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愛媛県史 近世 上(昭和61年1月31日発行)

 現代はまさに転換期である。かつてない豊饒であるにもかかわらず不信と不安がつきまとい、新しい価値とヴィジョンが切に求められている時代である。
 「最良の予言者は、過去である」といわれるように、未来への道標は、歴史を探求することによってのみ、見いたされるものである。とりわけ、転換期における新たな胎動は、常に地方から起こったという歴史的事実に鑑み、地域史こそ歴史の主軸であると言っても過言ではないと思う。
 我々の伊予の国、愛媛は古来我が国の文化と経済の動脈であった瀬戸内海と霊山として崇敬されてきた石鎚の連峰に抱かれ、独自性に満ちた歴史を展開してきた。この歩みと流れの跡をたどり、未来の可能性を見いだすとともに、来るべき時代の個性豊かな発展のための新しい地図を描いてゆくことは、現在の愛媛に生きる者の責務ではないかと思う。
 昭和五十四年の夏に着手した県史編さん事業は、県民の皆様をはじめ多くのかたがたの御協力を得て順調に進行し、昨年までに十八巻を刊行したが、本年は通史編二巻(近世上・近代上)、部門史四巻(教育・芸術・文化財・社会経済1・社会経済3)、資料編一巻(考古)の計七巻を刊行する運びになった。
 本書は通史編の「近世上」で、既刊の通史編「古代Ⅱ・中世」に続く通史編第三巻である。その内容は豊臣秀吉による四国統一後の伊予国の変貌から、江戸時代の幕藩体制下における伊予八藩の歴史について、既刊の資料編「近世上」の政治・経済など多くの資料を踏まえて叙述したもので、各藩の独自の経営をはじめて明らかにしたところに本書の特色がある。
 終わりに、終始御熱心に御指導を賜った顧問の児玉幸多先生、編さんに当たられた近世部会長の伊藤義一先生をはじめ委員の諸先生、また貴重な資料の御提供や有益な御教示をいただいたかたがたに厚くお礼を申し上げる次第である。
  昭和六十一年一月
                        愛媛県知事 白 石 春 樹