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えひめ、子どもたちの生活誌(平成18年度)

4 子ども時代の体験と自信

 第2章では、地域社会が子どもたちに取組ませたさまざまな伝統行事や体験的な活動を調査することによって、それにかかわった子どもたちや大人たちの思いを明らかにしようと試みた。
 その結果、大人たちに共通した真摯(しんし)な思いには、次世代の担い手である子どもたちの健やかな成長を願ってやまないものがあることが明らかになった。また、実践している活動は、即効性があったり、目に見える具体的な成果として現れたりしにくい。しかし、必ずや子どもたちの心身の成長やその後の人生に何らかのプラスの力を与えるであろうという期待が込められていた。そして、大人たちが創意工夫しながら実践してきた取組が、子どもたちの内面の成長を促すとともに、地域の支援の輪を拡大させ、大人や子どもを問わず人と人とがつながっているような地域づくりに貢献していたことも浮かび上がってきた。
 一方、地域の大人たちの取組によって充実した体験を積み重ねた子どもたちは、児童期においては「お客さん」的に支援を受ける立場にとどまるものの、年齢が進むにつれて支援する側に意欲的に参加する者も現れ、次なる担い手としての成長もみられた。
 では、子ども時代の体験が、その後の成長や子どもたちの将来にとってどのような影響を及ぼしているのだろうか。いくつかの調査結果から、現在の小学生の子どもたちに見られる全国的な傾向を再確認しつつ、成人した若者たちの意識を探り、併せて子どもたちの活動を支援することの意義について検討し、まとめとしたい。
 まず、小学生の意識やその実態については、ベネッセ教育開発センターの『モノグラフ・小学生ナウ 特別号』が示した報告から探ることにしたい。同書では、昭和63年(1980年)と平成11年(1999年)の調査結果の比較によって、子どもたちに起きているさまざまな変化が明らかになっている(⑥)。
 子どもたちの生活体験や自然体験の有無についてみると、1980年から1999年にかけて「自分でリンゴやナシの皮をむいたこと」が「ほとんどない」子が22.1%から35.3%へ13.2ポイント増加しており、「赤ちゃんをおんぶしたこと」では、「ほとんどない」子どもが26.9%から45.2%と、18.3ポイント増えている。こうした生活体験の低下に加え、「カエルにさわったこと」が「ほとんどない」子どもが33.0%から42.3%へ増加しているように、自然体験も低下していることが示されている。
 また、子どもたちが感じている幸福感の変化によると「とても幸せ」と「かなり幸せ」と感じている子どもの割合は、20年間で58.1%から43.6%へと、14.4ポイント低下している。
 反対に「やや不幸せ」、「かなり不幸せ」、「とても不幸せ」と感じている割合は、5.1%から11.1%へと増加しており、子どもたちの幸福感も、また大きく低下してきているのである。
 生活体験や自然体験の不足が幸福感に直結するものではないとしても、この二つの調査結果が端的に示しているような状況の延長線上に現在の子どもたちが生きていることを再確認しておきたい。
 だからこそ、子どもたちに地域の年中行事を伝える活動に取り組んだり、さまざまな体験に取り組める場や学びの場を設定し、そこに面白みのある企画を持ち込もうと奮闘する大人たちの取組がこれまで以上に重要なものになってきているといえるだろう。
 では、成人した若者たちの意識の中に子ども時代の体験がどのような力を及ぼしているのだろうか。平成18年(2006年)にベネッセ教育研究センターが実施した『若者の仕事生活実態調査(*15)』にその答えの一つが示されている(⑦)。
 調査では、仕事の充実感に関連する仕事上の態度・能力として、「①将来の目標を持って仕事をすること」「②自分の考えをわかりやすく説明すること」「③自分の感情を上手にコントロールすること」「④自分の適性や能力を把握すること」「⑤自分から率先して行動すること」の五つの項目に焦点をあて、それらについての自己評価を「よくできている」「まあできている」「あまりできていない」「ぜんぜんできていない」の4段階で若者に聞いている。そして、自己評価の高いグループ(よくできている+まあできている)と自己評価の低いグループ(あまりできていない+ぜんぜんできていない)の子ども時代の体験の有無について分析が行われた。
 その結果、①~⑤の全項目において、自己評価の高い若者ほど子ども時代の体験として「親や学校の先生以外の大人と話をしたこと」があったことを回答している。例えば、②の項目では自己評価の高い若者の53.3%がこの体験を挙げ、低い若者の36.8%と比べて16.5ポイントの差が出ている。また、②の項目においては、自己評価の高い若者の72.1%が「地域の行事に参加したこと(お祭りや子ども会など)」という体験を挙げ、低い若者の57.4%と比べて14.7ポイントの差が出ている。そして③の項目についても同じように10ポイント以上の差が出ているのである。
 つまり、「子ども時代に多くの大人とかかわり、地域で繰り広げられるさまざまな行事に積極的に参加した体験の多い子どもほど、仕事の態度や能力に自信を持った若者に成長していた」のである。
 ということは、第2章が調査した取組はもとより、現在県内各地で繰り広げられている大人たちの取組が、子どもたちの内面に、「自信」という心の財産をもたらす可能性を大いに高めていると言うことができる。だからこそ、第1章で詳細に報告したような子どもたちにとっての豊かな「三つの間(時間・空間・仲間)」が失われてしまった現在、大人たちが積極的に子どもたちの活動を支援していくことは、意義深い取組だといえるのである。


*15:若者の仕事生活実態調査 約120万人の母集団から無作為で抽出された25~35歳の男女それぞれ1,250名、計2,500名
  (学生は除外)を対象に、平成18年1月に実施。