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愛媛県史 近世 下(昭和62年2月28日発行)

 現代はまさに転換期であり、渡るべき国際化と情報化の流れは速く、越すべき高齢化の山は高い。だから新しい価値とヴィジョン=地図が切に求められているのである。
 しかし、真に新しいものは歴史に根ざすもののみである。歴史に沈潜し、その精神を体験して見いだされた光によってのみ新しい地図は描かれ、未来への決意は高められるのではないであろうか。
 転換期におげる新しい一つの始まりは、常に地方からであった。この意味で、地域史こそ歴史の主軸であるとも考えられよう。
 我々の伊予の国、愛媛は神宿る高嶺とたたえられてきた石鎚の山並みと、古来我が国の文化と経済を形成した動脈であった青き瀬戸の海に抱かれ、豊かで独自性に満ちた歴史を展開してきた。この歩みと流れの跡を探究し、過去の道統と未来への可能性を見いだすとともに、来るべき時代の人と土地と生の個性豊かな発展のための新しい地図をつくることは、現在の愛媛に生きる者の責務であろうと考える。
 昭和五十四年の夏に着手した県史編さん事業は、県民の皆様をはじめ多くのかたがたの御協力を得て順調に進行し、昨年までに二十五巻を刊行したが、本年は通史編一巻(近世下)、部門史三巻(社会経済4・社会経済6・地誌Ⅱ東予西部)、資料編三巻(幕末維新・近代4・社会経済下)の計七巻を刊行する運びになった。
 本書は通史編「近世下」で、「近世上」に続く通史の第四巻目に当たる。内容的には上巻におげる伊予八藩の藩政の展開を受けた各論ともいうべきものである。すなわち新田開発、別子銅山に代表される諸産業や交通・文教の発達、享保の大飢饉と農民一揆の実態、さらには村・町の庶民生活、宇和島藩をはじめとする幕末期の伊予諸藩の動向から維新期の政情について述べている。
 終わりに、御指導を賜った顧問の児玉幸多先生、編さんに当たられた近世部会長の伊藤義一先生をはじめ委員の諸先生、また貴重な資料の御提供や有益な御教示をいただいたかたがたに厚くお礼を申し上げる次第である。

  昭和六十二年二月

                          愛媛県知事  伊 賀 貞 雪