四　農村工業

　工業の現況

　表４―７のごとく、宇和町、野村町共、県全体に占める製造業の地位はほぼ同様で、主要業種も両町とも、第一次産品を利用した製材、食料品加工や、農村の労働力に立地した縫製、電機を中心にした、女子雇用型の中小農村工業が主体である。古くは両町に酒造業、野村町に和紙製造業などがあり、現在もその残像はみられるが、比重は大きくないし、和紙については別項で述べられるので、本項では新しい農村工業について考察する。

　地域産品に関連する農村工業

　まず、表４―８のごとく木材工業が約二三億円と宇和町最大の製造品出荷額をあげ、野村町でもかなりの比重を示して重要である。主に国道五六号沿いの鬼窪、国鉄卯之町駅周辺や、久枝・下坂戸・東多田などに広く分布し、県道野村線沿線にもみられる。大部分は個人経営の小企業であるが、従来の建築用製材中心から次第に変化が見られる。代表例が、昭和四一年に明浜町から宇和町の誘致で進出した秋田製材で、地元の原木以外に輸入材も使いながら、町内外の下請関連企業を使って梱包材料・パレット材・土木建築用パネルなどを県内はもとより、県外へも出荷している。国道など道路整備の進行がこれを可能にした。
　次に、宇和町の食料品工業も工場数こそ八工場と少ないが、地域にとっては特色がある。清酒・しょう油など伝統的なものはほとんど旧町街にあるが、誘致工場は国鉄駅の周辺や農村部に立地している。四九年に進出したサンワ食品は、大規模小売店のフジ系列で製品の豆腐類はすべて南予方面の系列各店へ出荷しており、交通位置の優位性が立地条件ともいえる。また四五年に吉田町から進出した愛媛食品興業（株）は、地元のみかん・もも・たけのこなどを原料としたかん詰を製造している。地元の原料と農閑期の労働力に立地したものであるが、国道五六号の存在も見逃せない。
　その他、特殊なものとして、野村町のキャッチフレーズにもなっているシルク（絹）を生み出す愛媛蚕糸農協の蚕糸工場は大正一二年（一九二三）創業と古く、町を特色づける農村工業であり、昭和四〇年代以後の繊維工業導入の基盤をなしている。

　労働力に立地する農村工業

　この代表的なものは繊維・衣服工業である。歴史的に当地域は養蚕業が盛んで、伊予蚕業沿革史によると、大正五年（一九一六）器械製糸工場が六工場も発達していた。昭和九年に東宇和蚕糸農業協同組合が設立されて発展したが、戦争により一八年に生産中止以後消滅の道をたどった。これに代わって三八年ころから縫製工場が進出をはじめ、四〇年代に入って急増した。四一年に八幡浜から四国ソーインググループの宇和ソーイング（一二〇名）が、四二年には大阪から八興繊維が、それぞれ宇和町に進出した。又、野村町にも四六年にサンケイ野村（一七五名）が進出するなど、大阪その他の県外資本や八幡浜など県内他地域から農村の女子労働力を求めて多数の縫製関係の進出をみた（表４―９）。これらはジーンズやブラウスから各種下着類まで多様な製品を生産するため、従業員一～四名の下請分工場や家庭内職者を多数かかえており、深く地域に密着しながら発展している。県内では現在、今治に次いで八幡浜を中心に南予に繊維・衣服工業の核が発展しつつあるが、本地域はその外縁部を形成するものである。
　もう一つ、本地域を特色づける新しい農村工業として急激に出荷額が伸びたのが電機である。表４―８のごとく野村町では一企業であるが出荷額が業種別の第一位である。これは野村立石電機（従業員一三〇名）である。立石電機（本社京都）の系列会社で、主に工業計器の内、制御機器を生産するため四七年に創業したものである。同社は同じような系列会社を松野町にもつくっている。
　次に宇和町では四五年に東京より進出した共立電器計器愛媛工場が大きい。機械工業を含めて製造業出荷額の第三位を占めている。常時一五〇名程度の従業員で各種電気計器、測定器などを生産している。五三年には三間町に宇和島工場（四五名）を建設した。製品は国内のみでなくアメリカ・ヨーロッパなどへも輸出されている。東京から往路、宇和工場へ自動車で部品を、復路製品を東京へ運んでいる。本地域への進出の理由は、国道五六号などの交通条件や労働力が大きな魅力になっていた。
　以上のような立地条件を求めて電機以外で機械工業も進出している。松山市の小型ボイラーメーカーの三浦工業の関連会社である三栄工業（宇和町）でボイラーの単体組立て工場として四八年に創業し、製品は松山の親会社へ送っている。四七年には城川町に同様な子会社、三浦工機を設げてボイラー部品を生産している。このように電機・機械共に地域に育ったものでなく、県外や松山などから地域の労働力を求めて進出したものが多い。