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愛媛県史 社会経済5 社 会(昭和63年3月31日発行)

三 県民社会意識調査から―昭和三〇年頃の実態―

 上述の統計数理研究所による全国的国民性調査は、昭和二八年(一九五三)から二〇年間五年おきに実施された訳であるが、その当初頃、昭和三一年愛媛県立教育研究所で愛媛県全県民を対象とした社会意識調査を行っている。発表は松山商大論集(第九巻第三号)で昭和三三年である。
 戦争終結後一〇年、最早戦後ではないといられながらも、思想の混乱は残滓のように存在し、それが一つの原因ともなって青少年の問題行動が世間の話題となっていた。顕型から原型に移行しようとしていた当時の心理的混乱について、それが社会の底流となって、逆に問題行動に対する意識を弱め、従ってその根絶を拒む結果を招来しているのではないか、それがすべてではないにしても、青少年の内包的危機とともに社会自身反省すべき課題であることは事実である。
 当時文部省もこの問題について検討した結果、小、中学校に特設時間を設けて道徳教育を実施することとしている。アメリカが青少年の不良行動に手を焼いて、日本の家族制度を研究し、日本がそれに刺激せられて旧民法の見直しをしようかと考えている等、さまざまな動きの中で自殺の年齢は一方で低下し、若者の生命軽視の風潮が年をおって拡がったようである。何か成人の施策が宙を飛んでいる間に、厳粛な奔流が静かに流れていく感である。
 この調査は、そうした時勢に底流する種々の行動に対する評価意識を把握しようとしたもので、質問は八〇問からなり、対象は全県を地域別に層化し、中学校六二校を任意に抽出して一、〇八○名を直接対象として選んだ。回収は学校単位で行われたため郵送法としては上々で、七七・六%八三九名がえられ、結果の分析が行われている。
 質問の内容は、個人に関するもの(7)、他人との関係に関するもの(5)、家庭内の問題(7)、学校での問題(6)、国家に関するもの(5)、社会問題(7)、国際的課題(3)の全部で四〇問、それについてそれぞれ積極的行動(家名をあげるためにえらい人になる)と消極的行動(わがままな事をして両親を困らせる)等に対して
  a立派なことだと思う。b時には必要なことだと思う。cあたり前のことと思う。dどうでもよいことと思う。eつまらない事だと思う。f仕方のない事だと思う。g悪いことだと思う。
の七段階に評定するものである。

 結論として

(1) 一般に社会生活における個人の主体性は、漸次確立されつつある。(しかしその反面善悪の観念が薄められているのではないか、と考える節もある。)その傾向は日常生活上の考え方は勿論のこと、身近な政治思想の上にも見出されるが、女性はこの点においてやはり諦め的考え方が強い。
(2) 家族主義に根ざした家本位の考え方は、相当根深いものがある。この流れから後退しようとする努力は、二〇代に強いのは当然のことであるが、女性もまたそれに捉われまいとする考え方を形成しつつある。
(3) 国防問題については、三〇代男性が最も積極的であって、四〇代男性がこれにつぎ、二〇代は遙かに消極的である。女性はさらにそれに輪をかけていることは自然の姿であろう。
(4) 男性と女性で最も差が出ているのは、純潔問題で、女性は当然の事と考え、男性は観念的に善事としている。その差の原因の多くは二〇代であるのは清々しい。その他国防問題、政治問題にも性差が見える。
(5) 年齢差は国防問題に著しい。自衛隊入隊では三〇代四〇代が。〝時に必要〟に対し二〇代は〝どうでもよい〟。国防に協力しかいことは悪いことと三〇代、四〇代は考えているが、二〇代はそれ程でもない。
(6) 三〇代は年齢の上から意識的断層を形成しているやに見える。上述の国防問題以外に政治、家族等についても二〇代、四〇代と不連続な一期を作っている。
(7) 地域的には漁村が他地域と比較して特異である。それは多くの事項にe(つまらない)という解答をしており、ここでの設問事項が、あるいは漁村の現実生活と遊離していたのではないかと反省させられた。
その他設問方式の反省もある。