宇和(みなみうわ)郡愛南(あいなん)町の福浦(ふくうら)公民館の子どもたちと1年ごとにお互いの地域を訪問し、こちらに来てもらったときにはお餅(もち)つきをやったり、川や池で遊んだりします。向こうに行ったときには海辺で遊び、山の子と海の子とが交流する『ふるさと交流事業』を行っています。そして、年度末の3月には1年間の竹の子学級の思い出を記録した写真を使って、一人一人がオリジナルの『思い出アルバム作り』を行います。私が子どものときには、親子で写真を選び、作っていました。」

 ウ 活動を支える若者たち

 **さんは、「竹の子学級は公民館の事業の一つですが、公民館が直接手を出して運営しているのではなく好藤ヤングクラブの若者たちが、老人クラブや女性団体のバックアップを受けて運営しています。彼らは竹の子学級の運営ばかりでなく、地域行事にも熱心に活動しています。YYCのメンバーは仕事を持つ社会人ですが、活動に熱心なあまり年次有給休暇がなくなってしまったと笑いながらぐちをこぼす者もいるくらい、よく活動してくれています。
 YYCが生まれたのは、昭和60年(1985年)です。それ以前は好藤青年学級(前身は好藤青年団)として活動していました。青年学級の活動は当初は学習会が主でしたが、しだいに地域のために汗をかく活動に重点が置かれるようになり、地域の行事や小学生の健全育成活動に積極的にかかわっていくという方向性が生まれてきたのです。そういった雰囲気の中で竹の子学級が開設されました。このタイミングが小学生の活動にかかわっていきたいという青年学級にとっても、指導者を必要とする竹の子学級にとってもプラスに働き、両者は車の両輪のごとくとてもいい関係を築いてきたのです。
 小学校を卒業する6年生たちが大きくなったら何になりたいかを聞いたときに、『学校を卒業し、社会人となったら、YYCに入って自分たちがやってもらったことのお返しをしたい!』と私に言ってくれ、YYCの一員として活動することが子どもたちの将来の夢の一つにまでなっていることをとてもうれしく感じています。YYCは、夏の納涼大会や保育所の夕涼み会に出店をしたり、児童福祉施設に出向いていったりと地域のためにいろいろな活動をやっています。こういった活動への手伝いを竹の子学級のOBに声かけすると、彼らも喜んで参加してくれています。」と話す。
 現在YYC会長として竹の子学級や地域の活動に積極的に取り組まれている**さんに子どものころに抱いた竹の子学級への憧(あこが)れや会長としての思いを聞くと、
 「現在YYCの会長をさせていただいていますが、私も子どものころにYYCにお世話になった一人です。YYCには、その時代ごとにすばらしいリーダーの方がいらっしゃって、大きくなったらそういった人たちのようになりたいと思っていました。もちろん竹の子学級にもとても憧れました。6年生しか参加できませんから、6年生たちは私たち下級生によく竹の子学級の話を自慢げにしてくれるのです。例えば、11月のサイクリング。当時は北宇和郡吉田(よしだ)町(現在の宇和島市吉田町)へ出かけていって、サイクリングの後にミカン狩りをしていたのですが、そのときの様子をすごく楽しそうに話してくれるのです。そういう話を聞くと本当にうらやましかったです。4、5年生に進級すると、もうすぐ竹の子学級に入れると思いましたし、早く6年生になって入りたいと憧れていました。
 会長として活動に取り組みながら、1年間を通して、子どもたちの思い出づくりに私たちが一役買えたかなと思っています。今後もかつて地域の大人たちに自分たちがしてもらったことを脈々と受け継いでいきたいと思っています。」と話す。

