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えひめ、その住まいとくらし(平成17年度)

(2)「やまじ風」に向き合う住まい

 愛媛県の東端に位置する宇摩(うま)地域(現四国中央市)の住まいには、独特の景観を見ることができる。この地域には木造瓦葺の住居の屋根に、いくつもの自然石やコンクリートブロックを置く「石置き屋根」の住居が点在している。また、県内のほかの地域よりも堅固な鉄筋コンクリート造りの住宅が目立つのである。この宇摩地域にくらす人々が住まいを構える上で最も考慮しなければならなかったのは、山形(やまがた)県の「清川(きよかわ)だし」や岡山(おかやま)県の「広戸(ひろと)風」と並ぶ日本三大局地風の一つとまでいわれる有名な強風「やまじ風」であった。『日本三大局地風のひとつ やまじ風』によれば、「やまじ風」とは、低気圧の日本海通過に伴い、春や秋に宇摩地域の南側にそびえ立つ法皇(ほうおう)山脈から、北側の燧灘(ひうちなだ)(愛媛県の東部地方の北方海域)に向かって吹き下ろす強い南風のことである。最大瞬間風速10m以上のものを「強いやまじ風」と呼ぶが、低気圧の経路が台風の時期に重なると、最大瞬間風速が30mを超える場合もあり、住居の倒壊や農作物などに大きな被害を与えてきた。過去の記録では、昭和26年(1951年)の「ルース台風」の際、風速45m以上の「やまじ風」が発生し、宇摩地域全体で全壊142戸、半壊790戸という甚大な被害が発生している(⑤)。『伊予三島(いよみしま)市誌』では、「やまじ風」を「宇摩地方の住民の生活に被害の大きい、宿命的な局地風(⑥)」と表現しているが、この宿命的な局地風に向き合い、住居を守っていくための知恵として生まれたのが、「石置き屋根」であった。石置きは、屋根の南北両側ではなく、北側に多く見られる。これは法皇山脈から吹きつける風が南側の屋根瓦を押さえつけるが、北側は風にまくりあげられ飛ばされてしまうからである。現在では、瓦の1枚1枚を釘で固定したり、幅広で、重量のある瓦を用いたりといった工夫により、瓦が飛ぶ被害はほとんどなくなっている。
 そして、昭和30年代以降、耐風力の最も高い鉄筋コンクリートや鉄材などの使用による重量建築の普及とともに、木造建築の石置き屋根の景観は、コンクリート造りの住居が目立つ景観へと変貌(へんぼう)していったのである。
 その状況は平成10年(1998年)度の統計資料にもうかがえ、宇摩地域の非木造住宅は地域全体の住宅数の49.6%を占めており、県内各地域に比べて著しく高い割合を占めるようになっているのである。ここからも、「やまじ風」がいかに宇摩地域の住まいに影響を与えてきたかがわかるのである。