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愛媛県史 社会経済5 社 会(昭和63年3月31日発行)

四 NHK全国県民意識調査報告から

 昭和五三年二月から五月にかけて、NHKは全国を対象に大々的に意識調査を行った。もともと選挙においてある党の支持率が、県によって大きな差がある事実を説明する材料が、土地柄としかいいようがない、その土地柄とは何かという疑問から、それはそれぞれの地域の意識構造が異なっているからではないか。そんなことがきっかけになって調査するようになったという。
 従ってその目的は古くから世間でいわれてきた意識の地域特性とか、県民性といったものが、戦後の急激な社会変動の中で、どのように変化してきたのか、あるいはどんな形で伝承されているのかを全国的規模で比較分析し、日本のなかの意識分布の現状を、領域別・地域別にパターン化することを目的としている。

 調査の概要

 調査内容は、郷土意識、生活意識、生活態度、人間関係、社会・政治意識、道徳観、宗教感情、趣味など多岐にわたり、全国共通問題一〇〇問、その他に都道府県独自の質問を設けている。質問紙には付帯事項として、調査対象の属性、即ち性・年齢・学歴・職業の外、他県居住歴、主な生育県、両親の出身県、現住県居住年数等があがっている。
 方法は個人面接法、対象は二段層化無作為抽出で一都道府県から九〇〇名計四万二、三〇〇名、府県当たりの調査地点は六〇地点全国計二、八二〇地点を対象としている。結果は全国で三万二、四二一名の有効数がえられ回収率は七六%であった。
 愛媛県は有効回答者数七一三名で回収率は七九・二%(全国一一位)、調査は昭和五三年三月四日(土)、五日(日)に実施されている。

 調査結果の概要

 (1) 人びとの意識の地域差は、当初予想していた以上に大きい。四七都道府県の選択肢の反応%の最大と最小の差が、七七問中二一問で二五%を超えている。このことから同じ言葉を用い、同じ服装をし、同じマスコミに接して全く同じように見えながらも、一皮めくると地域差が大きく浮かび上がってくる。外形を画一化していく近代文明の中、それに対抗して地域の文化、風土の性(サガ)が根づよくその独自性を保っているようである。
 (2) 意識の地域特性の中には、歴史的背景(社会文化史的背景)との因果関係が読みとれるものが多い。それぞれの地域によって異なる歴史的条件、たとえば仏教の強い勢力圏に入っていたかどうか、が地方性に大きく関係していること、とりわけ近世の閉鎖的幕藩体制のなかで、藩政のあり方等を反映して成熟していった地方文化が、一〇〇年あまりを経た今日、まだ人びとの心に痕跡を残しているようなことも注目されよう。
 (3) 人口の流動的な部分にも、それぞれの地域の文化の影響がかなり及んでいること。日本人の意識の地域差は、今後の社会変化とともに次第に希釈されていく性質のものと考えられるが、この調査の結果からはこうした意識の地域性はかなり根の深いもので、ある県の特徴はその県の高齢者のみでなく、若い人も含めて同じ傾向が見られ、また代々その県に住んでいる人の特徴であるだけでなく、転入してきた人も比較的短期間に同化して、同じ特徴をもつようになることがあげられる。

