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愛媛県史 芸術・文化財(昭和61年1月31日発行)

三 現代建築

愛媛県県民文化会館

 愛媛の歴史と観光を代表する松山城と道後温泉を結ぶ電車通りに面する愛媛県農業試験場跡に、現代建築の粋を誇る県民文化会館が、間もなく昭和六一年四月に竣功しようとしている。世界的な建築界の第一人者である丹下健三が、戦後早くも建てた愛媛県民館に次いで再び心血を注いだ設計に当たり、「愛媛の新しい文化の発展の拠点となり、後世に残し得る文化遺産となる建物」のテーマを見事に実現した文化と芸術の大殿堂である。
 かねて県民が念願した世界的なオペラやオーケストラを招き、本場の歌舞伎を迎える夢が叶えられたのである。なお、国際会議や大規模な式典や多彩な集会の開催が可能となった高度の機能と設備を持った画期的な県民に開かれた施設といえよう。
 会館の基本となる三大ホールであるメインホール(三〇〇〇人収容)とサブホール(一○○○人収容)と多目的ホール(二五〇〇人収容)とが、高く空を仰ぐ総ガラス張り天井の県民プラザを中心核として、有機的にしかも明確に配置された建築である。今までに丹下の次々に発表した優れた作品に見る独創的な構想と特異な構造から生まれた内外観の空間表現が、またもや新しい造型美を松山にもたらしたのである。様式主義の虚飾は全く無く、まさ
に夫々の機能を持つ構造体そのものの明快なダイナミックな構成美と白とグレーの御影石をストライプに配したスマートな外装や、豪華な大理石の内装で素材美を生かした一大モニュメントである。強いて装飾的な要素を取り上げれば、畔地梅太郎ほか原画のステージの緞帳と石井南放原画の砥部焼の壁額があり、一層効果的な異彩を放っている。
 先ず注目される点は、表道路より会館へのアプローチに広々とした県民広場を設け、数千人の出入に混乱なく、むしろ小公園的な憩いの場となり、戸外の色々なページェントが公開できることは、この会館の性格を象徴するようである。車は東道路よりこの広場の地階ガレージに潜入して西道路に抜けることで玄関口の輻輳を無くし、また身体障害者の車椅子のためにホールまで全く段差のないスロープを設ける都市計画的な細かい配慮が窺われる。
 この建物の焦点は、何といっても県民プラザである。県民広場と一体化された総ガラス張りの玄関ホールに入った数千人の入館者は、五階建のビルに相当する吹抜けの広い空間に驚嘆の眼をみはる。そして天空を見透す大架構のスカイライトから昼は陽光、夜は星空を仰ぎ、また各階層の歩廊からは街路を見降すような戸外的雰囲気にひたりながら、随所に人と人との巡り会いや語らいを誘発させる豊かな空間を演出している。
 設備にも近代化が施され、各ステージにはオーケストラピットや回り舞台、大せりはもちろん、新しいストライディングステージを備え、大ホールは僅か二七秒で舞台を転換でき、小ホールでは三面のステージを回転させるのに自動操作が可能である。照明操作はメモリー式のコンピューター自動装置で、全国でまだ数少ないものである。
 なかでも特別会議室は四か国語同時通訳を備え、テレビ会議室は全国各地とのテレビ討議もできる国際的な施設である。その他耐震構造や防災設備、省エネの空調設備など周到な考慮が払われ、国際文化都市にふさわしい建築が誕生しようとしている。