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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第三節 農村の恐慌対策


 恐慌下の農政問題

 農村不況が深刻化した昭和五年八月に、久万町で開催された第二九回農事大会は次の事項を決議し、国、県に対して、その実現を要望する陳情書を提出したが、この決議事項はその後における農政運動の指標となり、各地で開催される町村長・農会長・産業組合長・実行小組合長などの諸会合で常に議題となり討議された。この議題中には、応急、恒久の両面からその後の農業政策で実現したものが少なくない。

一 政府に要望する事項
 (一)負担の軽減
  行政、財政を整理し苛重なる農民負担の軽減を図ること
 (二)農産物価格の安定
  (イ)生産費を基礎とした米価基準を決定すること
  (ロ)米穀買上資金の充実に善処し新米出廻期に於て大量の買上を断行すること及び政府所有の米穀売出に際し時期方法
    を誤らざること
  (ハ)秋蚕飼育の不安を一掃するため秋蚕繭の最低価格は糸価と均衡を失せざるよう糸価補償法に準したる施設をなすこと
 (三)農村金融の改善
  (イ)農家生産物に対し低利資金融通の途を開き且生産資金に就ては一層その融通額を増加すること
  (ロ)低利資金は最も簡易なる手続により迅速に融通する途を講じ且中間に於ける利鞘を一層減少すること
  (ハ)農民の負担を整理せしめ国債と同利率の資金貸出をなし救済の途を開くと共に金利引下げの一手段となすこと
 (四)農業団体の統一並に助成
  (イ)法令の根本的改廃をなし各種産業団体の整理統一を図り綜合的農業経営の実現に資すること
  (ロ)農会は農村振興上 枢要なる機関にして農村の現状かくの如き際に於て大いにその活動の必要を痛感す
    町村農会技術員施設等に対し一層助成の途を講ずること
 (五)生活用品の小売物価引下げその他
   酒、煙草の如き自給を阻止する法規の適当なる改正をなし農家の自給自足を認むること

二 県に要望する事項
 (一)行政の整理を断行し農民の負担を軽減すること
 (二)郡に於ける農業の中心機関たる郡農会との連絡を密にし農業行政の合理化を図ること
 (三)繭売買所に於ける売買手数料は売買業者より繭百匁につき各金五厘を徴集することに県下を統一すること
 (四)組合製糸及乾繭組合の製糸設備に対し乾繭組合の助成同様(設備費の四割)の率を以て助成すること
 (五)県は政府助成に累加補助をなし之が設置に当りては充分指導をなすこと
 (六)乾繭組合は生糸販売の業務を行い得るよう規則を変更すること
 (七)農事試験場へ昭和六年度より蔬菜専任技師を設置すること
 (八)小麦の増殖に関する事項
  (イ)小麦第一次採種圃面積を拡張すること
  (ロ)小麦第二次採種圃設置に対し奨励金を交付すること
  (八)小麦多収穫品評会を奨励すること
  (二)小麦販売の施設に対し相当奨励金を交付すること
 (九)山間部に於て山間部用適応品種試験を行うと同時に県設第一次採種圃を設置すること
 (十)積極的に畜牛生産の増殖を図るため貸下牡牛の頭数を増加し尚廃用の場合はその畜産組合へ無償交付すること
 (十一)農作災害による収穫皆無地に対し国税を免除せらるゝ場合に於ては町村税は勿論その他の諸公課を免ずること
 (十二)耕地整理に関する事項
  (イ)現行耕地整理法によらざる町村若くはその他関係団体に於て用水設備をなす場合に於ても相当補助金を交附すること
  (ロ)耕地整理補助金は少なくとも現行規程に定むる範囲の補助金を交付すること
  (ハ)応急の策として主たる旱魃地に於ける水源の基本調査を施行すること
 (十三)養蚕不況を救済する一方法として繭価補償法は緊急とするところなるもその具体的実施方法に相当 研究を要するた
     め本問題については県に於て充分研究のうえ之が目的達成に努めること

 農家の営農生活改善

 農家経済の窮状を打開するため、市町村・農業団体はそれぞれ独自の対応計画を策定し、集落または実行組合を対象にして営農、生活の改善指導につとめた。伊予郡農会は昭和五年八月に管内の実行組合長を集めて協議会を開催し、次のような指導方針、実践事項を提示しているが、各郡・各村で樹立した計画も大同小異であった。

