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愛媛県史 県 政(昭和63年11月30日発行)

6 第三次県長期総合計画の策定

 定住構想・活力培養

 新全総に沿って、昭和四五年、策定された県長期計画マスタープランの主軸である大型(産業・交通)プロジェクトは、石油ショック以来全部行き詰まった。五二年、国が策定した三全総(第三次全国総合開発計画-昭和五〇~六〇年)は安定成長へ移行しつつ国土利用の均衡を図り、自然と生産が調和する人間
居住の総合的環境の形成を目指す「定住構想」をクローズアップした。国土を水系、山林、海洋、大気など生態系が営まれる自然系としてとらえ、人工系の活動の限界を示唆した点に新機軸があった。大都市圏の拡大を抑える地方の定住圏の確立、特に人口二〇万人以上の地方の中心都市のみならず小都市、農山漁村の総合的環境整備の重視が注目された。
 三全総との整合を図りつつ、昭和五三年に県が策定した第三次長期総合計画は、その背景として①安定成長期に入ったこと、②県民意識に「生活の質」を望む傾向の深化、③コミュニティ・サークル活動など新たな生きがい志向の目ざめ、④戦後生まれニューファミリーの「中流意識」の顕在化などがあった。本計画の概要は、次の通りである。
① 安定した生活と安定環境の整備 一~三次医療ネットワークの確立と健康管理体制の強化を図る。ボランティアの育成や公害、消費面の生活行政を強化する。住宅、生活環境施設の整備や交通安全を進める。
② 活力のある産業と地域経済の確立 地域に即したキー産業の選定育成と「中間技術」の研究開発に努め、農工両全の地方生活経済圏の形成、高雇用・高福祉型産業構造への転換を目指す。農業では、新愛媛農業地図、地域複合農業、流通情報のシステム化、農山漁村の総合的環境整備、林業及び漁業の近代化及び試験研究機関の整備などの諸施策を講じ、農村地域工業導入促進法を活用して企業の導入を図る。高校卒業者増に対する職業訓練の充実、商業の近代化、海浜・山岳のレクリエーション基地整備に努める。
③ 豊かな郷土への安定整備と県土の総合利用 国土利用計画(県計画)を活用し、乱開発を抑え県土の計画的利用を図る。高速交通網と地方生活経済圏とを国道・県道整備で結ぶ交通ネットワークの完成を目指す。併せて流通・通信体系の整備促進を図る。快適度・文化度・連帯感など生活の質と生きがいを重視する。
④ 新しい文化とっミュニティの形成 青少年の団体やボランティアを育成し、小学校単位に一公民館の設置(五 二年七二%)を目標とする。スポーツ振興のため施設やサークル育成を図る。豊かな文化づくりに文化財、文化施設、環境整備に努め、伝統芸能・民俗・建築などの保全を図る。地方に根づく生活・経済の良さを見直す。

