データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 県 政(昭和63年11月30日発行)
5 南予水資源開発事業の進展
開発計画の大要
海岸部・内陸部に二分される南予地域の山脈迫る海岸部は、いわゆるリアス式海岸を形成し、平地は少なく段畑地域となっている。河川は流域面積の狭小な急流で、干天時における保水力は極めて乏しい。一方、内陸部は、東西に走る四国山脈によって、肱川水系と渡川水系に二分される。
肱川水系は、東宇和郡の鳥坂峠を源として、流域面積は比較的広く、その九一%は山地であるが、その割合には河床勾配が緩く、流れは比較的緩慢である。
この地域は、年間降雨量、一、五〇〇~一、七〇〇ミリ、高温多雨地帯であり気象的に農作物の栽培には適し、果樹類の栽培も盛んである。また、常襲する台風による出水・氾濫の被害も多く、古くから、治水利水事業が進められて来た。
しかし、へき遠の南予地域は、交通網の整備、水資源開発など、地域経済発展のための基盤整備は、東・中予地域に比して遅れていたため、数々の振興施策の展開にもかかわらず、低開発地域としての位置づけが一般的であった。これから脱却し第一次産業の高度化・工業化の促進、レクリエーション都市の建設などを実現してゆくには、まず抜本的な水資源開発が南予開発の決め手となった。
南予水資源開発計画は、南予地域に残された唯一最大の水資源である肱川水系の総合開発を中核とし、周辺関連の開発をはかることによって、新しい南予開発の基盤を築こうとするものである。それには、南予地域の農業用水及び昭和六〇年におげる都市用水の新規需要量を想定して、これを確保するために、肱川水系の総合開発と併せて岩松川・僧都川の開発を行おうとするものであるが、ただ、これらの県内河川のみでは、新規用水の供給にはなお不足である。そこで、不足水量については、四国地方建設局が当時調査中の渡川水系の広域開発即ち高知県との分水問題が必然的に登場してきた。また、本計画とのより広域的な視野において、中予地域の新規生活用水の確保も構想されている。各地域別の水源は次のとおりである。
① 宇和島・八幡浜周辺地域は、肱川自流、及び、渡川取水の一部を野村ダムで確保し供給する。
② 肱川流域は、肱川自流の調整により確保される水量を供給する。
③ 中予地域は、肱川流量を河口堰で確保する。
④ 津島周辺地域は、岩松川水系の開発を検討し、用水源を確保する。
⑤ 御荘周辺地域は、僧都川水系の大久保山ダムで確保し供給する。
⑥ 北宇和郡の鬼北地域、広見川水系からの取水を検討し、用水源を確保する。
この壮大な計画のうち渡川の広域開発は、高知県側流域の合意が得られず建設省の調査も中断されて現在に至っている。
南予用水事業
〈野村ダムと配水計画〉 野村ダムは、肱川水系の洪水調節を図るとともに、下流既得水利及び維持用水を確保し、さらに、農業用水及び都市用水を供給する目的をもって、肱川(野村町)に建設するものである。
このダムの建設によって、既設の鹿野川ダムとあわせて、下流の洪水調節を行い、大洲市・野村町など、下流地域の洪水被害を防止し、上流宇和町地域には河川改修で洪水防御を行うこととなった。また、宇和島市・八幡浜市など二市七町のみかん畑、約五、六七〇ヘクタールのかんがい用水を補給し、さらに宇和島市・八幡浜市など二市八町、給水人口約一六万人に水道用水を供給する。
なお、南予用水事業の総事業費はダム建設・共同幹線水路・農業専用施設・上水道専用施設を含めて約五二五億円である。
こうして、野村ダムは、建設省四国地方建設局によって四六年に実施調査に入り、翌四八年に工事に着手、五六年度完成した。
なお、関連事業として、農林省による南予地区国営土地改良事業と、南予水道企業団による水道事業が行われている。
〈南予地域国営かんがい排水事業〉 南予地域は、全国でも有数の果樹生産地帯であるが、その樹園地は急傾斜の段畑であり、かんがい施設は皆無に近く、ほとんどが天水を利用しているため、常に干ぱつの脅威にさらされている。したがって、樹園地用水施設を整備し近代的な農業経営の基盤整備を図ることは、地域住民の多年の願望であった。昭和四二年、農林省は広域農業開発基本調査を開始、一方、県も同四二年の大干ばつを契機として、昭和四五年に南予水資源開発計画を策定し、この事業を県政の最重要施策として積極的に推進することとした。
農林省は、昭和四六~四七年に南予用水地区計画調査、四八年度に全国実施設計を行い、四九年八月宇和島市・八幡浜市・保内町・伊方町・瀬戸町・三崎町・三瓶町・明浜町・吉田町の関係市町長から国営土地改良事業施行申請が県を経て、同月農林大臣に進達された。また、事業の早急円滑な実施を図るため、同関係市町長から、この事業を昭和五一年度から特定土地改良工事特別会計によって実施する旨の申請が五一年四月承認され、事業は本格的に進められることとなった。