      伊予郡農会実行組合指導要綱(昭和五年八月策定)
一 農村に於ては進んで経済緊縮の実を挙げ、農家をして左の如き方法により特に自給主義に則らしむるよう努めること
 (イ)農業生産に対しては勤労主義により品質の向上、生産費の低減に極力 留意すること
 (ロ)余剰労力を利用し価値ある副業品の生産を奨励すること
 (ハ)農村生活並に農業経営上の必要品は出来る限り自給品を使用し冠婚葬祭等の冗費を省き極力 物品購入による現金支
   出を節約すること
二 農家の生産物に対しては左の点に留意すること
 (イ)生産の統制を図ること
 (ロ)出荷団体を設立普及せしめ共同販売を励行すること
 (ハ)海外販路の拡張を図ること
三 農村計画の樹立の促進に努めその実行を図ること
四 各種産業団体とは連絡提携に努むること
五 日常の生活改善に関する事項
 (イ)時間の励行をなすこと
 (ロ)農家組合に於て時報をなすこと
 (ハ)年末年始の贈答は虚礼に流れざること
 (二)年始の回礼に代え元旦会 又は祝賀会を開催すること
 (ホ)吉凶禍福の見舞は成る可く現金化すること
 (へ)家計簿の計帳を為すと共に予算生活を実行すること
 (ト)節酒 節煙を敢行すること
 (チ)栄養献立を励行すること
 (リ)掛買の弊を矯め成るべく現金買を実行すること
 (ヌ)衛生思想の普及を図ること
 (ル)農家組合に於て理髪設備をなし定日 これを利用すること
 (オ)農家組合に於て日用品の共同購入分配会を開催すること
 (ワ)産業組合を利用すること 未だ産業組合に加入せざるものはこの際 進んで加入すること
 (カ)生活様式を出来る限り単純にするよう常に考慮すること
 (ヨ)農業労働賃の標準を農会に於て協定し之を公表すること
 (タ)生活改善の権威者を聘して生活改善に関する講習会を開催し特に青年処女の自覚を促すこと
六 冠婚葬祭に関する事項
 (イ)結納は永く記念するに足るべき実用品を選ぶこと
 (ロ)被服調度は実用を旨とすること
 (ハ)挙式は神前又は神聖なる場所に於て行うこと
 (二)被露宴は成るべく挙式の場所又は公会堂に於て行うこと
 (ホ)被露宴の饗応は質素簡略を旨とすること
 (へ)被露宴の招待は近親者に限ること 但し遠親者に対しては挨拶状を差出すこと
 (ト)新婦及び聟養子の入籍手続は結婚式挙行と同時に之を行うこと
 (チ)婚儀に附随する悪風を打破すること
 (リ)婚儀には植樹、副業、貯蓄等により予め積立ておき一時に多額の出費をなさゞるよう心掛けること
 (ヌ)葬儀に際し濫りに飲食する弊風を打破し飲酒は絶対に禁ずること
 (ル)香奠の額は農家組合に於て協定しおくこと
 (オ)香奠返えしは成る可く之を廃止すること
 (ワ)布施の額は農家組合に於て予め標準を定めおくこと
 (カ)冠婚葬祭の際に農家組合員中より委員を選び委員は当家の資産収入を基礎とし其の家族とも協定の上 挙式の設備、献
   立、謝礼等を決定し之を実施すること
 (ヨ)節約したる冠婚葬祭費は進んで社会施設に寄附すること
 (タ)冠婚葬祭に要する器具器物は農家組合に於て設備しおき之を利用せしむること

     農家生活改善懇談会協定事項
一 農家組合の主婦をして台所改善講を組織せしめ其の講金を抽籤の方法により改善資金に充当すること
二 台所改善の掛金は婦女子の副業収入によることゝし台所改善の為に特に支出を為さゞること
三 農家組合又は町村農会主催のもとに台所改善研究懇談会を開催すること
四 農家組合又は町村農会主催のもとに台所品評会を開催すること
五 農家組合又は町村農会主催のもとに台所の相互視察をなすこと
六 町村農会又は郡市農会主催のもとに数回 定日に台所デーを開催し当日一斉に台所清潔整頓を徹底的に励行すること
七 町村農会又は郡市農会主催のもとに台所改善の先進地を視察すること
八 農家組合の組合員中の適当なる者をして率先して台所の改善を為し他の模範たらしむるよう奨励すること
九 郡市町村農会は其の地方に適切なる模範台所の設計図を作成し之を一般の閲覧に供すること
十 差当り改善を要すべき箇所
 (イ)窓戸の位置構造を改良して採光換気に便ならしむること
 (ロ)何かまどは西洋かまど 或は之に準じたものに改め特に燃料の経済に意を用うること
 (ハ)かまどには必ず煙突を設け煙が室内に停滞せざるよう改めること
 (二)流し場は排温防水に便ならしめるように改造すること