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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第二節 農業の戦時体制


 産業督励部

 日露戦争時の戦時農業督励部(一五〇頁)にならい、戦時下の産業経済の総合的指導督励を推進するため、昭和一二年九月に愛媛県産業督励部が設置された。(資料編社会経済上四三頁)
産業督励部は評議員(県庁の関係部課長、各種農業団体長から選任の二二名)と督励員によって構成され、県に本部、各郡に支部が設置された。県本部は農林経済班ほか六班を設け上表の陣容で編成された。
 各郡に設置の支部は、経済更生委員会会長を支部長とし、督励員は県職員、各種団体長、団体職員が上表のように任命配置された。
 発足当初の産業督励部は、指導項目に応召農家に対する勤労奉仕と、そのための奉仕班の編成を掲げていたが、その他の項目では経済更生運動の方針、指導項目を継承したものが多く、戦時色のきわめて薄いものであった。
 事変の進展と時局の推移により、昭和一三年一〇月に指導方針が再検討され次のように改正された。

       産業督励部指導方針(要約)
  一、農林漁業生産拡充に関する事項
  (イ)農地調整に関する事項
    (一)応召農家の農地の確保については各種団体において斡旋に協力するよう督励する
    (二)戦死者及傷痍軍人遺家族で農耕に従事する者に対しては支那事変記念自作農地創設維持制度の普及利用に努め
       御下賜金の散逸を防ぐと共に将来の生活安定の一助とするよう指導する
    (三)その他農地調整法の趣旨に基づき自作農地の創設維持及小作料関係の維持改善につき各機関の活動を促す
  (ロ)麦作に関する事項
      作付反別を極力維持するのみならず小麦は為替管理により外麦の輸入制限 小麦粉の対満州輸出等の事情により増
      産を必要とするので適期播種及び開墾地 休閑地利用等により増産に努める
  (ハ)畜産に関する事項
      事変の進展に伴い畜産物に対する軍需の激増及び農村労力不足の趨勢にかんがみ有畜農業の普及徹底を図り牛馬
      その他の家畜の増殖と資質能力の向上 畜力利用 厩肥の生産と利用 飼料の自給と増産に努める
  (二)養蚕に関する事項
      労力不足と糸価の不況により繭の生産が急減の傾向にあるが繊維国策の見地から経営の合理化を図り生産の
      維持拡充に努める
  (ホ) 施肥改善に関する事項
    (一)自給肥料の改良増産を極力奨励し二割の増産を図り肥料費を節減する
    (二)施肥標準調査その他の試験成績に基づき単肥施用の合理化を図る
    (三)石灰窒素及硫安の如き廉価な肥料の合理的施用を奨励し肥料費の節減を図る
    (四)肥料の消費調整の普及徹底を圖るため主要作物に対し施肥改善実地指導地を各町村部落毎に設置する
    (五)不合理な調合肥料と化成肥料の成分価格を周知せしめ肥料の消費調整上 県奨励配合肥料の配合並に施用の普
       及徹底に努める
    (六)肥料小配合所の設備を設置し施肥改善の徹底を図ること
  (へ)兎毛皮の増産に関する事項
    (一)軍用兎毛皮の供出については系統農会の供出計画に基づき抜売等を絶対に防止し供出量の確保に努める
    (二)繁殖用種兎は成兎の二割残留に努め種兎飼育者別頭数を明らかにし次年度の市町村増産計画の遂行に努める
    (三)既設の学校種兎場の種兎配布については市町村の増産計画遂行に支障なきよう管理に努める
  (ト)林業に関する事項
    (一)森林資源の増産確保と時局即応のパルプ資材並びに各種用材の増産を図るため特に森林の間伐を励行せしむる
       と共に鋭意 幼齢林の伐採防止に努める
    (二)山村の労力不足に鑑み製炭者には連通窯の築設又は集合築窯を奨励し木炭の生産の維持増進に努める

  二、農林漁業用の生産資材と消費規正に関する事項
  (イ)肥料に関する事項
    (一)有畜農業を奨励すると共に厩舎の地盤改造を図り自給肥料の改良増産に努める
    (二)堆肥原料の供給増加と利用を一層徹底せしめる
    (三)緑肥採種圃を拡充し優良種子の県内自給を圖ると共に共同購入を行い緑肥の増産を圖る
    (四)人屎尿及び草木灰の利用管理を一層周到にすること
    (五)都市塵芥の処理に就いては衛生上 差し支えなき限り速成堆肥として堆肥の増産を圖る
    (六)加里塩の県割当量は昨年の半量以下であるため偏在を防止すると共に極力自給肥料で補給を圖る
    (七)燐酸肥料に就いては消費調整の余地ある地方作物に対しては節減に努める
    (八)各町村毎に自給肥料増産五ヶ年計画を樹立し増産に努める
  (ロ)農具並びに生産資材に関する事項
      農具並びに生産資材の配給が困難となりつゝあるため対策として産業組合の活動強化を圖る
  (ハ)漁業用資材に関する事項
      漁業用資材の石油、綿糸、漁網、染料、ロープ、鉛、鉄等が消費規正を受け配給が不円滑となり水産業の維持に甚だ
      しく困難を感ずる事態となりつゝあるため対策として極力、右物資を節約し代用品の使用、漁業経営の共同化に努め
      る

