データベース『えひめの記憶』
瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)
3 気候
愛媛県の気候は、小範囲でありながら地形の影響により、地域によって、特色のある気象現象が出現するので、単一の気候区として考えにくい。
愛媛の気候区を大別すると、年平均気温15~16℃で、年平均降水量1,200~1,600mmと比較的温暖で寡雨な瀬戸内海気候区、年平均気温が12~14℃、年平均降水量1,900~2,000mmと寒冷・多雨な山岳気候区、年平均気温16~16.5℃、年平均降水量1,600~1,900mmの海洋性気候区とに分けられる。
(1)気温
越智・忽那両諸島の気温を、各町村誌および、松山気象台の資料で見ると、年平均15℃程度で、松山・今治と大差はないが、大三島では、今治に比べていくぶん低く、伯方島では16℃(昭和31~50年の平均)と高い(表1-1-1参照)。
中島では、5月から8月にかけて松山より低く、逆に10月から12月にかけて高い。伯方島においても、低温期に松山・今治より高く、高温期に低い。このことは、海水温が影響しているものと考えられる。
(2)降水量
越智諸島は、年平均降水量1,200mm程度で、県下で最も降水量の少ない地域である。これは、四国山地が太平洋からの多湿な大気を、また、中国山地が日本海からの雨雪をさえぎり、大気を乾燥させるためである。月別降水量は、6月の梅雨期が最も多く、12月が最も少ない(表1-1-4参照)。
瀬戸内海地方の1日の降水量1mm以上の日を見ると年間80~100日と少ない。7月下旬から9月中旬にかけて、山岳地域では夕立による降雨も多いが島しょ部では夕立も少なく、干害を受けやすい。
かつては、この気象条件と恵まれた砂浜を利用して製塩業が栄えた。
忽那諸島は、年平均降水量1,400mm弱で、全国的には少ない地域に属するが、瀬戸内海の島しょ部では多い地域に属する。これは、豊後水道や関門海峡からの影響を受けているものである。降水量の月別変化は、越智諸島と同じ傾向を示す。
両地域の共通の悩みは、保水力の乏しい土壌と寡雨による農業用水の不足である。島しょ部における夏季の降水量不足は、日中、海陸風を補うために、瀬戸内海中央部に下降気流があって、これが積乱雲の発達を抑制するためと推定されている。このため、台風時の豪雨が時として滋雨となることもある。
(3)霧
瀬戸内海周辺の年間霧日数の分布図によると、平均霧日数10日以上の地域が瀬戸内海を東西に囲み、海上での霧の発生が周辺の沿岸部より多いことが分かる。
愛媛県の瀬戸内海各地の霧日数の調査はふぞろいで、正確な平均値はつかみにくいが、およその年間霧日数は20日前後である。
愛媛県の瀬戸内海各地と松山・宇和島の月別霧日数をみると、各地とも、春先の気温上昇期から発生回数が急増し、4月から7月に集中的に発生し、7月を過ぎると急減する。また、霧の発生時刻の調査によると、午前4時から6時ころに発生し、午前5時から10時ころに消滅することが多い。
瀬戸内海の霧の発生は、移動性高気圧下で夜間放射冷却を受けた陸域の大気が温湿な海上の大気と接触、または混合して発生する放射性の霧と、温帯低気圧に伴った温暖前線と寒冷前線に挟まれた暖域(高温多湿域)が瀬戸内海に流入し、海面で冷やされて霧となる移流霧(いりゅうむ)がある。放射性の霧は春先に、移流霧は海水温と気温とが逆転する4月から7月に多い。いずれの場合も風速3m以下の時発生している。
(4)風
風向・風速は、地形・地物の影響を受けるため地域によって差位が大きい。島しょ部における最多風向を町村誌でみると、東~南東、西~北西方向が多い。冬季は、季節風が強く、風向は西寄りである。夏季には、瀬戸内海沿岸特有の海陸風が吹く。
海陸風は局地的な風で、日中の日射により陸上が海上より高温となり、陸地部が低圧に、温度の低い海上に高圧部ができ、海上から陸に向かって風が吹く(「海風」という)。夜間は放射冷却により逆に、海上より温度の低い陸地部が高圧となるため、陸上から海に向かって風が吹く(「陸風」という)。
神戸海洋気象台の瀬戸内海の海陸風の調査(1953年)によると、午前8時ないし9時ころから海風が始まり、午後3時ころ最も強く、午後5時には終わっている。海陸風の交替時には無風となる「凪(なぎ)」の現象が現れる。夕刻は午後6時から8時に、朝は午前7時から9時ころに現れる。瀬戸内の夕なぎは著しく蒸し暑いので有名である。このなぎの現象は煙害を強め、公害対策のガンであったが、一方では、夕涼みをかねての文化的行事を発展させたとも言われている。
表1-1-1 月平均気温(℃) 備考:中島の値は「中島町誌(⑤)」より、他は「愛媛の気象百年(④)」より編集(1979年~1989年)。 |
表1-1-2 日最高気温の月平均値(℃) 備考:中島の値は「中島町誌(⑤)」より、他は「愛媛の気象百年(④)」より編集(1979年~1989年)。 |
表1-1-3 日最低気温の月別平均値(℃) 備考:中島の値は「中島町誌(⑤)」より、他は「愛媛の気象百年(④)」より編集(1979年~1989年)。 |
表1-1-4 月平均降水量(mm) 備考:中島の値は「中島町誌(⑤)」より、他は「愛媛の気象百年(④)」より編集(1979年~1989年)。 |