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遍路のこころ(平成14年度)

(2)移動手段別に見た遍路意識

 現代遍路の特徴の一つは、その巡拝方法の多様化にあるといわれている。古くからの歩き遍路、昭和28年(1953年)に伊予鉄バスが始めたバス遍路、あるいはタクシー遍路、自家用車遍路、さらにはバイクや自転車による遍路まで様々な遍路がいる。
 そのうち最も多いといわれるバス遍路、ますます増加しているという自家用車による遍路、歩き遍路について、その動機は何か、遍路中のどのような時に充実感を感じ遍路のご利益をどのように受け止めているかといった点について移動手段に視点を置いて、年代別・男女別をからめて、次の本センター調査から探った。
 次のデータは平成12年本センター調査から、自家用車遍路295人、歩き遍路92人、平成14年本センターバス遍路調査から、バス遍路107人の複数回答で得たものである。複数回答なので、以下の%で表した数値は実人数に対する割合とした。

 ア 遍路の動機

 遍路を始めた動機については、「先祖供養」・「自分探し」・「信仰・修行」など従来から様々なものがあげられている。そこで、次の11項目を設けて調査した結果を図表4-7から図表4-9として示した。なお、バス遍路については「先達の誘い」と「仲間との語らい」の2項目を追加して調査した。

 (ア)自家用車遍路

 自家用車遍路についてのアンケート結果をまとめたものが図表4-7であり、これを見ると、かなりバラつきが多く、どの動機の項目も30%以下である。
 自家用車遍路の場合は、いつでも出かけられる自由さからであろうか、際立って高い数値を示す動機はなく、バス遍路や歩き遍路に比べて、より多様な思いで出かけているともいえる。その中でも、「先祖の供養」が29%、「信仰・修行」が22%といった動機が上位に来ている。続いて「自分の健康や家族の問題」が26%、「身近な人の死や病」が13%などの身辺の問題、さらには「自分探し」が21%、「精神修養」が17%で、これからの生き方に関する思いなどの動機が続く。
 これを男女別に見ると、「先祖供養」は、男女ともほとんど変わらないが、「健康や家族の問題」は男性28%、女性21%、「自分探し」は男性24%、女性16%と男性の割合が高く、逆に、「信仰・修行」は女性の割合が高い。さらに年代別に見ると、20代男性では44%の者が「自分探し」を、60代の男女では39%の者が「先祖供養」を選択しており、それぞれ高い割合を示している。
 特徴的なものは、60代男性で「定年退職」を動機とするとしている者が28%いることである。また50代男性では、「健康や家族の問題」を選択した者が39%で最も多い。

 (イ)バス遍路

 バス遍路についてのアンケート結果をまとめたのが図表4-8である。これを見ると、全体を通して「先祖供養」の70%が群を抜いて高く、「信仰・修行」の33%がこれにつぐ。バス遍路には高年齢者が多いことも関係するのであろうか、先祖を思う気持ちや、大師信仰がその根底にはあると思われる。
 個人的な「精神修養」や「健康や家族の問題」を抱えての遍路者がそれに続いているが、「自分探し」は男女共に低く、全体で6%の者しか選択していない。
 また、「先達の誘い」による者が16%いるが、バス遍路の場合、先達の先導が一般的であり、その影響力は大きいと思われる。「仲間との語らい」が動機で遍路している者も17%いる。これはリピーターとして何度も一緒に巡拝している仲間のことと思われる。このバスの遍路者は、初めての者16人、2~4回34人、5~10回25人、11~24回21人、25~49回5人、50回以上4人、無答2人の構成であった。先達やリピーターの存在はバス遍路の特徴である。
 その先達は、毎年300~500人が四国霊場会の新任の公認先達として誕生している(⑭)。霊場会事務局への聞き取りによると、平成13年末現在の公認先達は10,634人である。そうした先達が巡拝講を組織して四国遍路へ誘っている例も多く、松山市周辺だけでもそうした講組織は20ほどもあると**さんは言う。なお、先達番号の1番は伊予鉄道㈱、2番は瀬戸内運輸㈱という企業に昭和42年(1967年)に与えられている。

 (ウ)歩き遍路

 歩き遍路についてのアンケート結果をまとめたのが図表4-9であり、これを見ると、動機として「自分探し」の59%が群を抜いて多く、「精神修養」の39%が続く。これらが宗教的な動機を上回っているが、これは現代の歩き遍路の特徴的な動機の一つともいえる。男女別でみると、「自分探し」は男性63%、女性48%、「信仰・修行」は男性28%、女性8%、「精神修養」は男性43%、女性28%といずれも、男性の方がはるかに比率が高い。また女性の方が高いのは、「自分の健康や家族の問題」「身近な人の死や病」「観光」などである。
 年代別にみると、「自分探し」を動機とした者の多さは、40代では2番だが、それ以外の年代ではすべて1番であり、どの年代にも共通した重要な動機に思える。

