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愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)(昭和63年2月29日発行)

四 製紙関連工業

 製紙・紙加工機械製造の鉄工
 
 製紙関連工業としては、鉄工、工業薬品、合成樹脂加工、製紙原料などがあり、ほとんどが中小零細企業である。工場は伊予三島市では宮川・朝日・村松・寒川地区に、川之江市の場合も金生川流域と川之江町の中心部に多い。いずれも製紙、紙加工、鉄工、合成樹脂加工、工業薬品、製紙原料等が一帯となって製紙関連工業地帯を形成している。しかし、規模拡大と交通条件の良さを求めて国道一九二号バイパス周辺や松柏・中曽根地区などにも立地をみている。
 伊予三島・川之江両市には製紙機械や紙加工機械の製作・修理に関係する企業は六四あるが、従業員規模の比較的大きいのは川之江造機㈱で、川之江工場と三島工場を持ち、西日本では大手企業の一つである。当地方には製紙機械を組み立てることのできる企業は数社しかなく、ほとんどはその機械の修理や部品を作っている。主に木材パルプ製造機械、抄紙機、ティッシュペーパー・タオルペーパー折機などを製造している。昭和四〇年代に入り、紙加工業の発展にともなって紙加工機械の製造が多くなっている。製品はすべて受注制で、企業の規模に合わせて製作しており、製紙、紙加工会社に対して従属的存在である。しかし、当地方の製紙工場、紙加工工場の機械は、大手企業の一部を除いてすべて地元の鉄工会社で製造されており、当業界にとって不可欠な存在となっている。
 伊予三島市豊岡町大町の㈱片岡機械製作所は、各種巻き取り機の世界的なメーカーである。同社は昭和三七年創業の包装用紙紐の下請加工から発展した企業で、片岡皓社長のアイデアによる機械製作へと変身をとげて、今では同社の製品の九〇%が巻き取り機である。輸出が三〇%を占め、内外の特許・実用新案の出願は約五四○件にも達している。この他、比較的規模の大きい企業としてはエノキパルプ鉄工㈱や㈱新浜ポンプ製作所などがある。

 製紙用工業薬品

 パルプ・製紙工業は化学工業の一分野に位置づけられているように化学薬品のはたす役割は大きい。例えは、紙製造過程で取り扱っている工業薬品としては、木材パルプ、故紙などの原料を蒸解、離解する苛性ソーダ、亜硫酸ソーダ、脱墨剤(活性剤)、漂白に利用する次亜塩素酸ソーダ、抄紙工程では用途に応じて染料、硫酸バン土、カチオンタイプ高分子樹脂、サイズ剤(ロジン系、石油系)などである(図5-19)。
 こうした工業薬品を取り扱っている販売会社は伊予三島市に五、川之江市に一〇社あり、中には川之江市に進出してきて営業所や出張所をおく企業もある。工業薬品は一部の大手製紙会社を除いて、地元の工業薬品販売会社を経由して納品されている。播磨化成工業㈱・㈱日新化学研究所・三ッ輪化学工業㈱のように自ら製造販売する企業も一部小規模ながら派生しているが、多くは卸商として存在している。図5-19には生産工程中の工業薬品の利用状況のモデルを示したが、実際には各製紙会社の製造する紙の種類や特質によって、工業薬品の種類や分量には微妙な違いがあり、企業秘密にはいる工業薬品もある。

 合成樹脂製品製造・加工

 今日、スーパーマーケットの買い物袋(レジ袋)といえば半透明で薄く、手提げ式のポリ袋が一般的になってきた。かつての角底紙袋にとって代わったこのポリエチレン製の袋は、製紙業界から派生した業種の一つで、伊予三島市の福助工業は、ポリ袋で全国卜ップのメーカーに成長している。明治四三年(一九一〇)創業の福助工業㈱は水引→のし紙→紙袋→包装紙→パラフィン紙→高圧ポリ袋→中・低圧ポリ袋・スチレン製食品容器と順次製造品目を時代のニーズに合わせてきた。業界第二位のスチレン製食品容器は、ディッシュ、フードパックなどに多く使用され、原料はポリエチレン樹脂である。従来の木製の折り箱あるいは金属・陶器製の容器に代わるもので、和・洋風料理の盛り皿から菓子、弁当、生鮮食品用の容器まで幅広く用いられている。伊予三島・川之江両市にはこの福助工業を核として、㈱マルカワ、スズキ工業㈱など四〇社に余るポリ袋やポリエチレンフィルムの製造・加工・印刷を行う企業集団がみられる。これら三社を除いてその規模は零細で、印刷の型・判・デザイン・切断などの分野の下請関連工場として存在している。これら包装産業の業種的特徴は、肥料や米麦用など一部の量産ものを除けば受注の大半が多品種少量生産であり、比較的中小企業向きの業種であること。原料メーカーとユーザーとの板ばさみにあってその採算性は必ずしも高くないこと。四国だけでも一〇〇社余りもの中小零細メーカーが乱立しており、過当競争的体質を持っていることなどである。
 元来、当地方の家庭紙、衛生紙綿包材としてポリエチレン製包の製造、印刷が始まった。そのため紙加工業の成長とともに栄え、特に衛生紙綿が開発されてから次第に規模を拡大してきた。また、新しい素材を使った研究開発も盛んで、ポリエチレンやポリプロピレンフィルムの生産もみられ、紙加工業者以外での生産が急増してきた。今日では食料品パック用容器、レジ袋、ファッションバッグなどとその用途も多様化し、家庭紙、衛生紙綿用のポリ包装用のシェアは相対的に低下している。

 製紙原料

 当地方の製紙業者は製紙原料である木材パルプは、外国や大手パルプ会社より購入している。大王・丸住の大手製紙会社になると自社でパルプの生産を行っている。他の中小製紙向けパルプメーカーとしては愛媛パルプ協同組合があるが、これは上質故紙パルプの製造が中心である。地元の製紙原料を取り扱う企業はその取り扱い品は故紙がほとんどであり、大都市を中心とする故紙回収業者からの仲介業的な立場にあるものがほとんどである。それでも両市に数社ずつ三椏・楮・パルプなどの製紙原料を扱う企業もみられる。
 故紙の再生用途はあまり多くなく、新聞紙の一部、ダンボールの中芯、防水紙程度である。一方、製本会社などから出る本の切端やノートの端、調査用紙などの上質紙の故紙となると、書道半紙や奉書用紙などの再生用途として広く利用されている。故紙を中心としながらも製紙原料を取り扱う業界も当地方の製紙工業の発展に伴って共に企業実績を伸ばしており、製紙業なくして派生し得なかったものである。逆に、今日では地元だけでなく県内はもとより、関西や関東などとも取り引きがあり、紙販売業者と同じく、地元の製紙会社だけの企業ではなくなっている企業もみられる。
 この他、製紙業関連企業として重要な地位を占めている業種として紙販売業者がある。紙加工業との兼業の小零細業者が多いが、カミ商事㈱・タイカワ商事㈱・㈱合田倉太郎商店・石崎商事㈱・森川㈱・カワイソ産商㈱・カワイチ㈱などのように、当地方の製紙、紙加工、販売に欠くことのできない存在をなす企業も多い。また、倉庫業や倉庫業を兼ねた輸送業者の存在も前述の商社同様に重要となっている。



図5-19 紙生産工程の工業薬品の利用―蒸解法による故紙利用の場合―

図5-19 紙生産工程の工業薬品の利用―蒸解法による故紙利用の場合―