データベース『えひめの記憶』
面河村誌
(一) 石 鎚
石鎚山へは、上熊渕の奥、左手の石鎚神社の鳥居をくぐり、約一〇キロで、山頂に達する。石段を登り、急な坂路、オオフジシダ・クサノオウバノギク・オオカモメズルが、左右にちらほら目につく。
さらに登って、標高一二〇〇メートルの辺りまでは、多くの闊葉樹の間に、モミ・ツガの巨木が混生していて、昼でも暗いような、密林となっている。ナツツバキの樹膚の美しいのもあちこち。登るにつれて、コメツガ・シコクシラベ・ウラジロモミ・ゴヨウマツの針葉樹が見られ、ついに、イシズチザサの笹原に出る。この笹原のところどころに、ゴヨウマツ・シコクシラベ・ウラジロモミ・花穂のやや長くて太いシコクダケカンバなどの孤立したものや、小群落をつくっているものがある。
標高一七〇〇メートルより上は、シコクシラベ(マツ科)の純林、洪積世寒冷期の残存針葉樹で、四国では石鎚山系と剣山にしか見られない。シコクシラベは、ウラジロモミに比べて葉は軟らかく、果実は少し小形で紫色(ウラジロモミは緑色)、苞鱗は外から見えないから、区別がつかないようでも、よく見ると判別できる。強風のため高さもほぼそろい、独特の風格があり、なんといっても石鎚山系の植物の王者である。約三二ヘクタールの、この大群落は、昭和六年(一九三一)保護林に指定された。
このシコクシラベの林とこの樹の白骨林を見通して石鎚山・天狗岳の眺望は、また、格別である。この林に、多少のウラジロモミ・ゴヨウマツ・ダケカンバが混生しており、樹下にはハリブキ・イシヅチイチゴ・シラネワラビなどの植物も目につく。