 エ 竹の子学級のもたらしたもの

 竹の子学級で培った経験が好藤地区の子どもたちにとってどのような効果をもたらし、また地域社会にどのような影響を与えてきているのだろうか。小学校の教師として様々な地域で多くの子どもたちと向き合い、現在は好藤小学校校長の**さんに聞いた。
 「記録によると竹の子学級が始まった昭和49年の好藤小学校在校生は167名で、6年生は35名でした(平成18年度の在校生は81名。6年生は15名)。当時の学校関係者はもちろんのこと、現在の学校関係者たちも公民館が地元の学校と連携して学校ではできないこと、できにくいことを公民館の活動としてやっていただけることを大変ありがたいことだと受け止め、社会教育との連携、融合の意義を感じております。
 現在でも続いている『思い出アルバム作り』などもありがたいことの一つです。子どもたちの人数も多くないので、実際に製本された卒業アルバムをつくるとなると一冊あたりの単価は非常に高くなります。公民館からは無理にお金をかけて同じような内容のものを作るくらいなら、竹の子学級で作りましょうと言っていただいているので、費用面もそうですが、何よりも竹の子学級をとおして、6年生の思い出をしっかりと残すことができるので子どもたちも喜んでいます。
 また、近年学校現場で取り組まれている教育活動に『総合的な学習の時間(*13)』というものがあります。この活動の実施にあたっては学校と地域の実態に応じた連携が必要だといわれていますが、旧広見町では学校と地域の連携・協力によって成り立つ活動が、実は30年以上前からずっと先取り(*14)をされていたというわけです。
 さらに、これまでいろいろな地域の子どもたちを見てきましたが、やはりリーダーシップをとったりするところで好藤の子どもたちは秀でていると感じています。例えば、地域の行事には、8月の納涼大会や10月の地区体育祭など様々なものがありますが、こういった行事には、一小学生として参加しながらも、竹の子学級で培われたリーダーシップを発揮して、6年生ばかりでなく、竹の子学級のOBである中学生や高校生とともに地域の下級生たちをよくまとめています。そういったリーダーシップは、学校教育だけではできない分野で、竹の子学級で鍛えられた能力だと思います。
 そして、竹の子学級で学習した小学生たちが成長してYYCのメンバーや保護者、あるいは社会教育関係団体の役員になると、竹の子学級に対して『自分たちもその中で教えられ、鍛えられて今日があるのだから、お前たちも、そういう中でやれよ。』という熱い思い入れがあるのです。YYCにしても同じように竹の子学級の指導にあたりながら、『後に続く者を育てなければいけない。』という思い入れがあるのです。そういう営々としたものが32年も続いてきているので、保護者にしろ、YYCにしろ、地域の次世代を担う子どもたちを大切に育てていきたいと地域の住民だれもが感じているわけです。」と話す。

 オ 活動の歴史を受け継いで

 **さんは「竹の子学級は、開設以来今年度で32回目になり、すでに約700人余りの子どもたちが竹の子学級を卒業していきました。私たち当事者としては、この活動が過去からずっと繰り返して続いてきているものだから、現在までの状況が何か特別なことというよりも、ごく普通のことだと思っています。こうやって続いてきたのは竹の子学級という母体があり、また指導者であるYYCがあるからこそだと思います。そして、青年たちや保護者たちがかかわってきて積み上げられた実績が毎年繰り返されてきたことが今日の活動につながっているのだと思います。もしも、来年からやめるなどといったら、公民館はそれこそ地域からはものすごい非難を受けるでしょう。
 現在は小学校に各学年平均して10人前後の子どもがおります。過去には男の子ばかり8人だけで活動した年もありましたが、YYCが子どもたちの人数に関係なく存在していますから、6年生の人数が少なくなっても、少なければ少ないで個々に応じた充実した指導ができると考えています。ですから、これからも竹の子学級の活動は、将来にわたって受け継がれていくと考えています。これまでに繰り広げられてきた活動の歴史の重さを感じながら、これからも子どもたちの自然体験、生活体験、社会体験などが得られる活動を大切に受け継いでいきたいと思います。」と話した。


*13:総合的な学習の時間 教科の枠を越えた学習を行う時間で、小学校では平成14年度から本格実施。3年生以上の学年で
  週当たり3時間程度で実施。
*14:旧広見町内には五つの小学校の校区(学区)ごとに公民館があり、各公民館には子どもたちの活動を担う「少年学級」
  や「緑の少年団」が昭和40年代の終わりから昭和50年代にかけて開設され、現在も活動している。

図表2-2-5 開設年度の事業計画

図表2-2-5 開設年度の事業計画

好藤公民館提供の昭和49年度少年学級事業計画書から作成。