 イ 遍路中の充実感

 遍路していてどのような時に充実感を感じたかを、巡拝の移動手段別に整理したのが図表4-10から図表4-12である。

 (ア)自家用車遍路

 自家用車の遍路についてまとめたのが図表4-10である。これを見ると、「霊場でのお参りやそれをすませたとき」が63%と群を抜いて高く、「霊場・山門に着いたとき」が28%で続く。車での巡拝とはいえ、札所を探し求めてたどり着くまでの苦労がしのばれる。それ以外の項目はどれも20%以下で、「僧侶や先達の話を聞いたとき」が18%、「お大師様と共に歩いていると感じたとき」が16%と比較的信仰にかかわる項目や「お接待や親切に触れたとき」が19%、「遍路仲間と話すとき」が15%など心安まる項目が似た割合で続く。そして「長い道中を顧みたとき」の感動が14%ほどである。「霊場・山門に着いたとき」も含めて霊場における充実感を感じる場合が多く、それもお参りする時が中心である。どの項目についてもその充実感を感じる割合は、年代別・性別による大きな差違は見られない。

 (イ)バス遍路

 バス遍路についてまとめたのが図表4-11である。これによると、霊場における充実感が中心という意味では自家用車遍路と似た傾向にあることが分かる。ただ、「霊場でお参りやそれをすませたとき」が53%と最も高いのは同じだが、それ以外の「僧侶や先達の話を聞くとき」の48%、「お大師様と共に歩いていると感じたとき」の49%は自家用車遍路の割合よりはるかに高い。しかし、「霊場・山門に着いたとき」の8%の低さは際立った特徴である。霊場中心といっても、山門にたどり着くことより、そこでお勤めを行い、法話を聞くことに充実感を感じている。そこには先達の先導によるバス遍路の特徴がうかがえる。また、「遍路仲間と話すとき」が34%あるが、これは同行の仲間のように思える。「お接待や親切に触れたとき」の19%は自家用車遍路と同じである。こうしてみるとバス遍路の場合の充実感は、霊場へのお参りそのものが中心であり、「御大師様と共に歩いていると感じたとき」が他の移動手段による遍路に比べて最も強い。また道中における同行の仲間との触れ合いに喜びを感じる者も多い。

 (ウ)歩き遍路

 歩き遍路についてまとめたのが図表4-12である。これによると、「お接待や親切に触れたとき」が70%と抜群に割合が高い。しかし自家用車遍路・バス遍路に比べて、どの項目にも高い割合で充実感を感じている。歩き通し、汗を流すという「行」はその苦しさに比例して感動も深く、その場面も多いということであろう。10%代は、「僧侶や先達の話を聞くとき」の17%だけである。「霊場・山門に着いたとき」が45%、「霊場でお参りやそれをすませたとき」が40%と共に割合が高いのは、苦労してたどり着いた喜びの実感であり、一つのことを達成しえた喜びの表れであろうか。そのたどり着くまでの厳しさ、苦難があればこそ、道中の「お接待や親切に触れたとき」の喜びも大きいのかもしれない。また、歩き遍路の場合、一人で巡ることが多いが、全く見知らぬ者同士ながら、たまたま会った遍路の「仲間と話すとき」の一時は何物にも代えがたい安らぎであろう。その意味では、歩き遍路は、遍路道における充実感に加えて霊場での感動が結びついていると言えそうである。

 ウ 遍路のご利益

 このアンケートでは、「遍路を行って、どういうご利益があったか」についても質問した。その結果の一覧表はここには表示しなかったが、「心が安らかになった」の項目を選択した者は、自家用車遍路が56%、バス遍路が49%、歩き遍路が41%と高い割合を占めている。
 さらに、自家用車遍路の場合は、「これまでの人生を見つめなおすようになった」が28%、「気分が明るくなった」が26%と続き、後は20%未満である。年代別・性別の差はあまりなく、60代女性が「健康保持に役立った」を2番目に上げ、50代男性が「まだわからない」を2番目に上げている程度である。
 バス遍路では、「生きがいを見つけた」が35%、「健康保持に役立った」が31%あげられている。
 歩き遍路の場合は、「これまでの人生を見つめなおすようになった」の43%が1番多く、次の「心が安らかになった」に続いて「健康保持に役立った」の25%が3番目である。男女別では、「心が安らかになった」が女性48%、男性37%と女性の比率が高く、「これまでの人生を見つめなおすようになった」が男性45%、女性40%と男性の比率が高い。
 いずれの移動手段にせよ、遍路を終えて、「心の安らぎ」という充実感・満足感に浸っている、この安らぎの心こそ、今求められている癒(いや)しに通じるものではあるまいか。そうだとすれば、巡拝手段のいかんにかかわらず、四国遍路は、癒しを求める今の時代の要望に応える効用を果たしているといえそうである。また、今までの自分を見つめ直し、さらに新たな生きがいを見出すきっかけにもなっているように思われる。

図表4-7 自家用車遍路の巡拝動機

図表4-7 自家用車遍路の巡拝動機


図表4-8 バス遍路の巡拝動機

図表4-8 バス遍路の巡拝動機


図表4-9 歩き遍路の巡拝動機

図表4-9 歩き遍路の巡拝動機


図表4-10 自家用車遍路の充実感

図表4-10 自家用車遍路の充実感


図表4-11 バス遍路の充実感

図表4-11 バス遍路の充実感


図表4-12 歩き遍路の充実感

図表4-12 歩き遍路の充実感