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愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)(昭和63年2月29日発行)

一 宇摩平野の稲作と水利①

 土地利用と稲作の地位

 愛媛県東部の燧灘沿岸に細長くのびた宇摩平野は、長さ約二〇㎞、南側に法皇山脈を背にし、宇摩郡内の土居町から伊予三島・川之江両市が主要部を占めている。宇摩平野は東の金生川および契川、西部では土居町の関川の堆積作用によって、東西相応じるように、法皇山脈北斜面の小河川の水流を集め燧灘に流入して小平野を形成している。法皇の山麓に沿って急斜面が続き、中央構造線に沿う断層崖の急斜面から流下する諸河川は、崖下に連続して複合扇状地を形成し、水量が少なく天井川になっているものが多い。法皇山麓地帯の台地には、灌漑用溜池が多く棚田水田に引水されている(写真5-2)。
 こうした宇摩平野の土地利用をみると、銅山川流域の金砂・富郷などの嶺南地域を除くと、概して水田率が高く水稲が基幹作物である。昭和五五年の土地利用と農作物の作付延面積をみると(表5-1)、宇摩平野の二市一町に関係する水田率は五〇%以上で、稲が作付延面積の三分の一以上を占めている。稲に次ぐのが果樹、野菜の順である。しかるに、宇摩平野の水稲作付面積、収穫量はともに減少傾向を示し、特に昭和四五年から米の生産調整が実施されて以来一層減少が著しくなった(図5-1)。主な減少理由は、宅地への転用および米の生産調整と、さらに一毛田の塩害発生地帯の耕作放棄などである。同五九年の水田転作実績は表5-2の如く、各市町とも目標達成は一〇〇%以上である。図5-2は宇摩郡地方の水稲の栽培品種で、平野部の主要品種は「くさなぎ」と「松山三井」で「日本晴」がこれについでいる。

 灌漑用水源と干魃

 稲作には多量の用水を必要とする。水田における蒸発量・降水量の多寡にもよるが、平均すると一〇アール当たり四〇〇〇~五〇〇〇立方mの灌漑用水を必要とする。この用水源を何に求めているかが問題になる。集落別水源依存状況にはかなり地域差があって、土居町は河川五六・三%、ポンプ揚水が三二・五%であるのに、川之江市は溜池と河川で七一・八%を占めている(表5-3)。
 温暖な気候に恵まれた米麦二毛作地帯であるが、しばしば寡雨のため干魃に悩まされ、古来から山麓の溜池、揆釣瓶、足踏みポンプ、足踏み水車、動力揚水機など貧弱な灌漑水源に依存して米作が営まれた。それゆえに、三年に一回は日照りになるといわれ、五年に一回の割合で周期的大干魃を受けている(図5-3)・(表5-4)。
 昭和一四年の干魃被害の激甚地域は宇摩郡で、被害率はおおよそ六割に近い。水稲の被害程度と比較的密接な関係があり、しかも最も単純に干魃の程度を指示する気象要素は、五月から八月の降水量が五〇〇mm以下の地域に被害率が次第に高まり、降水率が五〇%以下の地域においては急激に被害率が大きくなる(図5-4)。昭和一四年の愛媛県における各郡の水稲干害被害率と五月から八月の降水量との関係を求めると、五月から八月の降水量が五五〇mm以下になると干害の恐れあると推定されるが、この地方は例年少なくとも五〇〇mm以上の降水量があるから、通常はそう激甚な干害が発生する恐れはないと思われる。したがって、水稲の干害による被害程度は、地形条件・直接的には灌漑水源の種類により支配されることが大きい。








表5-1 宇摩平野の市町村別土地利用

表5-1 宇摩平野の市町村別土地利用


図5-1 宇摩平野の市町別水稲作付面積の推移

図5-1 宇摩平野の市町別水稲作付面積の推移


表5-2 東予地域の水田利用再編対策転作等実績

表5-2 東予地域の水田利用再編対策転作等実績


図5-2 宇摩地方の水稲の品種別栽培の割合

図5-2 宇摩地方の水稲の品種別栽培の割合


表5-3 宇摩平野の市町別灌漑用水の主な水源別農業集落数

表5-3 宇摩平野の市町別灌漑用水の主な水源別農業集落数


図5-3 宇摩平野の干害による米の減収量

図5-3 宇摩平野の干害による米の減収量


表5-4 宇摩地方の市町村別干害調査

表5-4 宇摩地方の市町村別干害調査


図5-4 愛媛県における水稲干害と5月~8月降水量との関係

図5-4 愛媛県における水稲干害と5月~8月降水量との関係