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愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)(昭和63年2月29日発行)

六 新居浜市の都市計画

 東予新産業都市

 新産業都市構想は、大都市への一方的な人口と産業の集中・集積を排除するため、地方に開発の中核拠点を形成することをねらいとするもので、中核拠点の育成、発展により国土の均衡ある発展を図るという、いわゆる拠点開発構想である。
 新産業都市建設促進法の目的条項は、「大都市における人口、産業の過度集中の防止、地域格差の是正とともに雇用安定を図るため、産業の立地条件、都市施設の整備により、その地方の開発の中核となる新産業都市の建設を促進し、ひいては国土の均衡ある発展、国民経済の発展に資する」ために新産業都市を建設すると明記している。
 戦後の経済復興と高度成長を迎えるという社会経済の状勢のなかでは、どちらかといえば工業開発・企業立地のための社会資本の整備ということが前面に押し出されてきたのに対し、人口の地方への定着という側面をも経済的側面と同様に重視することにより、地方都市開発をも視点におくという新しい考え方が強調され、工業開発と地方都市開発の両者を結びつけて、新しい地域開発の戦略とする構想がその根底にある。
 昭和三七年五月四日に成立した「新産業都市建設促進法」に基づいて、翌三八年七月、全国で一五の地区が指定された(七月一二日閣議決定、三九年一月三〇日付正式指定)。道央(北海道)、八戸(青森県)、仙台湾(宮城県)、秋田湾(秋田県)、常磐郡山(福島県)、新潟(新潟県)、松本諏訪(長野県)、富山高岡(富山県)、中海(鳥取県・島根県)、岡山県南(岡山県)、徳島(徳島県)、東予(愛媛県)、大分(大分県)、日向延岡(宮崎県)、不知火・有明・大牟田(福岡県・熊本県)である。
 指定基準として、(一)全国総合開発計画の開発地域に重点をおく、(二)数はおおむね一〇か所程度とする、(三)工業用地が一〇〇〇ha以上、住宅用地が三〇〇ha以上確保できること、(四)目標年次において人口が二〇万人程度、工業出荷額が三〇〇〇億円以上増加する可能性があることの要件が定められ、地区指定の申請が三九道県四四地区にものぼり、猛烈な陳情合戦がくり広げられたうえでの決定である。
 東予新産業都市は、そのうちの一つとして指定されたもので、範囲は越智郡以東、陸地部六市七町三村(今治市、新居浜市、西条市、川之江市、伊予三島市、東予市、宇摩郡新宮村・土居町・別子山村、周桑郡小松町・丹原町、越智郡朝倉村・玉川町・波方町・大西町・菊間町)に及び、面積一四二五平方㎞は愛媛県の二五%に当たり、人口は県全体の三〇%余りを占める(図4-34)。昭和三九年一二月、臨海重化学工業の新規立地の推進、就労者の増加に伴う生活関連施設の整備などを柱とする東予新産業都市建設基本計画(第一次)が総理大臣によって承認され、その後、五二年三月に第二次基本計画が、さらに五六年一二月に第三次基本計画が承認された。
 東予地区は、瀬戸内海地域のほぼ中央に位置し、重化学工業地帯としてすぐれた立地条件を備え、伊予三島・川之江地域の紙パルプ工業、新居浜・西条地域の石油化学、機械金属工業、今治地域のタオル、造船など本県の工業地域として発展してきたものであるが、計画期間中、工業用地の造成、工業用水の開発、交通基盤の整備などが着々と進められた。

 新居浜市における建設整備 

 東予新産都市の中でも名実ともにその中心的な役割を受けもつことになった新居浜市においては、現在ある企業を発展させ、新たに工業を開発して、大都市に流れてゆく人口と産業を歯どめできるように、四国地区の拠点としての都市づくりを進めることが主な役割となった。
 「既存の金属、化学、機械などの工業を中心にして、重化学工業やこれに関係する新しい工業を興して、本市の工業生産額を現在の八〇〇億円から二三〇〇億円にする。」「人口は一三万人から一七万人にする。この労働力は新しい就職者と他の産業から受け入れる。」との目標のもとに、土地利用構想と施設整備計画を立てた(図4-35)。
 このうち、人口一七万人の目標は大きく後退し、横ばいの状況であるが、工業生産額の増加については目標を大幅に達成した。
 土地利用の構想も計画どおり進捗しており、五八年四月一日現在で、上部地区の人口と世帯数はそれぞれ市全体の四二・五%、四〇・八%を占めるに至った。
 多喜浜地区の開発についても、塩田跡地を活用して造成した多喜浜工業団地造成面積一〇八haと黒島臨海工業用地造成事業造成面積三七haが完成し、用地分譲・企業立地も進んだ。現在、垣生工業用地造成事業が進められている。
 都市施設の整備については、三七年の鹿森ダムの完成に続いて、四〇年別子ダム完成、四二年身体障害者福祉センター設置、五〇年新産業道路としての市道前田-多喜浜線完成、五三年ごみ焼却場建設、五四年一〇月新居浜駅舎改築、五五年上水道整備統合第五次拡張事業完了(給水人口一三万人)、教育施設に関して四四年幼稚園新設、四七年川東中学校開校、五二年体育館完成、五六年郷土美術館開館などが実施されたほか、次のような事業状況である。
 国道一一号線と千生川-新居浜線を結ぶ県道壬生川-新居浜-野田線は、昭和六一年一二月二日に、着工以来二一年ぶりで全線が開通し、同日午前一〇時半から白石県知事らが出席して開通式が行われた。
 東港については四一年に港湾計画を策定、現在までに水深五・五m航路泊地及び岸壁二バースが完成し、供用を開始している。フェリー岩壁も六一年度末には完成をみている。
 下水道については、四八年に公共下水道の基本計画を策定して以来、逐次建設され、六六年の完成を目指して事業を進めている。

