データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)
三 科学的な計画開拓
地区開拓計画の樹立
開拓事業実施にあたっては、あらかじめ科学的に調査を行ない、その地区を最高度に利用し得る計画を策定し、円滑な事業推進を期すべきことは勿論である。しかしながら、国が実施した緊急開拓事業の根本思想には、かかる意図もあったであろうが、実際に事業を進めた経緯よりすると、これらの根本的な施策を推進せしめることに遺漏な点があったことは否定できないところである。一方、当時の社会的客観情勢は、被占領下で政府独自の政策をすすめることもできず、しかも財政的に行き詰まっていた経済政策の貧困さ、あるいは急速かつ広汎に農地改革を推進しなければならなかった等々の事情があったので、計画開拓についても万全を期せられなかった原因となったとも考えられる。
昭和二三年に至り政府は、この不合理性より惹起せられる各種の障害に対処するため、農林事務次官通達をもって次のような「地区開拓計画の樹立要領」を公布した。
地区開拓計画の樹立要領(要約)
この要領は、開拓事業の総てに対する基本となるものであって、新規開拓地区のみならず既に一部開墾に着手している地区も計画樹立の対象となった。
(1) 開拓の目的は、農業生産の用に供することが国民経済的にみて一層有利な土地は、農業生産に振り向けて、日本経
済の復興に資することにある。そのため土地の地形・地質・土壌・気象及び水源などの自然的条件並びに交通・市場など
の社会的条件に従って土地を合理的かつ最高度に利用して、食糧及びその他農産物の生産をできるだけ多くすると共
に、既存農家の経営の安定を図るためにその耕作面積を増加し、あるいは土地を持たない人びとを入植させて安定した
農家を創設するように計画すること。
(2) 農耕地とすべき土地は、地形及び土壌などの諸条件と災害との関係を考慮して、適当な保全方法を講じなければなら
ない。また、地区外の土地に災害を及ぼさないように計画すること。
(3) その地区開拓に必要欠くことのできない道路・用排水路・防災などの施設で、技術的・経済的にみて、入植者や増反者
自身では実施することのできない施設は、必ずこれを計画しなければならない。但し、その施設は、必要最少限度のもの
とし、経費の節減を図るようにすること。
(4) 地元農家の経営を安定化し、開拓事業を経済的に実施するため地元農家の増反開墾によって開墾する方が適当な土
地は、優先的にこれを増反用地とし、なお土地に余裕がある場合には、新規に入植者を入れて安定した経営を行ない得る
ように計画を樹立すること。増反用地に供する土地は、増反農家がその土地の生産を十分に挙げるものでなければならな
いから、耕作距離があまり遠い土地は望ましくない。また、その面積も増反者がその土地を集約的に経営し得る限度の大
きさであることを要件とすること。
(5) 計画の樹立は、次の基本的な段階に区分すること。
ア 原図の作製
イ 土地の分類
ウ 建設工事計画
エ 営農計画
オ 土地配分計画
カ 地区開拓計画書の作製
なお、この要領により計画を樹立した主要地区の概要は、次表のとおりである。