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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

四 石鎚・面河地域

 石鎚山

 四国山地の主峰で、海抜高度一九八二mは西日本の最高峰となっている。山域は西条市・小松町・丹原町・面河村に及ぶ。山頂は輝石安山岩の岩脈でとがっていて、アルプスのマッタホーンを思わせる。山頂付近はとくに傾斜がきつく、一の鎖三三m、二の鎖四八m、三の鎖六〇(昭和五七年石鎚神社調)がある。
 古事記に石土比古神を生むとあり、七世紀から八世紀のころ、大和の役小角によって開かれたと伝えられる。石鎚山は古くから富士山・御嶽山・大峰山・立山・大山・釈迦ヶ岳とともに、日本七霊山の一つに数えられ、山岳宗教の道場として著名である。
 平安時代には弘法大師が登ったといわれ、仏教の影響で横峰寺(四国霊場第六〇番札所)・前神寺(同第六四番)・天河寺などの別当がつくられ石鎚権現と称した。
 明治四年(一八七一)に県社石鎚神社となり、神仏分離によってもっぱら石鎚神社が祭礼をつかさどることになった。現在信者数は四〇余万といわれる。毎年七月一日から一〇日にかけて行われるお山開きの祭典には、全国から十数万の登山者が集まり壮観である。
 この霊峰石鎚山の西には二の森・西冠山・堂ヶ森、東方には瓶ヶ森・手箱山・伊予富士・笹ケ峰など、海抜高度一八〇〇mに及ぶ高峰が連なり、その雄姿はまことにすばらしい。
 また、中腹を過ぎるころから、亜寒帯性樹木のシコクシラベ、モミ、コメツガなどの針葉樹が分布し、下にはシコクフウロウ、リンドウが咲き、特にシコクシラベの白骨林とオモゴザサの山肌は美しく石鎚の特色の一つとなっている。
 昭和四三年八月に石鎚山ロープウェイ、四五年九月には石鎚スカイラインが開通したことから老若男女も容易に登ることができるようになった。新緑紅葉の探勝に、またハイキングや自然研究のため年中登山者が絶えない(写真8-8)。

 山村の文化財

 面河溪谷は石鎚山に源を発する面河川の上流、数㎞にわたる溪谷である。昭和八年二月「史跡名勝天然記念物保存法」により文部省指定の名勝地となった。面河渓の入口は関門で、石英粗面の絶壁が約七〇mつづき、老木が茂り、さらに五色河原・蓬来溪・紅葉河原から御来光の滝へとみごとな景観が続いている。亀腹岩のような高さ一〇〇m、幅二〇〇mの大きな断崖がある。新葉・青葉・紅葉の季節それぞれにおもむきがあり、とくに紅葉は美しく、全国的にも名声をはせている(写真8-9)。
 美川村には海岸山岩屋寺(四国霊場四五番札所)が海抜高度五六〇mの深山幽谷の中にある。礫岩峰のところどころに岩洞があり、奇峰がそびえ立つ景観は、中国本土の桂林地方とよく似て美しい。本堂より六〇〇m登ると逼割があり、鎖の禅(ぜんじょう)を上り二一段の大梯子の上に白山神社の小祠があって実に雄大な景観である。
 同村の久万川上流にある上黒岩岩陰遺跡は昭和三六年六月に発見されてから五回にわたって綿密な調査が行われた。縄文早期の人骨・土器・装飾品など多数が発見され、約一万年前の旧石器文化の最古層に属する遺跡として、四六年に国指定史跡となった。四九年七月にはこれらの出土品を展示する考古館が完成した。展示品のなかには、日本で初めてといわれる川原石に女性像を描いた線刻石、約八千年前の女性のほぼ完全な人骨など学術上貴重なものが多い。
 久万町は海抜高度四九〇mの盆地の中心で、菅生山大宝寺(四国霊場四四番札所)の門前町に起源をもち、土佐街道の宿場町であった。大宝寺は近郷切っての名刹で、朱塗の勅使橋を渡るとうっそうと老杉の茂る参道は、奥ゆかしさを覚える。境内には樹齢数百年を経たスギ・ヒノキ・カエデが群生し、山地植物の宝庫である。同町直瀬にある古岩屋は雄大な礫岩峰が幾重にもそびえている。春の桜、秋の紅葉は周囲の山々とよく調和し、この奇岩をめぐる大自然の景観美は、国指定の名勝地であり、四国カルスト県立自然公園に属している。また下畑野川河合は、菅生山大宝寺(四四番札所)から峠御堂をこえて、前述の海岸山岩屋寺(四五番札所)に通じる遍路道にあたる。河合から岩屋寺までは六六丁(六・六km)の往復であったので、その間に不要な荷物は河合集落においたり、休んだり、あるいは宿泊するのが例となっていた。こうして、この遍路の「うちもどり」の地点に遍路宿の集落を発達させていた。この付近一帯を自然休養村として、昭和四七年農林水産省から指定をうけ整備を進めている。菅生地区を総合拠点とし、自然休養村センターを設け、いっぽう古岩屋には国民宿舎をはじめ浴場(鉱泉)、老人憩いの家、不動尊の安置、遊歩道の整備など、下畑野川地区には観光果樹園、花木園、花き園、きのこ園、農林産物加工施設(みやげ品)、ふるさと村、青少年野外活動のための施設の整備など。これらは都市生活に対応した、健全な国民生活に必要な緑の空間地帯を確保するためのものである(図8-9)。

図8-9 愛媛県の自然公園

図8-9 愛媛県の自然公園