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愛媛県史 原始・古代Ⅰ(昭和57年3月31日発行)

3 奈良時代後半の寺院

 真導廃寺

 奈良時代以降の寺院跡は調査が十分でない。西村廃寺(宇摩郡土居町)、正法寺跡(新居浜市)、真導廃寺(西条市)、道安寺跡(東予市)、法音寺跡(今治市宅間)、石手寺跡(松山市)、岩木廃寺(東宇和郡宇和町)などが想定されているが今一つ詳らかでない。ここでは調査のおこなわれた真導廃寺について記したい。
 真導廃寺跡は西条市中野にあり、周囲は以前水田であったが現在は工業用水浄水場となっている。
 廃寺跡は加茂川左岸の河岸段丘上に位置し、標高は二五~二六メートルで瀬戸内海の燧灘から直線距離にして約三・五キロである。廃寺跡の敷地は現在、平坦地となっているが、本来は山麓の緩傾斜地にあたり、第二次大戦後、機械力によって平坦化されたという。この場所は面前の西条平野や燧灘を見渡すことができ、また、現在の国道一一号線とほぼ一致する古代の官道にもごく近い交通の要衝にあたっている。
 加茂川流域の原始遺跡は弥生時代の中期後半以後からみられ、中野の河岸段丘上には釜ノ口・中野遺跡などが点在し、殊に対岸の標高一九六・五メートルの八堂山遺跡は高地性遺跡として知られている。古墳時代の遺跡としては保国寺周辺(中野)や船形堂山にもかつて横穴式石室をもつ古墳が数基存在していたといわれる。
 真導廃寺跡の約一キロには名神大社の伊曽乃神社がある。伊曽乃神社は天平神護元年(七六五)に神封一五姻があてられ、従四位下に叙せられ、さらに天慶三年(九四〇)には海賊平定祈願のため正二位の神階を授けられている(続日本紀、新抄格勅符抄、長寛勘文)。伊曽乃神社と本廃寺跡とは何らかの関連を有していたと考えられる。
 当廃寺跡は昭和五〇年、愛媛県教育委員会によって調査がおこなわれ、基壇状遺構と掘立柱建物跡などの遺構が検出されているが、建物跡は奈良時代のものとは断定されておらず、伽藍配置なども明らかにされなかった。しかし、基壇の高さが約三七センチあり、仏式に使用された奈良二彩土器片がその前面に出土していることから推測すると、この基壇は講堂跡の可能性もある。
 出土遺物には奈良二彩片、須恵器、土師器、瓦、鉄器などがある。奈良二彩は基壇状遺構に接した場所から出土した。破片のため器形は不明であるが、緑、黄の彩釉陶器である。仏式の祭器として使用されたものであろう。須恵器は壷、かえりのない蓋、瓶、杯(4)、椀(3)などの器形がみられる。杯は高台付のものもある。
 土師器には、甕、皿、杯(7・8)、高杯がある。皿は胎土が精選され、内外面に赤色顔料を彩色した丹塗土器(10・11)である。瓦は基壇状遺構の周辺から出土した軒丸瓦、軒平瓦、平瓦、丸瓦について報告されている。
 軒丸瓦は三型式ある。第一型式は複弁九弁蓮華文瓦(1・2)であり、内区には子葉はなく、外区に鋸歯文を飾り、周縁は無文である。中房は広く、蓮子は八個である。第二型式は細弁一六弁蓮華文瓦(3)である。外区に連珠文を配している。第三型式は単弁八弁蓮華文瓦(4)で二様式ある。一つは間弁が退化して、花弁間に線状に残り子葉も細線化している。中房も扁平で蓮子は九個で、花弁に対応して配されている。他は前者と同じ手法であるが、間弁は太くなり、子葉も隆起している。第三型式の瓦は当市飯岡の薬師廃寺の軒丸瓦に類似しており、亀ノ甲窯跡(飯岡)との関連が指摘されている。第三型式瓦は真導廃寺を代表する軒丸瓦であり、今のところ県内で類例をみない地方色豊かな瓦である。これらの瓦類は平城京様式の影響がみられるので時代は奈良時代、それも末期に近いものであろう。
 軒平瓦も三型式知られている。第一型式は均整唐草文瓦(5)であるが、中心の飾りは東大寺の軒平瓦にみられる対葉形宝相華文の簡略化したものと思われる。この瓦は伊予国分寺跡出土瓦と同笵であり、その供給窯や笵型の移動が注目される。第二型式は当廃寺跡から最も多く出土する均整唐草文瓦(6)である。内区の中心飾りは平城宮瓦のそれを逆にしたものであり、そこから唐草文が左右に三回反転している。第一、第二型式とも奈良時代後半の軒平瓦である。第三型式も均整唐草文瓦(7)であるが外区には珠文を配している。なお、薬師廃寺跡からも平城宮出土瓦に類似した、外区に珠文をもつ軒平瓦が出土している。平瓦は凸面に縄叩き目痕、凹面に布目痕を残し、丸瓦は有段の玉縁つき瓦である。
 真導廃寺跡の下層面からは縄文時代早期末、弥生時代中期・後期の遺物や鎌倉時代の経塚・瓦類、安土・桃山時代から江戸時代にかけての瓦類などが検出されており、この地域や真導廃寺跡の歴史、生活文化の変遷を物語っている。

5-22 岩木廃寺出土瓦拓影

5-22 岩木廃寺出土瓦拓影


5-23 真導廃寺出土須恵器・土師器実測図(1~5須恵器、6~11土師器)

5-23 真導廃寺出土須恵器・土師器実測図(1~5須恵器、6~11土師器)


5-24 真導廃寺出土瓦拓影

5-24 真導廃寺出土瓦拓影