データベース『えひめの記憶』
瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)
4 地形・地質
(1)地形
越智諸島は北東から南西方向に雁行していて、各島の海岸線や山地などにも同じ方向性が認められる。大島東海岸は直線的で、その前面には水深40~60mの凹地があり、断層海岸の様子を示している。友浦(とものうら)には北東から南西方向に伸びる断層があり、これに平行する断層や斜交する断層が他の島で発見されていることから、越智諸島は、高縄半島から広島県の沼隅半島へつらなる、地塁(ちるい)的(*5)な島と考えられる。
越智諸島の地形的特徴は、(1)領家変成岩類や細粒花こう岩が風化、侵食に耐え、屋根状(ルーフ・ペンダント)に取り残された標高100m以上の急傾斜を示す山地、(2)その下部にあって、粗粒の花こう岩が開析された緩傾斜地の丘陵地、(3)標高10m以下の海浜堆積物・河川の氾濫原堆積物からなる平地に分類できる。この他に、宮浦、台(うてな)、井口(いのくち)、口総(くちすぼ)、幸(さいわい)新田の平地には天井川が形成されている。また、海岸部には三日月形をした自然海浜があり、独特の景観を示している。
忽那諸島では、興居島の伊予富士に代表されるような突起状の地形が目につく。この地形は、石鎚山形成時期(第三紀中新世ころ・約2,200万年前)に活動した火山が、風化・侵食作用を受けて、マグマの通路(火道)が火山岩頚(*6)として残された部分である。その中腹部には、越智諸島と同様に花こう岩が開析されてできた平坦面が標高40~80m付近に2~3段認められる。これらの平坦面は、農業用地として利用されている。越智諸島では、冬季に気温の逆転がみられ霜害の少ない地域となっている。
島の海岸線や山列は、北東から南西の方向性を示している。各所に沈水性特有の海岸線があり、その入り江には、漂砂の堆積した美しい白砂の浜がある(弓削島法皇ケ原、大三島台海岸、津波島の海岸など。)。
(2)地質
日本列島は東北日本地質区と西南日本地質区に大別され、さらに、西南日本は内帯と外帯に区分される。
瀬戸内海に浮かぶ島々は西南日本内帯の領家帯に属し、主に花こう岩類と変成岩類とからできている。また、これらの上を不整合に覆う上部白亜紀の和泉層群や鮮新~更新紀に属する地層が分布しているところもある。
ア 領家変成岩類
おもに弓削島、岩城島、大三島、大下島、小大下島、岡村島、中島、睦月島などに分布している。この変成岩の源岩は、漠然と古生代とされていたが、放散虫(*7)の化石の発見により、中生代三畳紀後期~ジュラ紀初頭の堆積物が含まれていることが明らかになり、これらの堆積物が、領家変成作用や花こう岩の貫入によって変成されたと考えられている。
① 片状ホルンフェルスと片麻岩
北条市沖の小安居(こあい)島に分布する灰白色と暗灰色の縞状の岩石は片麻岩で、比岐(ひき)島、平市島、魚島、高井神島、江ノ島には、おもに石英からなる石英片岩、石英と黒雲母からできている黒雲母片岩が分布している。
② 結晶質石灰岩
弓削島、大三島北部、大下島、小大下島、中島、睦月島、二神島には、白色粗粒で等粒状の結晶質石灰岩が分布する。この岩石は、ホルンフェルス中にレンズ状に挟まれており、この中に、弓削島のベスブ石、小大下島の珪灰石をはじめ、ざくろ石、透輝石、蛍石などのスカルン鉱物が含まれている。弓削島、大三島、小大下島では、セメント、肥料、精錬用、化学工業用として採掘されたが、現在では大三島鉱山を除いて、休山または廃山となっている。
③ ホルンフェルス