 愛媛県民の回答状況

 少し繁雑であるが、全国及び一位の府県との比較のために、全質問に対する反応状況を示して見る。
 この表3-36は質問に対して〝そう思う〟という肯定的反応を示した%で、愛媛県の欄の%の左の数値は全都道府県中の順位、右の数値Rは、統計的意味で、ちょうど小学校の成績評価における相対評価の数値に当たるものである。その数値のないのはその計算の不能の項目である。
 この結果、愛媛県に特徴的なことは、順位全国一位の項目が六項目もあって、徳島県とともに高順位の多い県の一つである。(二位も二つ、三位も三つで、四〇番以降は三件しかない、高知県はそれが七項目ある。反骨精神の現れか。)
 一位の項目を見ると、10A〝おだやかで変化のない生活がしたいと思う。〟全県七九・四%(全国平均七〇・一%)であるが、〝そうは思わない〟は一六・一%、この肯定の高い数値を支えているのは女性で八四・二%、年齢五六歳以上の九五・九%、職業では農業八六・七%、無職九一・五%である。なお地域では中予が最低で、生っ粋の県人も八一・四%ある。
 次は21C〝今の世の中では実力があっても学歴がないと社会は認めてくれない〟全県七〇・一%(全国平均六一・九%)性差余りなし、職業では学生・生徒が八一・六%で最も高い、低いのは販売サービスで四八・四%で、〝そうは思わない〟の方が五一・六%で高い。
 次は24C〝地元の行事や祭りには積極的に参加したい〟全県六四・二%(全国平均は四七・八%)特に東京は三二%で愛媛はその倍の数値である。性差なし、年齢的には高齢程高く五六歳以上では七一・九%、職業では事務技術が最低で五一・五%、地域は南高東低で、生っ粋県人も六九・一%と高い。
 次は26C〝東京は気持ちの上からは自分とは縁遠いところだ〟全県七二・二%(全国平均五一・三%)でかなりの幅がある。男性は余りその感がなく女性は七七・六%と高い。年齢では高齢者にその傾向がつよく、特に女性五六歳以上では八〇・四%となっている。職業では一般作業者八一・八%、家庭婦人八〇・一%で、地域差は余りないが、生粋県人は七三・八%とほぼ平均的である。
 次は29F〝国や役所のすることには従っておいた方がよい〟全県五八・六%(全国平均四五・五%)、性差が約一〇%あり女性は六三・三%。年齢では五六歳以上が七七・二%で高く三〇歳代が四八・六%で最低である。職業では無職が七三・二%で最高で、販売サービスでは肯定か三五・五%、反対が三八・七%で他と逆である。地域の差はないが生っ粋県人は六一・〇%で平均より少し高い。
 一位の最後は道徳観で38C〝夫婦以外の性的関係はゆるせない〟全県八五・八%、(全国平均七八・二%)で、そう大きな差はない。性差は男性七九・〇%に対し女性は九一・八%で、これは自然であろう。年齢的には二〇歳代は七二・六%が肯定、一五・一%が〝そうは思わない〟で、五六歳以上は九四・二%で性意識の差を見せている。(女性の五六歳以上は九五・九%であった。)職業では家庭婦人が九八・六%、農業九〇・四%を示し、地域差はほとんどないが、生っ粋県人は八九・二%となっている。
 二位について10C〝多少自分の考えに合わなくてもみんなの意見に合わせたい〟これは生粋県人が七九・四%で僅かに県平均八〇・二を下まわる。38C〝かけごとは悪いことである〟平均六七・○%で(沖縄が一位で六八・三%となっている。)性差があり女性が七五・七%で一八%高い。この項目については地域差が大きいとされ、東日本がゆるやかで西程厳しい傾向とみている。(次図参照)
 次に三位のを二つ、10H〝初めての人に会うのは気が重い〟女性や中年、技術者に多く出ている。東予人は少なく、南予人に多い。これも偏差値六五以上で全国分布は次図の通りである。一位は東北青森県である。21B〝今の世の中は組織の力が強すぎて個人は無力である〟、男性が実感している。全国的には瀬戸内沿岸に無力感の分布が多い。
 最後に順位は五位ではあるが、偏差値六五以上のを一つ、20A〝子供の教育には金をかけるべきだ〟学歴に対する感覚と同様にさすが教育県といわれる実態を示していると思われる。
 次に四〇位以上の項目を見ると、22〝この地方に自然や気候がきびしくつらいことがあるか〟四一位、24B〝愛媛県人に他県と違って特徴があるか〟四二位、36A〝働くことはつらいことだ〟四一位。これから見ると愛媛県は災害もなく、自然の厳しさもなく、全国的平準化の傾向があって、多くの人は働くことに苦労を感じていない。

 四国他県との類比

 (1) 香川県と愛媛県の似ている項目
  愛媛県と香川県は、同じ瀬戸内に面し、歴史的には文化の通り路としての陽の当たる場所であった。また先述の宮城音弥は気質的に同じ躁うつ型に分類し、多少の差はあるものの共通点が多いと結論している。
 本調査にあっても、四国内でこの二県が順位的にかなり近接し、他の高知県・徳島県は共にかなり距離のある項目が数個あり、二県民の意識の接近を物語るものとして摘出してみる。これらの項目は二県は一〇位前後で他県は多少例外もあるが、多くは二〇位を超える。

