データベース『えひめの記憶』
瀬戸内の島々の生活文化(平成3年度)
3 島方のタケ・ササ①
地球上の人類が生物社会の一員であるように、路傍の一木一草もまたそうである。タケやササ類はめったに花を咲かせないから、繁殖は本来の生殖器官に頼るわけにはいかなくて、遠方にまで生育面積を倍増することは不可能であった。地下茎を伸ばしては、年々少しずつ増殖して今日に至った。
(1)ビッチュウミヤコザサ
藤田氏(1977年)がビッチュウミヤコザサ(写真2-2-1)を、愛媛県下では初めて、伯方島で自生を記録し、その後、大島・岩城島・大三島・見近島・鵜島・馬島の6島にも、その自生を確認している。
そもそもこのササは、県下でいえば石鎚山系をはじめ、内陸の多雪地帯を本拠としており、およそ瀬戸内海の島々に自生することなどは想像もされなかった。従ってこの自生するササについては、瀬戸内海の成因に関わる事実となりはしないか、大変興味深い。
(2)芸予諸島のササ
ササはタケ科(またはイネ科)の植物で、熱帯から温帯にかけて広く分布し、日本のササ類は、ササ・アズマザサ・スズタケ・ヤダケ・メダケ・カンチクの六つの仲間約200種類が知られている。
愛媛県下にはこの六つの仲間のすべてが自生しているが、芸予諸島には標高1.8~90mにかけて、不思議というか、「なぞ」をもつササを含めて約20種類が分布している(写真2-2-1~2-2-12参照)。
なお、写真の中にも見られるように、ササ類の消長にはいろいろな要因がかかわる。風水害・塩害・干害・クズの蔓延(まんえん)などの自然的要因のほか、人為的要因としては、土地造成による消滅が大きい。
(3)タケ、ササと人々の生活
タケやササ類の人間とのかかわりは極めて深い。モウソウチクのタケノコは季節料理には欠かせない。マダケは質が緻密で粘り気があるので細かく裂くのに適し、建築用材をはじめ、工芸品・装飾品・農具・漁具など、いろいろな方面で利用される。
ササの葉には防腐作用があって菓子などを包む。端午の節句には「ちまき」ザサとして用いられ、また、かつては家畜の飼料にもなった。
島の景観として、マダケ・モウソウチクのあるところは必ず近くに民家があり、人々の生活との結び付きをしのばせる。
写真2-2-1 ビッチュウミヤコザサ (伯方町) |
写真2-2-2 オヌカザサ 塩害で葉が白く枯れている(吉海町)。 |
写真2-2-3 ケナシカシダザサ 宮浦南部の車道沿い(大三島町)。 |
写真2-2-4 ウツクシザサ 森の墓地近く(伯方町)。 |
写真2-2-5 ハコネナンブスズ ミカン園の南緑(岩城村)。 |
写真2-2-6 カシダザサ 船越の東部(岩城村)。 |
写真2-2-7 チトセナンブスズ 小漕港近くで車道造成中(岩城村)。 |
写真2-2-8 アリマコスズ 台の農協近くで風害で枯れ気味(大三島町)。 |
写真2-2-9 フシゲアポイザサ 鵜島港東部(宮窪町)。 |
写真2-2-10 ミハルザサ (上浦町) |