縞状を呈した、黒褐色から灰黒色の泥質ホルンフェルスと、灰褐色から灰白色の砂質ホルンフェルス、白色の珪質ホルンフェルスがあり、分布範囲も広い。弓削島の古法皇(ふるほうおう)山、岩城島の積善(せきぜん)山、大三島の肥海(ひがい)山付近と中腹部、大下島、小大下島、岡村島、中島北東部、睦月島東部、二神島などに分布する。この岩石は、硬く風化に強いため越智諸島の山頂から中腹にかけての急斜面や崖を作っている。また、石材としての利用が可能と思われる。
イ 領家花こう岩類
① 石英閃緑(せんりょく)岩
来島、津島、大島南東部に分布する。暗灰色から黒色の、中ないし細粒完晶質の岩石。
② 片状花こう閃緑岩
角閃石や黒雲母が片状~片麻状に配列している岩石で、四阪島、魚島、高井神島南西部に分布する。
③ 中粒~細粒花こう閃緑岩
大島北部、伯方島南部に分布する、緻密で灰色から青灰色の岩石。大島のものは、「大島石」あるいは「青みかげ」と呼ばれ、日本各地で建築石材として利用されている。
④ 粗粒花こう閃緑岩
大島南部、中島北部、怒和島、興居島などに分布する。石英、カリ長石、斜長石、黒雲母、角閃石を含む粗粒の岩石で、深層風化を受け「まさ」となっている。
ウ 広島花こう岩類
山陽地方に分布する花こう岩の一つで、愛媛県に分布するものは、領家花こう岩類より貫入時期が若干遅い。
① 黒雲母花こう岩
本県の島しょ部に分布するこの岩体は、中生代白亜紀末に貫入した中国バソリス(底盤)の南縁部と考えられている。越智諸島全域と忽那諸島の怒和島を除く各島に分布している。優白質で、灰白色から淡紅色をした、粗粒から中粒の岩石で、風化され「まさ」となっている。領家変成岩類をルーフ・ペンダント状に捕獲していることが多い。
② 細粒黒雲母花こう岩~両雲母花こう岩
淡紅色から灰褐色を呈し、細粒で硬く風化されにくい。大三島の鷲ケ頭(わしがとう)山の山頂をはじめ、各所に小岩体として分布する。中島の歌崎には、白雲母を含む両雲母花こう岩が分布する。これを歌崎型として他と区別している。
③ 閃長岩~モンゾニ岩
灰白色で、中粒から粗粒のカリ長石と斜長石を主成分とし、石英をほとんど含まない深成岩で、花こう岩類の中に、小岩体として包有されている。岩城島東海岸、大三島の口総などに分布する。岩城島のエジル石閃長岩は県の天然記念物となっている。
④ ペグマタイト
石英、カリ長石、斜長石、黒雲母などが大きな結晶となっている岩石で、脈状や塊状となって産出する。大三島の入日ノ滝、伯方の有津(あろうづ)、伊方、能地(のうぢ)、北浦では、精錬用、窯業用として採掘されたことがある。この岩石中には、変種ジルコン、フエルグソン石など希元素鉱物や放射匪鉱物が含まれている。
⑤ アプライト
ペグマタイトと同じ鉱物からなり、結晶が小さく、白色から乳白色の岩石で風化したものは、陶石の原料となる。伯方島では茶碗石と呼び、採掘されたことがある。
エ 和泉層群
白亜紀末の堆積岩で、川之江市から喜多郡長浜町青島にかけて、東西約300kmにわたり帯状に分布している。青島の本層からは、イノセラムスの化石が産出している。
オ 興居島層群
興居島の黒崎に分布する第三系で、下部の本浦層と上部の黒崎層に分けられ、領家花こう岩類を不整合に覆っている。木浦層から植物化石が採集できる。
力 瀬戸内火山岩類
瀬戸内海周辺部、並びに島しょ部に見られる安山岩類の総称で、領家変成岩類や花こう岩類を貫き、岩脈または火山岩頚として、おもに忽那諸島に分布する。この岩石は、新第三紀中新世のころの火山活動により噴出したものである。玄武岩質から角閃安山岩質の組成のものは硬くて緻密であるので、コンクリート骨材や石材として利用可能と思われる。
*5 地塁:大きな沈降帯中の沈降から遅れた部分で、幅に比して延長の長い、両側に対して相対的に隆起した地塊。
*6 岩頚:マグマの通路がそのまま残ったもの。
*7 放散虫:海産浮遊性原生動物で、深海堆積物の構成要因。