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愛媛県史 地誌Ⅱ(南予)(昭和60年3月31日発行)

四 御槇自然休養村と横吹渓谷


 御槇盆地の自然環境

 北宇和郡津島町にある御槇盆地は御内盆地と上槇盆地の総称である。御内盆地は、地軸隆起上にある高月山―篠森山地を横切っている横谷中の盆地である・御内付近では両谷壁の急斜面から山麓緩斜面を経て台地面へと次第に勾配が減少している。台地面は主として侵食段丘面であり、その上に畑地や集落が見られる。上槇盆地は元越川(松田川上流)に残る高原性の丘陵・低地区であり、盆地床の平均標高は約四〇〇mである。ここでは高月山―篠山山地の造山運動に対して、横谷を刻む元越川の先行性河川としての性格や隆起準平原性の緩やかな丘陵地形などが見られる。
 御槇盆地は周囲を八〇〇m~一一〇〇mの山々に囲まれ、また台風や季節風が激しく吹くため特異な気候景観を呈している。御槇盆地の降水量は年間約二八〇〇㎜に達し、県内における最多雨地域の一つとなっている。また、冬季の寒冷は岩松の温暖とは対照的である。年間平均の霜日数は約四〇日、結氷日数は約二〇日であり、最低気温が氷点下になる日数は六〇日にも達している。
 御槇の気候の特色の一つに台風や季節風に伴う強風がある。台風通過時の東風は特に激しいため家屋が現在ほど堅固でなかった藁葺屋根の時代には著しい被害をこうむっていた。このため、人びとは杉を家屋の周囲に植え、これによって風を防いできた。杉の防風林は「せんまく」と称され、家屋の東側と西側に植えられることが多く、現在でも盆地内の各所に「せんまく」を見ることができる。

 御槇自然休養村

 山間部に位置する御槇地区は四九年に「御槇自然休養村」に指定された。「自然休養村」、「緑の村」、「自然活用村」等は都市住民の心の要望を満たすとともに、農村の人びとの就労機会を増大させることを目的に全国で二八七か所が指定された。県内には御槇自然休養村(津島町)のほかに塩塚高原自然休養村(新宮村)、南大三島自然休養村(大三島町)、久万高原自然休養村(久万町)、上浦自然活用村(上浦町)などがある。
 御槇自然休養村は五一年度~五四年度にかけて国庫補助事業により、約三・三億円を投じて各種設備が整備された(表5―59)。この計画が策定される以前の御槇地区は、三一九戸の農家のうち五〇%が第二種兼業農家であり、労働力の地区外流出と農村労働力の老齢化・婦人化が進行し、津島町内では最も過疎化が進行していた。このため津島町では自然資源を活用した観光レクリエーションの場を建設し、これによって観光農林漁業の育成をはじめ、地元における就労機会の拡大と所得向上を図った。また、自立経営農家の育成と経営の安定を図ることも目標の一つであった。
 自然休養村事業によって整備した施設のうち、すでに経営が軌道にのりつつあるのは、御槇淡水魚センター(有限会社、五戸参加)及び篠山イノシシセンター(有限会社、五戸参加)で、両者ともすでに目標生産量に達している。柿団地については五七年から結果しはじめているので、これからの収益が期待されている。花木園は、当初「つつじ」を植栽する予定であったが、現在は当地の土質に適し、しかも収益性の高い「しきみ」を植栽している。本事業による観光農林業施設への入り込み客数は五六年度には一万人に達し、これらを主とする自立経営農家は一七戸となった。就労者は四九人となり、また就労者一人当たり年間平均所得は二三〇万円に達しており、自然休養村事業が地区住民への就労機会の増大と所得向上に貢献している。
 自然休養村管理センターについては、会議室の利用七〇〇〇人、食堂及び休憩所の利用一〇万人を計画していたが、五六年度の利用実績は地元住民を中心として約四六〇〇人にとどまっている。今後、御槇自然休養村を発展させるためには、臨海地域の南予レクレーション都市整備事業(建設省都市公園整備事業)との相互依存を強化することが必要とされている。また道路網の整備も今後の課題の一つとなっている。

 横吹渓谷

 岩松川上流にある渓谷で、海岸からわずか八㎞程度の所にありながら深山幽谷の趣を見せており、三九年に篠山県立自然公園に指定された。渓谷は約一・五㎞にわたり、険しいV字谷を形成しているが、これはかっては松田川の上流であったこの地を、侵食力の強い岩松川が争奪したことによるものである。横谷が形成され、両谷壁が絶壁となって迫っており、渓谷は変化に富んでいる。地質は四万十層群より成り立っており、砂岩と頁岩が差別侵食された結果形成されたものである。横吹渓谷のほぼ中央部にある鍋淵より下流には早瀬と淵が見られ、上流には滝と峡谷が美しい渓谷美を作っている。
 南予では滑床渓谷に次ぐものであるが、観光開発はあまり進んでいない。川沿いには崩壊防止林があり、五〇年~一〇〇年生のカシやナラなどの広葉樹がうっそうと茂り、野猿も棲息している。渓谷の中腹を通っている県道宿毛―津島線は、大正二一年(一九二三)~一三年に開通したが、これは旧御槇村の村有林八〇〇町歩を県に売却し、その資金で完成したものである。








表5-59 自然休養村整備事業実施概要

表5-59 自然休養村整備事業実施概要