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久万町誌

三 伊予すだれ

 平安時代の中期に出た紫式部の有名な「源氏物語」の浮舟の巻に、
 やをら登りし格子の隙あるを見つけて寄りたまうに、伊予すはさらさらとなるもつつまし、新らしう清げに作りたれど、さすがにあらあらしくひまありけるを誰かは来て見んと打とけて穴もふさぐなるべし
とあり、同じ頃の清少納言の「枕草子」、七二段、いやしげなる物の条に、
 式部丞の爵、黒き髪の筋太き、布びょうぶの新しき……検非違使の袴、伊予すの節太き、人の子に法師の子の太りたる、まことの出雲むしろの畳み、
とあるような、「伊予す」、すなわち「伊予すだれ」は久万町雀峰に自生するスダレヨシで編んだすだれである。平安朝の人々の生活に親しまれた「伊予すだれ」は、この地方の古い産物として都に送られたものである。
 この伊予すだれの名が、はじめて文中に出てくるのは、平安初期の「宇津保物語」の藤原君二六の条で「縄代かいはづれたる伊予簾を懸けて……」とある。今から一二〇〇年も前に既に小説に出てくるので、相当古い特産物であり、都人の求めに応じて生産にいそがしかったものと考えられ、古代に平野部の開拓がすすみ、人口増加とともに、この山村にも多数の人口移住があり、こうした生産にも従事していたものと考えられる。