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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

4 「郷土つくり」の教育

 産業・交通・貿易等の急速な発展と社会情勢の急激な変化により、児童が親とともに転居する数はずいぶん増えてきた。松山市立道後小学校では、昭和五〇年度の児童の転出入者が延べ二七六名(全校児童一、一一〇名)に及んだという。しかもその範囲は、北は北海道、南は鹿児島、そしてアメリカ・タイの外国にまで広がっていた。その年度の卒業生のうち、一年生に入学してから、そのまま本校を卒業した数は、約半数であったという。とにかく転出入が多いのである。つまり、郷土を持たない子供が多くなったということ。
 そこで、道後小学校では、「郷土」を次のように考えた。
  「生まれたところ、必ずしも郷土ではない。長く住んでいたところ、必ずしも郷土ではない。人間形成に最も影響を与えたところが郷土である」
と考え、「郷土つくり」の教育を展開した。それは、親たち・子供たち・教師たちが、磨き合いと心のふれ合いを大切にする教育で、子供たち各自に楽しい思い出をつくってやることである。
 同校発行のPTA新聞「どうご」(昭和五〇年一二月二五日)に、校長玉井通孝は、「望ましい学級PTAのあり方」と題して「ふるさとつくり」のことを次のように書いている。
    (前略)このように転出入を繰り返し、郷土を持だない子供にも、私は「ふるさとつくり」をしてやりたいのです。
  すなわち、「道後小学校に入学・転入してよかった。道後小学校にいる間の生活が、一生の思い出になった」と深い感勤を持つ子供たちに育てたいと思います。
   本校学級PTAのあり方は、子供たちすべてに、「ふるさとつくり」をしてやるために、それぞれ学級の親たちが、「一人はみんなのために、みんなは一人のために」と、お互いが心の交流を図りながら、磨き合い育ち合いをしていく姿ではないでしょうか。
   自分の子供が伸びることを喜ばない親は一人もありません。わが子が、「みんな」を考えた子供として伸びるためには、学級のすべての子供が心身ともに健康に育っていくことです。
   そのためには、参観日辛懇談会に、どの子の親も出席していただきたいと思います。お互いにあたたかい声をかけ合いながら誘い合っていただきたいのです。もし出席できなかった親があれば、話し合いの様子を知らせてあげてほしいのです。これは、「一人はみんなのために」ということの実践です。
   また、新しく転入した子供がいれば、その子の親に、学校の特色や学級のふんいきを、みんなが話して早く学級PTAの一員になっていただくことです。子供のことで心配している親があれば、みんなで心配してあげたいのです。これは、「みんなは一人のために」ということの実践です。
   このように、学級の親たちが、「善意」と「感謝」と「譲歩」を大切にしあって共に育ち合っていけば、「かにかくに 道後の里は恋しかり」という感動を、子供も親も持つようになると思います。「ふるさとつくり」は学級PTAの姿ではないでしょうか。「思いやり」を与え合ってください。

 このような、道後小学校の「ふるさとつくり」は、これからの郷土教育のあり方に大きな示唆を与えるであろう。