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愛媛県史 地誌Ⅱ(南予)(昭和60年3月31日発行)

六 南予の水資源開発


 野村ダム建設の背景

 愛媛県最大の河川である肱川は年々の出水により災害をくり返してきた。なかでも昭和一八年と二〇年には、大洲地点での最大流量が五〇〇〇立方メートル/Sにも及ぶ大出水に見舞われ、川沿いの被害は激甚をきわめ、住民は壊滅的な打撃を受けた。このようななかで建設省直轄の改修事業が昭和一九年から開始され、三四年には鹿野川ダムが完成した(表4―26)。しかしながら、その後も二九年、三八年、四五年と出水があいつぎ、しかも大洲市を中心とする川沿い一帯は近年益々土地利用の高度化、資産の蓄積が進んでおり、治水の安全度をさらに向上することが重要となった。そこで、四八年に肱川の工事実施基本計画の再検討を行ない基準地点大洲における基本高水を六三〇〇立方メートル/Sとし、そのうち上流ダム群により一六〇〇立方メートル/Sを調節することとした。
 一方、肱川流域の南・西に隣接している宇和島市・八幡浜市などの南予地区海岸部は、山麓が海岸にせまり、平野の少ない段畑地域で、大きな河川もないため毎年のように水不足に悩まされており、地域住民は肱川からの分水を強く望んでいた。とりわけ、四二年に西日本を襲った大旱魃(かんばつ)は、水道のほとんどを断水または給水制限に至らせたのみならず、主要産物である柑橘類を枯死させるなどの大被害を与えた。
 こうしたなかで、四二年には八幡浜・宇和島地方など愛媛県南西部各地域に水資源開発期成同盟会が発足するとともに愛媛県も、四四年に南予地域水資源開発推進本部を設置し、四五年には南予水資源開発計画を発表した。これによれば、南予地区の広域的な開発をその理念とし、肱川水系をはじめ、須賀川・岩松川・僧都(そうず)川を開発し、洪水調節・用水確保を行なうこととしている。その中で肱川水系においては、既設の鹿野川ダムを含め、四ダム、一河口堰の建設を軸に、宇和島以北の肱川流域外の二市七町及び流域内そして松山地区を含めた開発構想となっている。また、農林水産省・厚生省においても、大規模畑作振興地域調査あるいは、南予地区上水道計画に関する水需要及び水道施設現況調査を開始した。
 一方建設省は、肱川の総合開発が洪水防御、農業、上水道と多岐にわたるため、国土総合開発事業調整費による調査を四三年に開始し、翌四四年からは、河川総合開発事業調査費による予備調査に着手し、鋭意調査を進めたうえ、四六年度からは地元及び関係者の強い要望により建設省の多目的ダムとして、実施計画調査を行ない四八年度に建設に着手した。
 野村ダムによる洪水調節と水資源の開発はともに地域社会の発展のための基礎として、南予地域の立遅れを解消し、豊かに発展させるための第一歩となるものであり、愛媛県もまた野村ダムをその要とした南予水資源開発を県政の三本柱の一つとして強力に推進している。
 四六年度、建設省の直轄事業として着手された野村ダムは、南予水資源開発計画の中核であり、年間二七八〇万立方メートルのかんがい用水と四三八〇万立方メートルの水道用水を八幡浜市・宇和島市を含む二市七町に供給することになっている。また、このほか、宇和島市の須賀川ダム、津島町の山財ダム、城辺町の大久保山ダムが完成し、南予の水不足も解決の緒に着いたところである(表4―26)。

 南予用水農業水利事業

 この事業は、宇和島市・八幡浜市を中心とした二市七町の沿岸部樹園地の用水確保をし、農業生産基盤の改善、農業経営の合理化と安定を図る事を目的に計画されたものである(図4―15)。この地区は耕地の八三%におよぶ約八七〇〇ヘクタールが果樹園であり、そのほとんどを柑橘類が占めており、当計画ではこのうち五六七三ヘクタール(関係農家約九五〇〇戸)に対し、最大三五〇二立方メートル/S、年間最大二七八〇万立方メートルの取水を野村ダムからかんがいするものである。野村ダム貯水池内に設置する取水塔より約六㎞のトンネル(吉田導水路)で吉田町に導水し、これより南北に分岐した幹線水路(約九〇㎞)により受益地に配水し、固定式スプリンクラーによる散水かんがいを行なうものである。

 須賀川ダム

 宇和島市の水がめである須賀川ダムは、須賀川総合開発事業の一環として、宇和島市柿原地先に多目的ダムとして建設されたもので、洪水調節・流水の正常な機能維持の確保・不特定用水の確保・上水道用水の供給を目的とするものである。しかし、今日では生活の向上は水の消費を増し、南予用水事業への期待が大きい。

 山財ダム

 津島町に五五年に完成した山財ダムは町内と三浦半島(宇和島市)・由良半島(内海村を含む)のかんがいと上水道供給を主目的とし、下流の岩松川の洪水調節・不特定用水の確保をも兼ね備えている。現在、末端地域での給配水施設の建設を進めている。

 大久保山ダム

 内海村を除く南宇和郡四町を関係受益区域とし、かんがいと上水道供給を主目的に建設された。




表4-26 南予のダム諸元

表4-26 南予のダム諸元


図4-15 南予用水農業水利事業計画

図4-15 南予用水農業水利事業計画