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愛媛県史 教 育(昭和61年3月31日発行)

2 道徳教育

 戦後の教育改革と道徳教育

昭和二〇年(一九四五)九月一五目、文部省は占領下において、「新日本建設ノ教育方針」を公表した。次いで同年一二月三一日には、「修身・日本歴史及ビ地理停止二関スル件」の指令を出して、すべての学校において、修身・日本歴史及び地理の課程を即時中止することを命じたのである。
 愛媛県では、同二一年一月九日に社寺教学課長から中等学校長・支庁教育課長・地方事務所視学・市教育課長あてに、「修身・国史・地理ノ教授二関スル件」について、とりあえず通知を出している。
 文部省の「国民学校公民教師用書」には、「これまでの修身教育は、深く反省して改革しなければならない時になっていたということは、だれでも、これを認めることができよう」と、修身教育が停止される以前に新しい方向が目指されていた。したがって、司令部の了解の下に授業が再開されるまで、公民教育の中で、当分これによって道徳教育を行うものとしている。
 同二二年、学校教育法が公布され、翌年には愛媛県教育委員会事務局が設置されて、新しい指導方針が示されるようになった。同二九年の重点方針を見ると、「学校教育・社会教育の一体性に立ち民主教育の徹底に努め、情操陶冶と道義の高揚をはかる。」を項に掲げて、道徳教育の徹底・校外生活指導の強化・教育環境の美化などが指導方針として確立されている。
 同三一年に「地方教育行政の組織及運営に関する法律」が成立して以来、教育委員会の運営も次第に安定してきている。同四〇年度の教育基本方針を見ると、愛媛県政の課題である「生産福祉県づくり」に即応する心身ともに健康な県民の育成を期して、第一に「児童・生徒の能力、適性、進路等に応じた適正な教育を行い、人的能力の開発と徳性のかん養につとめる」を掲げ、その(一)に、道徳教育・生徒指導の徹底をあげている。
 昭和二四年に公布された「教育職員免許法」並びに「教育職員免許法施行法」によって、専門職制が確立されている。その後、改正が行われ、同三四年の免許法施行規則の一部改正によって、単位の修得方法が変わり、小・中学校の普通免許状の取得に当たっては、一般教育課目の人文科学で「倫理」「哲学」「宗教」のうち一科目につき二単位を、また教職専門科目として「道徳教育の研究」を二級では一単位を、一級では二単位を必須としている。
 新学制の実施に当たって、教育課程は大きく改められたが、修身はついに停止のままであり、道徳教育は公民科を中心に実施されることになったのである。

 道徳教育実施の手引

昭和二六年に教育課程審議会の答申に基づいて、「道徳教育のための手びき要綱」が発表され、愛媛県においても、同二七年に「道徳教育実施の手引」を編集して、本県における道徳教育のよりどころとなるものを刊行している。なお、道徳教育の振興については、同二四年度から学校指導の重点目標に加え、同二七年には、松山市において道徳教育研究大会を開催している。
 中学校においても、同三〇年度に改訂し、道徳教育に対する社会科の役割を重視するようになっている。

 道徳の時間の特設

昭和三二年に、日本教育学会・教育政策特別委員会より「道徳教育に関する問題点」として、現行制度の下における道徳教育の問題点が指摘され、同三三年には、教育課程審議会より「小学校・中学校教育課程の改善について」答申がなされた。改訂方針の中に、道徳を教育課程に含むとして、「道徳の時間」は、毎学年、毎週一時間以上行うこととしている。しかし、従来の意味における教科としては取り扱わないことになっている。また、道徳の特設時間について、その趣旨・指導目標・指導法を別紙の形で明示している。
 愛媛県では、「小学校・中学校における「道徳の実施要綱について」という文部事務次官通達に基づいて、その指導伝達を行い、昭和三三年度から各校において「道徳の時間」は実施されることになった。
 「道徳の時間」は、教育課程の中に明確に位置づけられ、他の領域における道徳教育と相まって、道徳性の内面化を図ることを目指すこととなった。中学校においては、小学校の場合とほぼ同様であるが、特別教育活動と「道徳の時間」との関連を明らかにしており、高等学校においては、道徳教育の充実強化のために、社会科の一科目として倫理・社会をおくとともに、特別教育活動その他における生徒指導を充実することになった。

