データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

えひめ、その装いとくらし(平成16年度)

(2)枕

 枕には、木枕(こまくら)系と薦枕(こもまくら)系があるとされる。木枕系は木枕、陶枕(とうちん)など固形の枕である。薦枕系は稲わら、スゲ(菅)などを束ねたような形で、やがてこれらの草を編んで巻いたり、中に草を詰めたりするようになり、さらに真綿を詰めて外側を絹で包んだりする枕となっていく。江戸時代になると、薦枕系でも、俵形にして両側に房をつけた括枕(くくりまくら)の形になる。絹や木綿で外側を作り中にそば殻を入れる枕もはじまり、さらに木枕系と薦枕系が一緒になった安土枕も登場する。
 引き続き、久万高原町西明神の**さん(大正13年生まれ)、**さん(昭和9年生まれ)と松山市永木町の**さん(大正14年生まれ)に話を聞いた。
 **さんは、「ここに昔使っていた枕から現在(平成16年)のものまでを並べました(写真2-3-28参照)。右端は結婚式などのときの枕で、箱枕の上に括枕を載せたもの(安土枕)です。台は蒔絵(まきえ)(金銀粉や貝殻の輝きを用いて漆器に絵を描く技術)が施してあります。高い枕と思うでしょうが、昔は日本髪でしょう。髪の結い方が両側を垂らすように結っていますから、今のような枕をしたら、髪が壊れてしまいます。それで、この高い枕で、髪を上にあげて寝ていました。日本髪といっても、娘のときは桃割れや島田、結婚すると丸髷(まるまげ)に変わるんです。戦前には、私たちもお祭りやお正月などに日本髪に結っていました。
 次の枕が普通の箱枕です。今でも使っている人はいます。箱枕は、男でも女でも使っていました。次のはトウ(籐)の枕です。夏向きの涼しい枕で、上に布製の枕がくくられています。ふだんには使っていませんでした。裕福なところの枕でしょう。その次がござ枕(草枕ともいう。)、座布団に夏冬があるように夏用の涼しい枕です。最後が現在の枕、外の枕の大きさも分かると思います。この他に空気枕といって、旅行などで使うのがありました。
 枕の中に入れるものは、頭を冷やすからそば殻が良いといわれていました。籾殻(もみがら)をいれることもありましたね。アズキは頭が冷えるし、粒が指圧の代わりになり良いそうですが高級品です。」と言う。
 専門店の**さんに枕の材料を聞いた。
 「うちで作ったことがあるのは、丸枕といって丸柱を切ったような形をした枕で、中にそば殻を入れ、両側に別珍の布を飾りにつけていました。枕に入れる材料はいろいろですが(写真2-3-29参照)、まず籾殻があります。これは安価なのが特徴ですが虫がつきます。最近売り込みに来た方もいましたが、もう使う人も少ないと思い断りました。
 そば殻は、大半の人が使っていたと思います。吸湿性があり頭を冷やしてくれます。だから、夏は涼しく、冬でも感触がいいとお客さんに人気があります。これも虫が付くのですが、今ごろは熱湯処理で解決しています。そば殻は古くから今でも人気が衰えません。ただ、ジャリジャリと音がするのが嫌だというお客さんはおられます。それともう一つそば殻の欠点は、長く使っていると屑(くず)ができ、回りを汚すことがあります。昔の人は、夏の土用ごろになると枕をほどいてそば殻を取り出し、ざるに入れて洗ってからいい粒だけ残して干し、不足分を買い足して枕を作り直していました。今もそば殻を店に置いていますが、これは作り直す人が今もおられるからで、私どもで枕を作るためではありません。
 パンヤ(*11)は洋式ベッドの枕などに使います。パンヤは綿代わりにもなります。綿とパンヤを混ぜたクッションなどもあります。パンヤには虫が付きませんけれども、そば殻などとは逆に熱がこもりますので、冬には良いのでしょう。ウレタンを細かくチップ状にしたものもありましたが、吸湿性がないし熱がこもります。今は見かけませんね。小豆枕は高級品で、注文で作ったことはありますが、重くて、虫が付くのが欠陥です。現在(平成16年)では、テンピュール(低反発素材)などの新製品も出ています。枕は人の頭を載せるものですから、蹴ったりしたらいかんと親に言われていました。」


*11 : パンヤ パンヤ科パンヤの木の種子に生えている綿状の長軟毛。保温性が良く、布団の芯や枕などに用いる。

写真2-3-28 本文で取り上げた枕

写真2-3-28 本文で取り上げた枕

久万高原町西明神。平成16年7月撮影

写真2-3-29 枕の材料

写真2-3-29 枕の材料

左端がパンヤ、中央がそば殻、右端はウレタン。商品としてのウレタンはさいころ状に切ってあった。松山市永木町。平成16年7月撮影