 地方生活経済圏構想

地方生活経済圏は、ある程度明確な自然的・社会的「境界」に区切られたゾーンであり、多くは都市圏や二~三の旧郡制圏域から成っている。この圏域は、「生活と経済」面で応分の自足性を建て前とし、特に日常の買物、レジャー、教育、医療など生活環境の自足性が重要で、経済は職場、営業圏など圏内自足度を高めることが目標となる。この圏域は風土と歴史に根ざす郷土意識にはぐくまれ、おおむね固有の圏域文化を持ち、金・物。人の情報流通拠点として集約力を持つ、中枢的機能の集中した中核都市(例・宇和島圏における宇和島市)が存在する。圏域を有機的に結合関連させる土台となるのは、小学校区を最低単位とするコミュニティであり、逐次市町村へ、圏域へと連関拡大する。
 経済政策面では、地域の味を生かす有機農業循環論及び地域農業論などを踏まえた農業、さらに農林漁業の第一次産品の結合加工に一工夫こらした一・五次産業の展開を含めた、新しい農工構造の創造を図る。新産業体系づくりには、内発力を活かした加工系産業の振興、先端技術系産業の誘致や技術活用(例・農業面ではアグリトピア)、圏域に適合したキー産業の育成強化を急務とする。農水産物と工業製品との域内交流を強め、経済の域内循環を強化して、中核都市と周辺農山漁村との連関システムと機能分担づくりを確立し、地域経済の新しい組織づくりを進める。県ではこれらの観点から一体的な圏域を県地方局の行政圏と一致させ、県下を次の六圏域に区分し計画を立てた。
(宇摩圏) 伊予三島市・川之江市を中核都市に宇摩郡町村を領域とする。川之江市は四国縦貫・横断自動車道のインターチェンジとなる結節点であり、新しい高速交通体系の利を生かし、流通センター及び流通関連産業の立地を計画、既存製紙業の全国的産地である集積を活用した紙加工関連産業の誘致により、高度化・多様化を図る。併せて嶺南山岳地帯のレクリエーション基地化に努める。
(新居浜・西条圏) 既成の重化学工業及び新来の先端産業の集積する新居浜・西条両市を中核に、東予市と周桑郡町村を加え、ほぼ一体的環境を形成する。東予新産業都市の中枢地帯として重化学工業化に抜群の比重を持つが、産業構造改善への歩みが続けられており、高次加工型への転換、高度化・近代化が至上命題である。従来、産業偏重で立ち遅れ気味の総合的都市機能の整備面も急がれ、都市近郊型農業、商業、生活、文化など諸機能充実と合わせ、「うるおいと調和の田園工業都市」へ脱皮を図る。
(今治圏) 旧城下町今治市を中核に、島しょ部を含む越智郡町村を領域とする。瀬戸内海大橋架橋で始動するべき西瀬戸経済圏の南北交通軸の軸点の要衝にあり、東西交通軸との結節点を成し、将来の高速交通網の上で県下最大のメリットがある。タオル、造船など地場産業の大集積地で、これらの振興と商業機能の充実に加えて、将来はハイウェイに連なる流通拠点としての施設整備が急務となる。なお、海浜リゾートを生かした景観美を誇る島しょ部観光は、さらに内海の都市集積を統合した内海型レクリエーション基地も構想されている。
(松山圏) 県都であり、全国的にも地方中核都市である松山市を中心に、伊予・北条両市に温泉・伊予・上浮穴郡の町村を加える。旧城下町で県下の中枢管理機能の集中した松山市には高次の都市機能が集積し、工・農合わせて総合的都市圏を形成、陸・海・空と県都に集約される新交通体系の整備に伴い、西瀬戸経済圏の重要拠点として発展が期待されている。今後はむしろ過度の人口・産業の集中を抑え、住居機能を主とする周辺地域との機能分担を図りつつ、交通流通体系や都市環境の整備、生活文化の中枢施設の充実、教育文化情報の拠点的機能の向上を図る。上浮穴郡は県都圏の奥座敷としての観光ゾーンを形成する。
(八幡浜・大州圏) 六圏域のうち特異な八幡浜・大州両市二つを中心とする二眼レフ構造を成す。さらに領域に喜多・西宇和・東宇和三郡の町村を加える。八幡浜市は九州路へ直結する交通基地として将来性に富み、有数の水産基地でもあり、流通・商業・サービス機能の向上が望まれている。大洲市は内陸部交通の要衝に当たり、農・工・商の開発拠点都市である。全域的に農林水産の第一次産業主体の圏域であるが、内陸型工業の展開の外、長浜臨海部は大規模工業開発拠点として南予の明日への希望を担っており、長浜以南は三全総でも課題地域として登場した。
(宇和島圏) 旧城下町として特に中心性の強い宇和島市に南・北両宇和郡を加える。宇和島市は経済、医療、教育、文化など一応の中心都市拠点性を備えているが、一層の充実向上が必要とされる。圏域全体では、農林水産業の整備と高次加工や水資源開発が課題である。中・長期的には交通整備と併行して、海洋性南レク都市建設実現と西南山地大規模林業圏の山岳性レクリエーション開発と両々相まっての観光ゾーンは有望で、南宇和郡は圏域のサブセンターとして観光的には南レク都市の中核的存在を占めている。