 道徳教育の充実策

愛媛県では、文部省の教育内容の改訂に伴って学校指導が行われ、その内容も充実の方向がとられている。昭和二四年度の重点目標の中に、道徳教育の振興を掲げており、同三三年度には、道徳教育のための時間特設に伴い、教員の道徳観の確立と道徳教育指導方法の研究に努めることを掲げている。同三六年度になると、小・中学校及び幼児教育の重点項目の第一に、道徳教育の徹底をあげ、教員の道徳観の確立と学校における道徳教育の研究を推進する方向を示している。同四○年度の重点目標を見ると、小・中学校教育の中で、教育課程に基づく正常な教育の充実徹底を期するために、道徳教育と生徒指導の徹底をあげ、教育者の道徳観を確立し、人間尊重の精神と宗教的情操及び勤労と奉仕の精神などのかん養を中核としている。
 また、同四〇年度には、はじめて道徳教育研究学校が指定され、発表会を通じて研究を深めている。最初の研究学校は、文部省指定道徳教育研究学校として、今治市立常盤小学校・宇和島市立明倫小学校・新居浜市立南中学校・温泉郡久谷村立久谷中学校が発表会を開催しており、県教育委員会指定の道徳教育研究学校として、伊予三島市立中曽根小学校・八幡浜市立愛宕中学校が発表会を持っている。
 愛媛県教育委員会は、文部省の指導を伝達する形で道徳教育講習会を開催し、県内三地区で道徳教育上の当面の諸問題について指導をしている。その方法も講義中心から公開授業を伴う実践的な講習会に変わってきており、昭和五九年度から文部省の中央及び地区の講習会を「道徳教育校長等指導者養成実践講座」と改めて、県においても同様の名称で、公開授業と受講伝達・指導が行われている。
 また、各学校の研修や個人の指導の手引きとして、昭和三八年度より道徳指導資料を作成して各学校に配布している。同五九年度の発行で、二一集を数えている。道徳の時間が特設されてから、道徳指導上の諸問題にかかおる特集を、文部省指定の研究学校ができてからは、研究成果を全県に紹介する形で指導資料を作成している。
 代表的な特集をあげると、同三九年に「道徳資料としての児童作文」、同四〇年に「道徳資料としての生徒作文」、同四一年に「主題の構成と資料」、同四五年に「道徳指導のための郷土資料」、同五三年度に「道徳指導における資料の活用」、同五五年度に「道徳教育の指導計画」、同五七年度に「道徳の授業ー価値の主体的自覚を目指す授業の工夫」、同五九年度に「道徳教育の充実を目指して―基本的生活習慣の育成」が発行されている。
 道徳教育の充実・徹底策として、県下の各小・中学校に全体計画及び年間指導計画の提出を求め、道徳教育の実施状況の浸透を図っている。

 道徳教育の研究活動

 昭和四〇年度以降の文部省指定道徳教育研究学校の研究の実情を見ると、同四九年度まで小学校・中学校それぞれ三校ずつ単独指定が行われ、二か年の研究を行い、学校ごとに研究発表会を持っている。研究主題の傾向としては、当初は、資料の選定と活用、主題の構成、発問の研究であったが、同四六・四七年度になると、道徳の時間の指導と学級指導の関連、視聴覚教材の活用、自主性・実践力の育成について、実践的に研究している。単独校研究の最後になった同四八・四九年度においては、道徳の時間の指導方法の研究、規律正しい生活態度や強い意志を育てる道徳指導の研究が行われている。
 同五〇年度から、文部省は道徳教育協同推進校として地域指定に改め、市町村の小・中学校二~七校が連携して、地域ぐるみの道徳教育研究を行うようになった。地域指定を受けた市町村は、同五〇・五一年度北宇和郡吉田町と越智郡菊間町、同五二・五三年度西条市と喜多郡五十崎町、同五四・五五年度上浮穴郡柳谷村と南宇和郡御荘町、同五六・五七年度八幡浜市、同五六・五七・五八年度越智郡朝倉村、同五八・五九年度新居浜市である。
 愛媛県で開催された研究大会は、昭和四三年一〇月に第二回四国小・中学校道徳教育研究大会と、同五三年一一月に第六回愛媛大会をいずれも松山市で開催し、愛媛の道徳教育研究の成果を発表している。
 愛媛県教育研究所においては、昭和二五年より道徳教育研究を行い、研究紀要にその成果を掲載している。同二九・三〇年には、道徳教育特集を、同四〇年に所員木戸保の「道徳指導の構造的研究」を特集として紀要を発行している。同四一年度に愛媛県教育センターに改称しているが、研究は一貫して継承し、同四二年には所員森岡卓也による「道徳的価値の分析」、同所員木村三千人による「道徳時間の評価」の研究が行われている。
 同五七年度より愛媛県総合教育センターに改称し、道徳教育研究と併せて教職経験者の基礎講座を設けて指導に当たっている。
 愛媛県教育研究協議会が創立された、その翌昭和三六年に、道徳委員会の組織的な研究活動が始まっている。毎年度研究主題を掲げて、各校・各支部での道徳教育研究を方向づけている。愛媛県教育研究大会の際には、道徳部会を設けて、研究の交流を図っており、第二回四国小・中学校道徳教育研究大会を契機として、愛媛の道徳教育を見直し、研究集録「愛媛の道徳教育」第一集を刊行した。同四七年度の第二集以降、毎年研究集録を発行し、一年間の個人及び学校の研究成果と各支部の研究活動を集録して、研究の積み上げと研究交流を行っている。同五三年度より新企画による『愛媛県道徳教育情報』を編集し、道徳委員会の役員紹介や県内外の道徳教育研究を速報版の形で発行している。同五三年度には、豊かな人間性を育てる道徳教育を大会主題に、第六回四国小・中学校道徳教育研究大会を松山市において開催した。