 東部開発計画

 「東予地区に係る新産業都市の建設基本方針」では、工業開発の目標として、既存の化学工業、化学繊維工業、非鉄金属工業、機械工業等の開発を中心とし、これにあわせて関連産業、地場産業等、新規に立地する工業の開発を促進するものとされている。
 東部開発事業は、工都新居浜市の住工混在を解消し、中小企業の育成と生産基盤の拡充を図り、魅力ある田園工業都市づくりを目指して、新居浜市が進めている一大プロジェクトである(写真4-1・図4-36)。
 多喜浜地区の塩田跡地約一〇八万平方m、黒島地区の臨海部約三万九千平方mの埋め立て造成を核とするもので、新居浜市総合計画(昭和四三年度)、長期総合計画基本構想の策定(四六年)に基づいて進められてきた。
 多喜浜工業団地は、住友化学工業株式会社との協定により、ボーキサイト滓によって埋め立てを行った。昭和四三年一二月一四日漏水防止対策の堤防補強工事を皮切りに、当初五か年計画であったが、用地買収のおくれや、ボーキサイト滓の流送管の故障、あるいは経済事情の変化などによる鉱滓発生量の減少、事業の見直しなどにより延長され、五三年度をもって完成した。投資総額は四四億円である。
 黒島臨海工業用地の造成は、新居浜市東港の港湾計画と相まって開始された。昭和四八年六月三〇日の護岸築造工事着手に始まり、東港の泊地の浚渫土砂の流用によって埋め立てられ、投資額三四億円で、五六年に完成した。
 多喜浜・黒島両地区への企業進出については、石油危機以来の経済情勢の悪化により難航、当初の計画より曲折があったものの、六一年三月現在で用水分譲率九四・六%(多喜浜九九・二%、黒島七七・六%)、土地購入企業一一九社(県外企業八、市外七、市内一〇四)、進出企業一〇七社となり、新興工業団地として形を整えつつある。業種別には、一般機械器具製造業の二八を筆頭に金属製品製造業一二、卸売業一〇、道路貨物運送業九、総合工事業八の順に多種にわたっている。不況の影響で、当初予定していた鉄工、加工関連企業以外の食品、運送、サービス業など第三次産業的な企業も誘致することになった(表4-39)。
 ほかに、垣生工業用地造成事業が、難航した漁業補償の解決を得て、一八億円の投資(予定)によって、六三年四月完成を目指して進められている。大部分を窯業土石製品用地、倉庫用地、木材木製品用地としての利用を計画している。港湾浚渫土砂の利用によって埋め立てる一方、将来計画として、海洋レクリェーションに対応するためのマリーナ基地など、レジャー施設の建設も予定されている。
 環境整備にも力を入れており、黒島臨海工業用地の埋め立てで削り取った黒島山一帯を総合公園として再整備する。総面積は一二万平方mに及び、完成すれば運動公園のほか、ピクニック場、展望台、広場、ローラースケートなどのスポーツ、レジャー施設等を備えた、新居浜市では初めての総合的な市民憩いの場が誕生する予定である。
 新居浜東港の整備は、東部開発計画の一部として、工業団地に隣接する垣生地区の沖合い約二六万平方mを埋め立てて、五〇〇〇トン級フェリー専用岸壁など公共ふ頭四バース、港湾施設と工業用地、漁港関連用地、緑地などを建設する。
 現在、新居浜港には川之江港を経由して神戸港に至るフェリーが就航しているが、港湾施設の未整備から、新居浜港本港地区の企業用地内桟橋においてフェリー旅客のみを取り扱っているため、トラック専用等のフェリー貨物は川之江港か東予港の利用をよぎなくされている状況にある。このためフェリー船の大型化傾向を含めたかたちで、新地点に総合的なフェリーターミナルの整備が求められてきた。
 また、東港地区を中心とする港湾活動、生産物流活動及びレクリェーション活動等の増大に対処し、周辺地域との交通の円滑化に資すると共に有機的な結合を図るため、臨港道路の計画、整備を進めている。

 沢津漁民団地

 沢津漁港は昭和四〇年に漁港指定を受け、漁民団地を併せた漁港として、四一年から建設を進めてきた漁港である。五八年四月に漁港の本格的供用を開始するとともに、漁民団地住宅の建築に着工し、逐次移転建築されている。
 国有海浜地七万三二一三平方mの埋め立てを主とした八万五九〇七平方mで、給油施設、製氷冷蔵施設、加工場などの漁業関連用地と漁民団地一四八戸分がある。すでに一四〇戸について入居が決まっており、残りについても将来入居の見込みがたっている。





図4-34 東予新産業都市建設計画図

図4-34 東予新産業都市建設計画図


図4-35 新居浜市における土地利用計画

図4-35 新居浜市における土地利用計画


図4-36 東部地区開発の概要

図4-36 東部地区開発の概要


表4-39 新居浜市の東部開発の現況

表4-39 新居浜市の東部開発の現況