  1今住んでいる処は住みよい所だ 7流行おくれのものを着ても気にならない
  9Cふだんの生活をきりつめて金や財産を残す 10B自分の父母を手本に生きたい
  10E自分の主張すべきことも立場が不利の時はだまる 39C神でも仏でも心のよりどころがほしい

 大体伝統的で、現状肯定的姿勢のものである。
 (2) 徳島県と愛媛県の似ている項目
 歴史的には徳島と愛媛は女性的性質をもつ県とされていて、香川と高知が男性として古事記に記されている。作家安岡章太郎は伊予人と阿波人は長頭、土佐人と讃岐人は丸頭で共に共通性があり、それが気持ちの近似に連なると高松で行われた「四国の歴史と文化」のシンポジュームで語られていた。頭の形についての類型には問題があると考えられるが、愛媛と徳島にかなり類似があることは、本調査結果で肯定反応が全国上位にあるものが多く、下位が少ない点でも認められる。が更に反応の内容について二県が近似し、他の香川県、高知県が多少離れている項目を見よう。

  10G年上の人の言うことは自分をおさえても従うほうがよい 11B家庭生活ではひとりひとり好きなことをして過ごすよりも家族の団らんを大切にする 18男と女では全体として能力に差がある 20A子供の教育には生活を切りつめても金をかけるべきだ 24C地元の行事や祭りには積極的に参加したい 29C公共の利益のためには個人の権利が多少制限されてもやむをえない 29E税金があがっても社会福祉をもっと充実せよ 39E死後の世界などあるはずがない

