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愛媛県史 社会経済1 農林水産(昭和61年1月31日発行)

第六節 大正時代の農村副業


 県の副業奨励施策

 耕地の増成、営農改善による生産力の増強がほぼ限界に到達した大正時代は、農家経済の維持向上を図るうえで副業が重要な位置を占めるようになった。農村の副業は日清戦争の直後から農業団体により指導育成されていたが、第一次世界大戦による好況下で、農村の副業熱が急速に高まった大正五年以降、県政のうえでも重点施政の一つとなり積極的に奨励された。大正五年に県は農村の要望に応えて副業担当の職員(兼務の技手一名)を新設し、同七年一月からこれを専任職員(同一〇年四月以降職員制の改正で産業主事補に任命)とし、大正九年四月から兼任技手一名を増置して陣容を強化し、さらに同一四年から主事補の上に主事を設置した。
 大正八年に副業補助規程を制定し、各地方で適当と認める副業を奨励する郡市町村その他の団体に対して補助金を交付した。県農会は県の施策に先行し、前年の大正七年に二百円の補助金を交付して、二九か村に一二〇台の製筵機と、二三四台の製縄機を斡旋し、また二名の技術者を雇傭して講師とし、屑繭の加工と畳表製造の伝習会を実施したが、県の補助規程の公布により、一年限りで中止した。

     副業補助規定(大正八年三月一四日愛媛県令第一二号)

第一条  副業奨励の為毎年度予算の範囲内に於て本規程により補助金を交付す
第二条  補助金は郡市町村、農会其他知事に於て適当と認めたる団体にして副業発達の為生産、販売、伝習其他知事に於 
    て必要と認めたる事業を経営するものに対して之を交付す 但し国費又は別に県費の補助を受くる事業並経費五拾円未
    満の事業に対しては此限りにあらず
第三条  補助金は事業費の二分の一以内を交付す
第四条  本規程により補助金の交付を受けんとするものは別記様式の申請書並調査書を前年度の三月五日迄に知事に差
    出すべし
第五条  補助の指令を受けたるもの事業の計画を変更若は廃止せんとするときは知事の認可を受くべし
第六条  補助金の交付を受けたるものは三か年間毎年度の事業成績を翌年度六月末日迄に知事に報告すべし
    但し初年度に限り経費決算書を添付すべし
第七条  知事は必要と認めたるときは其事業又は会計の検査をなし或は命令を発することあるべし
第八条  本規程又は前条の命令に違背したるときは補助金の指令を取消し又は既に交付したる補助金の一部若は全部の
    返還を命ずることあるべし
第九条  本規程により差出すべき書類は所轄町村役場又は郡市役所を経由すべし、但し数町村又は数郡市を区域とする
    団体にありては主たる事務所々在地の町村役場又は郡市役所に提出すべし


 当初の補助は、副業用機具類の購入費と伝習会費の補助が中心となっていたが、大正一〇年には補助のほか、香川県ほか先進の一一府県から収集した副業標品の陳列展示会を開催するほか、副業養鶏を奨励する団体に対して孵卵器と(にんべんに尺)母器各一台の巡廻貸与を実施し、翌一一年には補助対象も次のように拡大した。

     副業補助事業(大正一一年)
一、伊予郡中山村農会 干柿製造講習会施設 二五円
一、越智郡釣鈎製造講習会施設 九〇円
一、越智郡農会藺畳表製造奨励施設費 三五〇円
一、西宇和郡千丈村竹細工工業組合竹細工施設 一二五円
一、西宇和郡三瓶村絹織物奨励組合施設 七〇円
一、東宇和郡多田村農会縄蚕網製造講習会施設 三〇円
一、愛国婦人会愛媛支部附属授産場ミシン裁縫、藤表製造講習会及同原料購入製造販売斡旋施設 八五円

 さらに大正一四年に臨時副業調査委員規程を定め、予算一、四〇〇円(半額国庫補助)を計上し、副業に関する調査研究を行う副業調査委員を県、郡に設置した。

     臨時副業調査委員規程(大正一四年)
第一条  農村に適切なる副業の生産並に販売に関する調査を行う為臨時副業調査委員を置く
第二条  委員は本部委員、郡部委員に分ち関係官吏々員並学識経験を有する者より知事之を命じ又は嘱託す
第三条  本部委員は内務部長、郡部委員は郡長の招集に応じ副業に関する調査研究及協議を行う
  而して本部並に郡部に於ける委員の任用方針左の如し
  本部は農林課長、農林課属四名、副業係主事、主事補、技手、農林課関係技師、小作官、商工水産課に属する技師二人、
  主事二人、属一人、県農会長、畜産組合連合会長、松山農学校長
  郡部は産業課所属官吏々員五名、畜産組合長、町村長、当業者中より約十名計十五名標準
     調査計画
一、本部に於て本部委員を合同して調査計画の大綱を定め其れに基き郡部を指導統督して調査を行う
二、本部委員の調査協議すべき事項大要左の如し
 イ、調査計画の大綱の確立
 ロ、指定副業選定の資料調査
 ハ、指定副業の決定
 ニ、指定副業の奨励策の研究
 ホ、副業生産品の販売方法、販路の調査研究
三、郡部委員の調査研究すべき事項
 イ、郡内指定副業選定の調査計画
 ロ、郡内指定副業の選定
 ハ、郡内指定副業の奨励策の研究

