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愛媛県史 文 学(昭和59年3月31日発行)

5 「四国文学」創刊

 県下で同人雑誌「四国文学」が創刊されたのは、明治四二年五月のことである。発行兼編集人は福田勝太郎。発行所は四国文学社。B5判で三、四〇ページ。写生文(寒川鼠骨選)・漢詩(福田横秋選)・俳句(内藤鳴雪・村上霽月等が選)・新体詩(与謝野寛・服部嘉香選)・短歌(若山牧水選)・小品文短編小説(編輯局選)など多様なジャンルにわたって募集した。第一巻五号の巻頭に服部嘉香の「地方雑誌と郷土芸術」と題する評論を載せている。これは伊予日々新聞の「田舎者には文学は無用」という匿名記事に対する反論として書かれたものである。その中で嘉香は「『四国文学』は、四国を舞台とした文学の為めに特に準備的の壇場を与えるといふ意味に於て十分存在の価値がある」「全体として郷土的特色の鮮明な雑誌を作れば可い」「人生は都会に限った事は無い、都会以外の社会だからと云って立派な人生である」と記している。服部嘉香(明治一九 一八八六~昭和五〇 一九七五)は、松山市(東京生まれ)出身、早稲田大学英文科卒。英字新聞記者・関西大学教授・早稲田大学教授歴任。日本詩人クラブ理事長。現代詩・短歌・評論・国語学等に関する多くの著作がある。
 同巻六号には、越智二良が「自己修飾の悲哀」と題して近代的自我の問題をとり上げている。二良(明治二四 一八九一~)は松山生まれ。「四国文学」の実際上の編集者であった。海南新聞記者・朝日新聞大阪本社学芸部長などを勤め、のち柳原極堂らと子規の顕彰につとめ、現在松山子規会長。
 なお、同巻九号の「現代四国文士録」は、当時の文学状況をよく伝えている。人名だけを列挙すると、
  香川県 谷本梨庵  小島烏水
  高知県 馬場孤蝶  幸徳秋水  田岡嶺雲  田村松魚  中内蝶二  大町桂月  愛媛県 内藤鳴雪  河東碧梧桐 高浜虚子  服部嘉香  大和田建樹 安倍能成  片上天弦  木村鷹太郎 押川春浪
ほかに、須藤南翠・桜井鴎村などにも注目している。