データベース『えひめの記憶』
愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)
三 伊予原子力発電所温排水影響調査の実施状況
原発と保全対策
伊方原子力発電所を設置するにあたって、昭和四七年五月一八日伊予灘汚水公害対策協議会(会長大元勝美)と四国電力株式会社(取締役副社長山口恒則)の間で、愛媛海区漁業調整委員会(会長吉住政市)立会のもとに覚書が交され、漁業者の不安を解消し、漁場の実態を把握するため伊方原子力関係海域の調査を愛媛県に要望した。この要望に応えて県では伊方原子力発電所の一号機建設(営業運転開始昭和五二年九月)に伴い、同発電所から排出される冷却用の温排水が付近の漁場に与える影響の有無を調査するため営業運転開始前の漁場環境と漁業実態を把握することとなった。その調査計画の概要は次のとおりである。
(1) 調査期間
事前調査――昭和四八年四月~五二年三月まで四年間
影響調査――昭和五二年四月~五六年三月まで四年間
(2) 調査主体及び実施方法
事業主体――愛媛県
実施方法――愛媛大学へ調査委託
(3) 調査項目・内容
① 水質調査(PH・COD・塩分・透明度)
② 水温調査(水温)
③ 流動調査(流水の特性・流況)
④ プランクトン調査(沈でん量・動植物の割合)
⑤ 付着動植物調査(種類・量)
⑥ 漁業実態調査(漁獲量・出漁状況)
なお、県と平行して四国電力(株)においても独自の調査計画のもとに調査が進められることとなった。
県が実施する温排水影響調査は当初は県単独事業として行われたがその後、昭和四九年一一月通商産業省告示第四七九号「温排水影響調査交付金交付規則」により、一つの原子力発電施設ごとに使用開始の日から一〇年間実施されることとなったので昭和五八年現在これに基づき調査を継続中である。原子力発電施設並びに取水放水関係の概要を表8-15に、昭和五七年度における調査実施状況を表8-16、図8-11に掲げた。
2号機の営業運転が開始された昭和五七年度における温排水影響調査結果について愛媛県は翌五八年八月に、伊方原子力発電所環境安全管理委員会(会長愛媛県副知事伊賀貞雪)において発表したがその概要は次のとおりである。
(1) 透明度・PH・塩分量・COD・流動については特に異常は認められなかった。
(2) 水温については放水口に最も近い定点一〇の表層で周辺の水温に比べ四月に一・六度C、
五月に一・一度C、九月に〇・七度C、一〇月に〇・七度C、一一月に一・一度C、二月
に〇・六度Cの上昇がみられたが水産への影響は特に認められなかった。
(3) 放水口付近における温排水の拡散調査によると五月八日の上げ潮時に最大五〇〇mの測
点の範囲内で一m以浅の水温が〇・二度C~二・三度Cと上昇し、また一〇月五日の上げ潮
時には同範囲内の二m以浅の水温が○・一度C~一・四度Cと上昇したが何れも水産への影
響は特に認められなかった。
(4) プランクトン・付着動植物についても特に異常は認められなかった。
(5) 漁業実態調査の結果では漁獲量は年変動は大きいが、有寿来・町見・瀬戸町の三漁業協
同組合全体からみて特に問題は認められなかった。