この計画は、南予地域の海岸部樹園地を受益地として恒久的な用水を確保するため、特定多目的ダムとして建設される野村ダムを水源として取水施設を設け、最大三、五〇二立方メートル/秒(上水道用水を含む場合は三、九九二立方メートル/秒)を取水し、法華津山脈を約六・四キロメートルの導水トンネルで斜断して、北宇和郡吉田町大河内地点に導き、これより南・北に延びる幹線水路によって、北幹線は西宇和郡三崎町まで延長約六六・一キロメートル、南幹線は宇和島市三浦まで延長約二四・七キロメートルを導水し、受益面積五、六七三ヘクタールの樹園地にかんがい用水の供給を行うものであり、これら幹線水路は大部分、上水道用水との共同事業として施行される。
なお、国営事業に付帯する末端のかんがい施設は、県営またぱ団体営事業によって行われているが、国営事業の着工が四九年度であり、完了が六六年度の見込みであるので、付帯事業は、五〇年度から順次着手されているが、全工事の完工は、国営事業完了後の二~三年後を目標としている。
須賀川総合開発
須賀川は、その源を宇和島市の泉ヶ森に発して市内を貫流して宇和島湾に注いでいるが、流域面積は三
六・九平方キロメートル、延長一一・三キロメートルの二級河川で、上流は比較的急竣な山間部を縫って流れており、下流は広い平地となっている。この地方の年間降雨量は、平均一、六〇〇ミリから一、七〇〇ミリ程度であるが、豊後水道に面して、台風の常襲経路にあるため、常に洪水の危険をはらみ、洪水による被害は甚大であった。また一方、二か月間にわたって降雨のない日が続くなど非常に不安定な気象状況下にあり、須賀川は、この地方にとって、洪水の危険と同時に生活用水の重要な水源としての役割をも担っている。
こうした情況の中で、県は、須賀川総合開発計画を策定し、宇和島市柿原地先に多目的ダムとしての須賀川ダムの建設を進め、昭和四八年工事着工、五一年度完成を見た。このダムの完成によって、下流宇和島市街地域の水害を防除すると共に、ダム地点において、新たに、最大二〇、三〇四立方メートル/日の上水道用水を補給することが可能となり宇和島市の常習化した上水道の夏季断水は一応解消された。
なお総事業費はダム建設・上水道施設費合わせて七七億八、〇〇〇万円余である。
岩松川総合開発
岩松川は、北宇和郡津島町の音無山に源を発し、北灘湾に注いでいる延長一五・二キロメートルの二級河川で、古くから災害の多い川であり、県営河川改修は二九年一部未完成でストップしており、抜本的な治水対策が地元の強い要望であった。また、近年は南レク都市など観光開発、国道五六号の改修、津島町市街地の形成、生活水準の向上などに伴い、生活用水の需要が増加し、農業用水も年々樹園地の増加で常に水不足に悩まされていた。
県は、こうした情況の中で、洪水被害の軽減と農業用水・上水道用水の確保をはかることによって、民生の安定と地域産業の振興に役立てようと、岩松川総合開発事業を計画した。四二年以降三か年、県が単独調査を行い、四七、四八年の両年度に、国の補助による実施計画調査を行った。こうして、ダムの建設計画は順調に進み、昭和四九年岩松川水系御代の川の津島町山財地先に、多目的ダムとして山財ダムの建設に着工し、五五年度完成した。
このダムの完成によって、ダム地点下流の流水の正常な機能の維持を図るとともに、津島町及び宇和島市宇和海、内海村地区の上水道用水の補給と、津島町及び宇和島市宇和海地区の樹園地七七八ヘクタールのかんがい用水の供給が可能となった。また、関連事業として、県営のかんがい排水事業と津島水道企業団による上水道用水事業が行われ、導水路・幹支線水路などの総延長約六〇キロメートルが建設された。
なおダム・共同幹線水路・農業専用施設・上水道専用施設の総事業費は一六七億七、〇〇〇万円余である。
僧都川水系開発
南宇和郡の御荘・城辺・一本松及び西海の各町は、南予水資源開発計画の中の僧都川水系開発計画区域
である。この僧都川流域は、地形が急竣で鉄砲水の流出被害の一方、例年のように干ばつの被害を受け、農業用水のみならず一般の生活用水においても、この地域の生活用水の水源は殆ど地下水及び渓流水に依存しており、近年は生活文化の向上にともない、例年水不足に悩まされていた。
県は、僧都川水系開発計画を定め、農業用水系統の確立によって農業経営の安定と合理化を図るとともに、地域住民の生活用水を確保するため、昭和四七年度僧都川支流の大久保地先に県営大久保山ダムの建設に着工し、関連事業の城辺浄水場までの上流及び共通幹線水路を、県営かんがい排水事業として施行した。また、南宇和上水企業団による上水道施設が共同で建設された。
ダムは、中心コアー型ロックフィルムダムで、高さ五五・八メートル、有効貯水量七〇万立方メートルで五四年度に完成した。また、上流及び共通幹線水路延六、〇〇〇メートル、農業専用配水施設二九七・八ヘクタール、上水道施設整備事業(給水人口二〇、八〇〇人)が五七年度に完成した。総事業費は、四一億円余である。
図3-14 南予水資源開発事業計画概要 |