 香川の場合と同様に保守的、平穏主義で一致している。なお愛媛県と高知県と近似している項目は見出せない。

 愛媛県民性の集約

 (1) 伝統への愛着と保守性
  地元で行われる行事や祭りは、その土地の伝統をよく示すものの一つであるが、そういう行事に進んで参加したい人が愛媛は最も多く六四%で、最下位の東京の倍の数値である。
 また自分の住んでいる県に愛着を覚える人も八八%で多い方であるが、県が好きだという人の中には、地元の行事や祭りへの愛着をもつ人が多いためであろう。また昔からのしきたりは尊重すべきと考える人も全国三位で六八・六%、〝なるべくおだやかで、変化のない生活がしたい〟という現状維持の姿勢ともつながるものであろう。又逆に仕事や生活に新しいものをとり入れたいと思うは六六・六%で全国三五位である。
 伝統的なものの重視は、かけごとに対する厳しい姿勢さらに、夫婦以外の性的関係は絶対許されないことだと考える人が、全国一位で八五・八%いるのも共通性がある。
 伝統的考え方は、さらに権威主義的傾向と結びついて、天皇は尊敬すべきだと考える人も多く、国や役所などのいわゆる「お上」には従っておいた方がよいと考える人も、全国一位の高さである。(生っ粋の県人も約九〇%で全国七位である)
 (2) 協調性と人見知り
 瀬戸内海沿岸に共通する点の一つに、多少自分の意見はおさえても、まわりの人たちに協調してゆきたいという生活態度があるが、これが山口についで愛媛は全国で二番目に強い。また自分の立場が不利になるときはだまっているという人も六位だが多い方である。しかし他人に不信感をもっている訳ではなく、隣近所・親せきには信頼感をもってつきあっている人が多い。
 また年上の人とは意見がちがっても従った方がよいと考える人も多く、愛媛県民の特徴は協調性または従順さにあるといえる。
 その反面、初めての人に会うのは気が重いと感じる人も全国三位で多く、これは四国四県に比較的共通で、愛媛県人は、北の青森、西の長崎と同様「人見知り」をする傾向が強いが、これも現状維持傾向と軌を一にしている。
 (3) 社会に対する不満
 価値観や人間関係に、保守主義的特徴を濃くしている愛媛では、今の世の中は組織の力がつよく庶民は無力だと感じる人は、愛知・広島についで三位、競争が激しく、追いかけられていると感じている人も2/3で、自己本位で他人のことに無関心な人が多いとか、義理人情がすたれたと嘆く人も全国七位の高さである。
 このように愛媛の人びとは現代社会の風潮に批判の気持ちをもっているが、さらに実力があっても学歴がなければ今の社会に認められないという不満も全国一強く、そのためか、生活をきりつめてでも子供の教育に金をかけるべきだと考える人は全国五位と多い。
 また遠く離れた東京に対しては、これも中国・四国各県共通であるが疎遠な感じをもち、その割合も愛媛は全国一である。島国のひがみかもしれない。
 (4) 近隣の絆の強い南予
 愛媛は、明治四年の廃藩置県後、一時東予・中予と南予が別の県に分断されていたことがあるが、それが南予の地域差を特徴的にしているのかもしれない。
 南予では七九%の人が隣近所の人とのつき合いが多いとしており、これは東予・中予より約二〇%高い。近隣の絆は強いがそれと裏腹に、未知の人に会うのは気が重いというのが南予で多く、特に「よそ者」ということばが生きていると感じている人も比較的多い。地域内での結束の固さを示しているのであろう。
 また県人意識、つまり自分は愛媛県人だという意識は県全体では二四位で七五・三%都市なみであるが、南予では八七%と多くなっており、東予は二〇%も低く、中予はその中間である。
 愛媛とは「美しい乙女」という意味で、この県を愛する人は県人の約九〇%で、地域差は余りないが、ここでも南予人の方が「好き」の割合が高い。
 (5) 愛媛県人の趣味・嗜好
 愛媛県の〝好きな点は、〟に対する回答は、気候四二・八%(全国二一・七%)や風土の好条件をあげているものが多いが、中でも中予は四八・一%とその温暖・災害の少なさを身に感じている。しかし南予では三〇・七%で少し低い。職業別では販売サービス業は五八・一%と謳歌し、農業は三二・五%ともう一つの感じを示している。
 ところが自然の風景や名所については、全国平均が二八・六%で選択肢中最高であるに係わらず、愛媛は一九・八%と一〇%の差があるが、人情では全国平均を上まわる。これを上げた人は南予で三〇・一%いる。四位は食べものである。
 そこで愛媛県人の好きな食べものは何か、これには魚と野菜が全国平均を上まわり、肉類は少し低い。好きな花であげられた中では、桜、梅、菊が全国平均より高く、洋物は低く出ている。
 好きな音楽は演歌圏の中で、九州とともに浪曲愛好圏に入っている。洋楽は平均を割っているが、洋風歌謡曲は僅かオーバーしている。下図は全国の音楽文化圏の図である。
 次は県民の好きな色で、愛媛が全国平均を上まわって好む色彩はピンク、茶、緑と白である。全国で最も好まれる緑は、愛媛でも1/5の人に選ばれているが、無難で穏やかな色であるからだろう。
 最後に「男性、女性にとって大事な性質は何か」に対する回答を見る。男性は全国では誠実さが三七・八%で一位であり愛媛も一位にあげているが数値は少し下がる。全国平均より上まわっているのは二位のまじめさ、三位のたくましさであり、女性ではやさしさが一位で四四・二%、すなおさが二位で二三・三%、この二つで2/3である。

表3-36 愛媛県民の回答状況(1)

表3-36 愛媛県民の回答状況(1)


表3-37 愛媛県民の回答状況(2)

表3-37 愛媛県民の回答状況(2)


表3-38 愛媛県民の回答状況(3)

表3-38 愛媛県民の回答状況(3)


表3-39 愛媛県民の回答状況(4)

表3-39 愛媛県民の回答状況(4)


図3-56 第10問C 多少自分の考えに合わない点が、あってもみんなの意見に合わせたいと思いますか。

図3-56 第10問C 多少自分の考えに合わない点が、あってもみんなの意見に合わせたいと思いますか。


図3-57 第38問D かけごとは悪いことだと思いますか。

図3-57 第38問D かけごとは悪いことだと思いますか。


図3-58 第10問H はじめての人に会うのは、気が重いですか。

図3-58 第10問H はじめての人に会うのは、気が重いですか。


図3-59 第21問B 今の世の中は、大きな組織の力が強すぎて一人一人の庶民は無力だ。

図3-59 第21問B 今の世の中は、大きな組織の力が強すぎて一人一人の庶民は無力だ。


図3-60 第22問A 子どもの教育には生活をきりつめても金をかけるべきだ。

図3-60 第22問A 子どもの教育には生活をきりつめても金をかけるべきだ。


図3-61 「好きな音楽」文化圏

図3-61 「好きな音楽」文化圏