データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

愛媛県史 地誌Ⅱ(東予東部)(昭和63年2月29日発行)

 現代はまさに転換期であり、渡るべき国際化と情報化の流れは速く、越すべき高齢化の山は高い。だから新しい価値とヴィジョン=地図が切に求められているのである。
 しかし、真に新しいものは歴史に根ざすもののみである。歴史に沈潜し、その精神を体験して見いだされた光によってのみ新しい地図は描かれ、末来への決意は高められるのではないであろうか。
 転換期における新しい一つの始まりは、常に地方からであった。この意味で、地域史こそ歴史の主軸であるとも考えられよう。
 我々の伊予の国、愛媛は神宿る高嶺とたたえられてきた石鎚の山並みと、古来我が国の文化と経済を形成した動脈であった青き瀬戸の海に抱かれ、豊かで独自性に満ちた歴史を展開してきた。
この歩みと流れの跡を探究し、過去の道統と末来への可能性を見いだすとともに、来るべき時代の人と土地と生の個性豊かな発展のための新しい地図をつくることは、現在の愛媛に生きる者の責務であろうと考える。
 昭和五十四年の夏に着手した県史編さん事業は、県民の皆様をはじめ多くのかたがたの御協力を得て順調に進行し、昨年までに三十二巻を刊行したが、本年は通史編一巻(近代下)、部門史二巻(社会経済5・地誌Ⅱ東予東部)、資料編一巻(近世下)の計四巻を刊行する運びになった。
 本書は部門史の地誌Ⅱ(東予東部)で、六十一年度に刊行した「地誌Ⅱ(東予西部)」のあとを受けて、愛媛の東部に位置する東予・西条・新居浜・伊予三島・川之江の五市及び周桑・宇摩の二郡にわたる、いわゆる東予東部の工業都市の集中する地域像を描き、その特色並びに県から見た地位を明らかにしようとしたものである。本州四国連絡橋及び四国縦貫横断自動車道は、この地域の新たな発展の契機となろうとしている。地域主義の理想を実現するには、まず風土を理解し、土地柄を知ることが大切である。愛媛の未来に関心を抱いておられる県民の皆様に広く読んでいただげれば幸いである。
 終わりに、編さんに当たられた地誌Ⅱ部会長の村上節太郎先生をはじめ委員の諸先生、また貴重な資料の御提供や有益な御教示をいただいたかたがたに厚くお礼を申し上げる次第である。
  昭和六十三年二月
                                                              愛媛県知事 伊賀貞雪