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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

一 概説


 技術革新の経過

 戦後の農業技術の開発、普及を考えると、三つの年代に大別することができる。すなわち、終戦から昭和三〇年の間は、食糧不足の背景のなかで土地生産性の向上に重点が置かれ、戦前から蓄積された技術を基礎に生態的技術開発が行われた。
 つぎの三〇年から四五年は、食糧供給も安定し、三六年には農業基本法が公布され、農業生産の構造改善が進められ、土地生産性に併せて労働生産性向上のための技術開発が要請され、丁度、有機合成化学、機械工業が飛躍的な進歩の下、理化学的技術開発が進められた。
 四五年以降は、農業の国際化のなかで、生産性向上、コスト低減に対する技術開発の必要が高まる一方で、これまでの技術革新によって派生した多くの課題を解決する環境資源保全的技術開発が進められた。

 生態的技術開発

 昭和三〇年までは、農作物の安定多収に重点が置かれ、品種生態の解明による作型の分化が進み、それぞれの作型について安定多収技術の開発、普及が行われた。例えば、寒冷地の水稲作の安定多収をもたらした保温折衷苗代の技術開発、普及が行われ、さらに、西南暖地の水稲作では、台風害、塩害などの災害回避を目的とした水稲の早期栽培技術の開発がある。また、各種蔬菜の作型の分化が進み、周年出荷が多くの蔬菜で可能になり、これまでの端境期は解消された。
 つぎに、病害虫の発生予察事業の実施によって、病害虫の発生を生態的に把握し、効果的な防除対策がとられるようになった。また、耕土培養事業が実施され、水稲作の秋落対策、畑地の酸性土壌の改良、開拓地の不良火山灰土壌の改良などの技術開発が行われた。

 理化学的技術開発

 昭和三〇年代になると、有機合成化学工業の進歩により、除草剤・生育調整剤・各種の無機質肥料・ビニール・ポリエチレン・その他の生産資材が農業生産に大量利用されるようになり、一方、機械工業の進歩は、農業の機械化・装置化・大型化を進め、麦の全面全層播栽培など、機械化一貫作業技術体系の確立、各種機器、資材の利用による施設園芸の技術開発など、農業の生産性は著しく向上した。

 環境資源保全的技術開発

 昭和四五年ころから、連作化による生産障害、技術上よりみて合理的な土地利用の欠除、地力の衰退、環境汚染、公害、エネルギーの大量消費といった技術上の問題が顕在化した。とくに、四八年には、第一次石油危機が発生し、化石エネルギーをはじめとする資源の有限性が問題となった。
 以上のような諸問題に対応して、単作化、専作経営に対して、個別複合の見直しや地域複合に対する技術開発と技術組み立てが進められた。また、稲わら・麦稈など粗大有機物、および、家畜ふん尿、その他の有機廃棄物の土地還元、客土、土壌改良資材、深耕など、土づくり対策技術と土づくり運動が行われるようになり、さらに、土壌汚染対策、低毒性の農薬の開発、利用、病害虫の生態防除を取り入れた総合防除が進められるようになった。
 一方、農業の国際化、資源の有効利用に対応して、農業機械、生産施設、および、肥料・農薬・燃料など生産資材の効率的利用や太陽エネルギーをはじめとする自然エネルギーの利用を進めるなど、低コスト農業の技術開発と普及が行われている。
 さらに、近年、実用化した生長点培養によるウイルスフリー株(ウイルス病におかされていない無毒株)の育成をはじめ組織培養・葯培養・胚培養や細胞融合などバイオテクノロジー(生命工学)の技術開発が、今後の実用化に向かって研究が開始されている。