  三、勤労奉仕班の活動促進に関する事項
    (一)実行小組合又はこれに準ずる地区に設置の奉仕班毎に応召農山漁家に対する勤労奉仕計画を樹立し壮年、青年、
       婦人、児童等それぞれ性能に応じて分担を定めて奉仕班の活動計画を樹立する
    (二)奉仕班内の労力に不足を生ずるときは勤労奉仕特別班より労力の奉仕を受け調整を圖る
    (三)特別奉仕班は奉仕班に対する労力補給計画を予め樹立しておくよう指導する
    (四)奉仕班は農繁期以外も自給肥料の増産その他に関し常に技術的に留意し奉仕に努める

  四、実行小組合の普及拡充に関する事項
      時局下の産業経済、精神教化を綜合的、有機的に実行する機関として全町村に実行小組合の普及を圖り未設置町村
      の解消に努める

 経済更生委員会

 昭和一四年二月に愛媛県農山漁村経済更生委員会(二二〇頁)の規程が改正され、産業督励部は同委員会に編入され、同時に産業督励部規程(昭和一二年九月二四日公布)も改正されて従来の「産業」の督励部から「農林漁業」の督励部に再編成され商工督励班が廃止された。
 改正された経済更生委員会規程(昭和一四年二月三日県告示第五四号)で、委員会に対する知事の諮問事項中に、(一)時局に伴う重要農林水産物の生産計画 に農林水産業の経営に必要な物資の配給 陶労力の需給調整その他農山漁村の時局対策に関する事項 などが追加され、また委員会は経済更生計画部・生産計画部・肥料配給統制部・資材配給統制部・労力調整部の五部門で編成されることになった。昭和一四年一〇月に再び規程が改正(昭和一四年一〇月一八日県告示第六六二号)され、この五部門のうえに甘藷配給統制部が新設され、原料甘藷の配給統制に関する事項が経済更生委員会で分掌されることになった。組織の再編強化により、経済更生委員会は農村の不況克服を目標として発足した経済更生運動の指導的機関から、戦時農政推進の中枢的機関に改組された。

 農業報国連盟

 開戦から一年を経過し、戦争の長期化が必至の情勢となった昭和一三年一〇月に、農林省は農業報国の実をあげるため、戦争に伴う農村問題の解決、農業生産力の増強を図る推進母体として農業報国連盟の設立を決定した。すでに産業督励部が設立されていたこともあり、本県の連盟(全国連盟愛媛県支部)は、やや遅れて昭和一四年五月に結成された。連盟は関係機関を網羅した官民一体の組織で、役員は支部長・理事・評議員・幹事によって構成され、知事を支部長とし、理事には県の各部長(経済部長・学務部長・総務部長・警察部長)のほか県会議長、民間団体(県農会・水産会・畜産組合連合会・養蚕組合連合会・産業組合中央会愛媛支会・山林会・県購連・果物組合連合会・町村会・連合青年団など)の代表者が選ばれた。
 評議員には学識経験者として国会議員・松山農学校長(農学校代表)・勧業銀行松山支店長(銀行代表)・経済更生委員会会長・各郡農会長・四市農会長が選任された。
 農業報国連盟は、(一)農業生産計画の実行 (二)農業生産資材、労力の調整 (三)銃後における農山漁村経済の安定 (四)県民の農林漁業に対する理解の徹底 など戦時農林漁業政策の実践を目的としたもので、農山漁村経済更生委員会の改組強化とこの連盟の設立により、県の戦時農政推進の基盤、体制が確立した。

 農事修練場

 経済更生運動促進のため、農林省は昭和九年に農民精神を体得し、勤労主義に徹した中心人物を養成する修練農場(農民道場)を全国各府県四二か所に設置した。本県では周桑郡庄内村の県立種畜場(大正一〇年創設)の組織を改正し、農事修練場を同場内に併設した。(昭和九年四月開場)修練年限を一年とし、高等小学校卒業程度の学力を有する一九才未満の青年を対象とし二〇名を収容した。第一年度の入場者は三二名で四月一日厳粛な開場式が挙行された。
 農事修練場は本来の農業後継者の養成に加え、昭和一一年から満州移民の委託訓練を実施するようになったが、戦況が深刻になった昭和一六年以降は、銃後を護る青壮年によって編成された農業増産報国推進隊、農兵隊(愛媛中隊)の地方訓練(中央訓練は茨城県内原訓練所で実施)が中心となり、場内には隊員の宿泊訓練施設として数棟の特異な構造の日輪兵舎が新設され、戦時色の極めて濃厚な教育機関に変貌した。


表5-1 愛媛県産業督励部本部・支部の編成

表5-1 愛媛県産業督励部本部・支部の編成