 大正一五年一月に各郡ごとに第一回委員会を開催し、町村で希望する副業の中から奨励に値するものを選定して県に報告し、さらにこれを県委員会で再検討し次の三三種が県の指定奨励副業に決定した。

     ○県指定奨励副業
藁稈加工・蔬菜加工・藺及薏苡栽培加工・製茶・三椏栽培加工・除虫菊栽培加工・蒟蒻栽培加工・(きへんに巳)柳栽培加工・煙草栽培・山葵栽培加工・蔓細工苫製造・干柿製造・椎茸栽培・竹細工・製炭・割箸製造・まきはだ製造・棕梠栽培加工・養鶏・養豚・搾乳・淡水養魚・海苔製造・酒盗製造・味淋干製造・ふのり製造・屑繭加工・節絲機械織・製糸及加工・麦稈製品・緬羊・絣織・製紙及紙製品

 県は指定奨励副業の選定に続き、副業の共同施設、共同事業を奨励するため副業共同施設奨励金交付規程(大正一五年六月県令第三九号)を設け、次のような諸施策に対して助成金を交付した。

一、県の指定する副業で組合の成績優良なるもの(年額五〇円)
二、副業組合に準ずる産業組合、漁業組合が器械器具を共同設備する場合(費用の二分の一)
三、副業組合、産業組合、漁業組合、市町村、市町村農会が器械、器具を共同購入する場合または伝習会、品評
 会を開催するとき(費用の三分の一)
 初年度(昭和二年)は次の副業、事業に対して助成金を交付した。(県報昭和二年一月一八日 勧第五八〇)

 副業種別               助成事項
稲藁加工               機械器具類共同設備又は共同購入競技会費
麦稈加工               競技会費
蔬菜類加工              機械器具類共同設備又は共同購入費
藺及薏苡栽培加工         機械器具共同購入、伝習会、競技会費
製茶                  製茶機械器具共同設備費
三椏栽培加工            庫建設、衡器購入、検査費
除虫菊栽培加工          衡器購入、検査費
蒟蒻栽培加工            加工設備、伝習会費
(きへんに己)柳栽培加工    倉庫建設、衡器購入、検査費、伝習会費
煙草栽培               技術員設置費(耕作組合連合会に限る)
山葵栽培加工            整地及灌漑排水設備、伝習会費
蔓細工                伝習会費
苫製造                 検査費
干柿製造               伝習会費
椎茸栽培               乾燥設備
竹細工                伝習会費
木炭製造               製炭伝習会費
割箸製造               伝習会費
まきはだ製造            倉庫建設、衡器購入、検査費
棕櫚栽培加工            機械器具共同設備、共同購入、伝習会費
養鶏                  孵卵器、(にんべんに尺)母器、衡器購入費
養豚                  豚購入費
搾乳                  搾乳設備費
淡水養魚               養魚場設置
海苔製造               採集設備、伝習会費
酒盗製造               製造設備、伝習会費
味淋干製造             製造設備、伝習会費
ふのり製造              採集設備、伝習会費
屑繭加工               機械器具共同購入、伝習会費
節糸織                機械器具共同購入、伝習会費
製紙及加工             機械器具共同購入、伝習会費

      
 副業の振興

 県ならびに系統農会の積極的な奨励により副業は急速に普及し、大正一三年一一月に農商務省に提出した報告書によると県下の副業は表3-13のようになっている。
 共同施設に対する奨励金の交付で、副業組合の設立が促進され、大正一五年の後半期から各町村に副業組合、郡に同連合会が相次いで組織された。市町村副業組合の事務は、市町村農会または産業組合、郡副業組合連合会の事務は産業組合の郡連合会(大正時代の産業組合連合会は郡単位で組織)が斡旋した。副業組合は次のような事項を主たる業務としていた。

一、優良品種、種苗を選択し、種類の統一を図る
二、種苗、諸器械、原料品、飼料、肥料等の共同購入
三、生産品の共同販売、共同設備
四、販路調査、器具器械の研究、栽培技術、種苗の研究
五、伝習会、談話会、品評会、展覧会、競技会等の開催

 副業組合の設立で、生産から販売に至る一貫体制が確立し、生産額、移出額とも表3―14のように著しく増加した。
 ちなみに副業品の販売は、明治いらい昭和初期まで郡市町村農会・産業組合・工業組合などにより個別に斡旋されていたが、産額の増加、交通機関の発達により県外移出量が増加するにしたがい、販売斡旋の連絡統一・市況の調査通報・出荷の調整・需要の推移・嗜好の変遷などを知り、継続的出荷、臨機の転換など、販売の円滑を図る必要が生じ、県は昭和四年度から県農会と共同して、帝国農会大阪販売斡旋所内に専任駐在職員を置くことになった。





表3-13 副業調査

表3-13 副業調査


表3-14 副業品の産額と移出額

表3-14 副業品の産額と移出額