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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

二 機械化技術体系と防除方式


 菊間の総合実験農場

 菊間町長坂地区では、果樹園の基盤整備を進め、もっとも進んだ栽培管理体系(機械化技術体系)を確立し、経営の合理化をはかることをねらいとして、三九年から農業構造改善事業を開始した。まず集団ミカン園の造成、一般農道の整備にはじまり、四〇年から畑地かんがい、共同防除かん水兼用施設の導入、連絡農道の開設などを実施し、四一年度に完了した。
 長坂地区における農業構造改善事業の特徴として、次の三点をあげることができる。まず第一に、他地区にみられないもっとも大きな特徴として、地区内に「総合実験農場」が設置されたことである。正式の名称は、果樹試験場直轄の「果樹総合実験農場」で、構造改善事業と併行して、大型機械による各種の試験が実施された。実験農場の事業は、三九年開設以来、オペレーターの養成、園内連絡道の開設、かん水、防除、樹型改造などの指導および実験が繰り返し行われ、いわゆる「菊間方式」といった機械化体系の原型を生み出す基礎となった。
 第二に、この機械化技術体系の中で、防除方式に新しい試みがとられたことである。定置配管よりむしろ走行式防除に重点をおき、地形や農道の条件によって、それぞれ防除方式を変えたこと。すなわち、一・五m以上の作業道が整備された新造成地(五・四ha)では、動噴搭載のクローラトラクターで両面散布(A方式)。一・五mの作業道が開設された緩傾斜の幼木の多い右岸地区では、クローラトラクターで五〇〇リットルのタンク車をけん引して移動、定置点で停止して四本のホースを延ばし、スワスノズルで散布(B方式)。〇・五~一・五mの作業道が開設された急傾斜の成木の多い左岸地区では、ホイル型トラクターで三六〇リットルのタンク車をけん引して移動、定置点で停止して、園内に敷設したパイプに直結させて散布(C方式)。以上、三つの方式が検討された。従って、機械化技術体系の前提となる農道整備にはとくに力を入れ、実施地区内に約二万mの作業道が開設されたが、そのためのミカン樹の伐採、移植は一、二〇〇本に上った。しかしこの補償は一切なされず、参加農家の犠牲(無償提供)によって実現されたといわれる。
 第三に、用水問題の解決をあげることができる。畑地かんがい、共同防除かん水兼用施設の導入にともない、用水の利用は増加するが、地区内の溜池(および河川)は、これまで水田専用で、水利慣行もきびしかった。かん水組合は、ミカンにも水が利用できるようにこの慣行を改正し、水田とミカン園それぞれの利用日を決定するなど、用水はすべてかん水組合の手で管理できるように改正された。

 防除方式の模索

 機械化技術体系の中で最も重要な防除方式は、これまで、定置配管による共同防除が主体であった。しかし、農道、機械化との関連で、SS(スピードスプレヤー)による走行式防除の重要性が叫ばれ、県内の構造改善事業実施地区でも計画にとりあげられたり(丹原町)、また菊間の実験農場のように、走行式防除の実験が精力的に実施されたところもある。しかし、この走行式防除は、急傾斜地園の多い愛媛県の果樹地帯で、結局は定着しなかった。むしろ、その後実施されたヘリコプターによる航空防除(ヘリ防除)が、しばらく伸展をみせたが、農薬汚染(人畜、他作目への影響)の関係で消滅する。さらに、定置配管による共同防除は、関係農家の兼業化や多様化で、組織の維持が次第に困難となり、解散するところが増加する。ただ防除方式としては、スプリンクラーの多目的利用(かん水、施肥、防除など)が、生産者に強く期待されている。

 四三年の価格暴落

 四二年、西日本を襲った大干ばつは、愛媛県にも甚大な被害を及ぼした。ミカン関係にかぎっても、減収六一億円、樹体被害七八億円、計一三九億円の被害が計上されている。(同じく夏ミカンの減収一八億円、樹体被害二四億円、計四二億円)。その上、灌水施設や機械の購入で多額の負債をかかえた農家も多かった。翌四三年、ミカンの大豊作(表年と自然増で二三五万t)と品質低下が重なり、一二月に入って市況は一段と低落し、中旬には四六円(一㎏、京浜市場平均)とこれまでの最低値を記録し、関係者に大きな衝撃を与えた。この価格暴落は、愛媛ミカンの出荷最盛期に当たり、また干害に続く暴落ということで、最悪の時期に発生した。暴落を苦に自殺者が出るという、愛媛県にとってきびしい年であった。

 愛媛ミカンの振興指針

 四三年の暴落を契機に、愛媛県では、四三年三月の「果樹農業振興計画」を手直しして、四四年八月に「愛媛ミカンの振興指針」を策定した。これによると、濃密生産団地計画の推進、植栽の計画化、ミカン経営の集団化、生産費の低減、優良品種の選択と育成、品質管理の推進、貯蔵の推進、販売の改善、加工の拡大、販路の開拓などがあげられている。その中で、果樹園経営の方向として、属地的な組織集団の中で、果樹園の集団化、基盤整備、栽培管理施設・機械の効率的利用を進め、生産性の向上、生産費の低減、均質化・規格化を実現し、安定的に拡大発展する農家群の育成をはかる必要があり、そのためにはまず第一に、近代的な果樹園経営の面積規模、単位当たり生産量、労働時間について、表6-5のような指標をかかげており、第二に、自立経営の規模として、ミカン、夏ミカンについては二・〇ha以上、これらの農家が県下ミカン園の八〇%、夏ミカン園については七〇%程度を占有することを目標にしている。
 要するに、四三年の暴落は、過剰化よりむしろ品質低下の影響が大きいとみなされ、これまで進められてきた「規模拡大」「産地の大型化」の矛盾と問題点が、さらに兼業化の伸展にともなう農家経営構造の問題点が、「品質問題」という形で露呈したという見方が強く、これを契機に「うまいミカン作り運動」が本格的に推進されることになった。




表6-5 果樹園経営の指標 (愛媛県)

表6-5 果樹園経営の指標 (愛媛県)