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愛媛県史 地誌Ⅱ(南予)(昭和60年3月31日発行)

七 文化の里と法華津峠


 文化の里

 宇和町の観光資源では、文化的観光資源にすぐれたものが多い(図4―11)。まず卯之町の市街地付近では、中ノ町(なかのちょう)に江戸時代以来の古い町並が保存されており、それに接する本町には二宮敬作住居跡、高野長英の隠れ家など、江戸時代の歴史をしのぶ遺跡や建造物もある。また中ノ町の中央付近の跡地を山手に登ったところには、明治初期に建造された開明学校がある。このような歴史的建造物に富む卯之町の地は、その歴史的遺産を保存し、それを活用することによって、地域住民の文化意識の高揚をはかるものとして、昭和四八年六月愛媛県から「宇和文化の里」として指定された。
 「宇和文化の里」の主な見学場所には、申義堂・歴史民俗資料館・民具館・中ノ町の町並み、薬草園などがある(図4―11)。申義堂は八幡浜市舌間の儒学者左氏珠山が宇和の子弟に教育をさずけるために、文久三年(一八六三)開設した私塾である。昭和四九年に修復された木造平屋建の建物は往時の姿をとどめている。開明学校は明治五年(一八七二)の学制公布後、同一五年(一八八二)に建設された小学校である。洋風のアーチ窓と白壁造の木造二階建の校舎は、西日本最古のものとして、昭和四八年に修復された。歴史民俗資料館は開明学校の一角に大正時代まであったアーチ型の窓を配した建物が昭和五〇年に復元されたもので、館内には宇和盆地の各遺跡から出土した約八〇〇点にのぼる遺物が保管されている。民具館は中ノ町に面したプレス工場の建物が昭和五二年から転用されたものであり、昭和四八年「宇和文化の里」に指定されたのを機会に、町内から収集された約二〇〇〇点の民具や農具が陳列されており、類似の民具館としては県下屈指の展示内容を誇る。
 中ノ町には江戸後期から明治初期の建物が二〇軒余も並び壮観である。中ノ町に接する本町には、天保五年(一八三四)時の庄屋鳥居半兵衛が建てた総ケヤキ造りの門構があり、鳥居門と呼ばれている。この門の筋向いにシーボルトの門下生で、蘭方医・蘭学者として名をはせた二宮敬作の住居跡がある。彼は天保四年(一八二三)から安政二年(一八五五)の間、この地で医療活動に従事した。その奥の路地を入ったところに幕末の蘭学者高野長英の隠れ家(県指定文化財)がある。「夢物語」をあらわし、幕府の忌にふれて獄中にあった長英が、獄舎の焼失を機会に脱走、宇和島藩に潜行していたあいだの一時期、嘉永二年(一八四九)二宮敬作にかくまわれたところである。薬草園は二宮敬作が各種の薬草を栽培していたことにちなんで、昭和五一年その故地に一二〇種の薬草を栽培しているものである。

 法華津峠

 宇和町の自然的観光資源として最も有名なものは法華津峠である。この峠に馬車道が開通したのは明治三四年(一九〇一)である。大正中期になると自動車の通行が開始され、以後南予の交通幹線となる。峠は標高三九六mの法華津山脈の鞍部にある。この山脈の南側には西南日本有数の大断層線である仏像構造線が走っている。峠を少し南に下った所に崖上の小公園があり、ここからの宇和海の眺望は絶景である。巌頭には西村清雄の讃美歌(四〇四番、一九〇三年)をきざんだ「山路こえて ひとりゆけど 主の手にすがれる 身はやすけし」の歌碑が建っている。峠一帯は昭和三九年足摺国定公園の区域に編入され、同四七年には足摺宇和海国立公園の一角に昇格した。
 法華津峠には昭和三三年展望台が完成、同年には宇和町の冨士廼家旅館が法華津山荘を建設し、観光開発が進展する。国道五六号ぞいでは、宇和海の眺望に最もすぐれた地点として、観光客で大いににぎわった。しかしながら、昭和五五年標高一六〇mの地点に国道五六号の法華津隧道が完成して以降は、観光客は激減し、法華津山荘も撤収された。

 観光客の入込

 宇和町の観光客の入込数は、昭和五八年現在五万八千人と推定されている。うち八六%に当たる五万人は日帰り客であり、町内に宿泊するものはあまり見られない。観光客が多く訪れるところは、四三番札所の明石寺と宇和文化の里である。明石寺を訪れるものは四国巡礼の参拝者で、県外客が多いのに対して、「宇和文化の里」は県内客の訪れる者が多い。文化の里の中心地にある開明学校の入館者数は、昭和五八年には一・一万人を数える(表4―11)。うち六七%は団体客であるが、その発地をみると、七〇%までは南予の各市町村からである。宇和町では、昭和五二年から町花のレンゲにちなんで、レンゲ祭りを催し、観光客の誘致などに力を注いでいるが、いまだ地方的な観光地からの脱却ははかられていない。




図4-11 宇和文化の里

図4-11 宇和文化の里


表4-11 宇和町開明学校の入館者数

表4-11 宇和町開明学校の入館者数