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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

一 開拓政策の転換


 開拓政策の軌道修正

 緊急開拓事業実施要領は、敗戦後の食糧危機緩和と引き揚げ者・復員者などの帰農対策のための緊急政策として計画されたので、事業着手後一か年の実績を見通した結果、幾多の矛盾とこれに加えて社会情勢、特に経済事情は、急進するインフレと共に事業の進捗を困難にした。他方、自作農創設特別措置法による開拓用地の取得は、既存農家の薪炭林、山林経営者の植林企業などをおびやかす結果となり、全国的にも相当の混乱を来し、地元の親和を阻害するなど事業遂行上、再検討の必要に迫られたので、二二年一〇月、農林省議において従来の緊急開拓事業実施要領に修正を加え、「開拓事業実施要領」を策定し、再発足することとなった。
 開拓事業実施要領において修正された点は次のとおりである。

 第一には、食糧増産と失業対策という敗戦後の必然的に起きて来る重大問題を解決しようとする負荷に、開拓事業が耐えられない実情、端的に言えば開拓事業の困難性は火急を要する食糧供給に応じ兼ね、増産に寄与するには一定の期間を必要とすると共に、海外引き揚げ者・転業者など、農業に全く経験のない人びとの事業としては、単に本人の希望のみによらず、十分な選考をする必要が認められた。そこで政府は、農業施策の根本である安定農家の創設に事業目的を置き換えたこと。
 第二には、開拓事業の成果をできるだけ早く求めるため、新規入植よりむしろ地元増反、即ち既存農家の経営安定のため、耕作面積の拡張に未墾地を充当し、成果をより確実にすると共に、一面開拓用地取得に際して生ずる紛争を避ける措置をとったこと。
 第三には、開拓事業が従来ややもすれば、科学的基礎に基づく計画が欠如し、単に開墾の督励に指導の方針が向けられていたが、今後の開墾地は、ある程度の傾斜と従来の農業知識から見れば、生産性の低い土地であるといわれた未開発地が、対象とならざるを得ないので、事業着手に際しては、投資によって生まれて来る生産性、いわゆる経済効果を期待するため、事業計画は勿論、実施上にも科学的な検討を加えることにしたこと。