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愛媛県史 社会経済2 農林水産(昭和60年3月31日発行)

一 旧漁業権の状況

 漁業権の設定

 明治三五年七月施行せられた明治の漁業法は漁業権の確保ということが大きい目的とみなされたので、当時漁業者はわれ先にと漁業権の免許申請をしたため、全県下でその件数は八千余件にも達する莫大な数にのぼった。時の長官安藤謙介知事は漁村振興並びに漁業者の福利増進の見地から、漁業権者はなるべく漁業組合として、権利がいたずらに移転することを避け、特別な事情によるものは関係者の共有とすることを基本方針とした。また個々の免許にあたっては漁場を実地に調査し、旧慣と実態の両面から勘案して必要な場合は免許に際し条件制限を附した。そしてこの漁業権の設定は実に九か年の長年月を経て伊澤知事に至ってほぼ完了したが、その件数は実に四、四〇〇余件にのぼった。
 明治四四年現在の漁業権数は定置漁業権六九四件、区画漁業権一五件、特別漁業権三、五四三件、合計四、二五二件であった。そして漁業法施行以来大正元年一二月末現在の漁業権設定数は定置漁業権八一六件、区画漁業権一四件、特別漁業権三、六二二件、合計四、四五二件であった。
 また大正元年における漁業権の所有者は漁業組合九八二件(約二四%)個人三、一〇一(約七四%)その他(約二%)と個人有が圧倒的に多いがこの大部分は地曳網・船曳網など特別漁業権である。次に漁業権の専有と共有の比率についてみると前者が約四〇%、後者が約六〇%であり、これは特別漁業権の共有形態が大部分を占めていることによる。
 大正二年における漁業権免許件数を郡別にみると西宇和が非常に多く約三五%を占め、以下越智郡、北宇和郡、温泉郡、東宇和郡などが多かった。

 専用漁業権

 昭和九年五月現在の専用漁業権数は三九六件で、所有者の内訳は漁業組合三六二件、個人二四件、町村・区一〇件であって殆どが漁業組合有となっている。この郡別は越智郡一一三件(約二九%)で最も多く、以下西宇和郡六七件(約一七%)、温泉郡六〇件(約一五%)、南宇和郡四二件(約一一%)、北宇和郡三四件(約九%)などの順である。
 昭和の新漁業法施行直前の昭和二三年七月の専用漁業権についてみると総数は四〇二件で従前と大差なく若干増えている程度であるが、この内訳は地先専用漁業権が一九四件、慣行専用漁業権が二〇八件でほぼ半々である。(資料編第三節30参照)
 明治四二年以降の専用漁業権の内容、漁場図などについて二神、三崎、遊子などの各地区のものを例示すると図2-6・2-7・2-8のとおりである。

 定置漁業権

 昭和九年五月現在の定置漁業権数は九〇八件で漁業組合有五〇一件、個人有三八八件、その他一九件となっており、やはり漁業組合有が多いが、個人有もかなりを占めている。漁業種類別にみると桝網が四六九件で全体の約半数を占め、次いでえり簗類、台網類、出網類、張網類、建網などとなっている。
 郡別にみると、新居郡二一六件(約二四%)、越智郡一八二件(二〇%)、南宇和郡一六二件(約一八%)、宇摩郡一五四件(約一七%)の順で多い。
 昭和二三年七月の定置漁業権(内水面漁業を除く)についてみると総数は七六〇件で若干減少している。このうち桝網類が五〇〇件と約六六%を占め以前よりも比率が高くなっている。次いで台網類九二件魞簗類五三件、張網類三九件、出網類三八件、建網類三〇件、落網類八件とつづいている。(資料編第三節32参照)

 特別漁業権

 昭和九年五月現在の特別漁業権数は三、一四二件で最も多く、これを所有者別にみると個人二、三一五件(約七四%)、漁業組合七八六件(約二五%)、その他四一件(約一%)で個人有が大部分を占めている。漁業種類別では鰮船曳網が最も多く一、六五四件で、次いで鰮地曳網の七六七件で両者を合わせると、全体の約七七%を占め、鰮漁業が大半を占めている。なお地曳網には、いわしのほかあじ・ちぬ・いかなご・このしろ・さば・きびなご・はまち・ぼら・まぐろなどを対象としたものがあり、船曳網にはいわし以外にはまち・このしろ・あじ・たいなどを対象としたものがある。これら以外にはあじさば敷網・いかなご敷網・ぼら敷網・ぶり飼付・たい飼付・築瀬・築磯その他があった。これを郡別にみると西宇和郡九六一件で最も多く、この大部分は鰮の地曳網と船曳網で占められている。次いで北宇和郡七二九件、南宇和郡四三二件、越智郡三一五件、温泉郡二八五件、東宇和郡二三五件などの順となっており、やはり宇和海の鰮漁業関係が非常に多い。
 昭和二三年七月現在の特別漁業権(内水面漁業を除く)は総数で二、五七二件で昭和九年当時の約八二%に減っている。このうち個人一、六〇八件が全体の約六三%を占め、漁業会は九三四件約三六%で以前より漁業会有の比率が高くなっている。個人有のものは大部分は共有であり単有のものは少ない。漁業種類としてはやはり鰮船曳網と鰮地曳網が非常に多いことは以前と同様である。(資料編第三節32参照)

 区画漁業権

 昭和九年五月末日現在の区画漁業権総数は八六件で、このうちわけは第一種(のり・かき・藻類・真珠養殖業)が三一件、第二種(魚類・鰕類養殖業)二四件、第三種(介類養殖業)三一件となっており、郡別では越智郡が魚類・介類養殖を中心として三〇件で最も多く、次いで新居郡が介類・海苔養殖を中心に二〇件で、その他の地区では南宇和郡の真珠介養殖六件、周桑郡の海苔養殖業五件などが主なものである。漁業権の所有形態は個人が二二件、漁業組合六四件であり組合有が多い。
 昭和二三年七月には総数で五一件に減少した。この時点では第一種二九件(のり・かき・藻類・真珠養殖業)、第二種三件(魚類・鰕類養殖)、第三種二〇件(介類養殖業)などとなっており魚類・鰕類養殖が大幅に減少したのが目立っている。なお所有者は殆ど漁業会有となっておりその他は二件に過ぎなくなった点が注目される。(資料編第三節32参照)

表2-5 漁業法施行以來免許漁業權設定竝消滅滅件數

表2-5 漁業法施行以來免許漁業權設定竝消滅滅件數


表2-6 免許漁業ノ一

表2-6 免許漁業ノ一


表2-7 免許漁業ノ二

表2-7 免許漁業ノ二


図2-6 二神漁業組合 専用漁業権連絡図

図2-6 二神漁業組合 専用漁業権連絡図


表2-8 専用漁業權の内容

表2-8 専用漁業權の内容


図2-7 三崎、佐田、神松名村、二名津、松、佐田岬、名取、釜木、串、正野各漁業組合 専用漁業権連絡図

図2-7 三崎、佐田、神松名村、二名津、松、佐田岬、名取、釜木、串、正野各漁業組合 専用漁業権連絡図


図2-8 遊子村漁業組合 専用漁業権連絡図

図2-8 遊子村漁業組合 専用漁業権連絡図


表2-9 専用漁業權の内容 (三崎漁業組合)

表2-9 専用漁業權の内容 (三崎漁業組合)


表2-10 専用漁業權の内容 (遊子村漁業組合)

表2-10 専用漁業權の内容 (遊子村漁業組合)