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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

2 機能の諸相

 都市の機能

 都市は、いろいろな社会的活動を行っているが、それは人間の営む複雑な機能を支えているところだといえる。都市の機能は、経済活動について産業のうえからみると、優れて第二次・三次産業の部門が集中し、さらに第四次産業とよばれる情報サービスの活動も盛んである。就業者もこれら産業に従事する人びとが圧倒的に多い。政治的にも行政の諸官公庁が集まっていて、県内や地域の行政サービスを掌握している。高度の教育・研究機関や報道機関などが集まっているところも都市で、その研究成果や情報の集散は、情報化時代といわれる現代社会では重要な機能のひとつとなっている。
 これらの都市機能は、その活動が互いに関連しあって総合的な働きをしていること、そして、機能は中心性をもっていて、活動の集中と拡散が行われていることが特色である。
 都市を機能のうえから分けてみると、さきに述べた地形的条件からみた都市の立地とは異なった機能的立地が認められる。例えば、城下町に起源をもつ松山・今治・宇和島などの諸都市は、その地域の政治的都市であり、また商工業都市でもあるし、とくに今治市は海陸交通の結節地としての重要性を高めてきたことからすると港湾都市ともいえる。新居浜市をはじめ伊予三島や川之江の両市は、その産業の発達からみて、工業都市としての機能を強めたものとみてよい。
         
 都市機能の特化
         
 都市は多くの人口をかかえているので、その機能には、都市のもつ共通した一般的機能と、それぞれの都市に固有の特殊な機能とがある。むしろ後者の機能をみたほうが都市の個性を知るのに適当である。というのは、都市の機能も、それぞれの地理的、経済的、社会的諸条件のもとで分業を行っているからである。
 県内一二の都市について、国勢調査による各市の産業別就業者の割合を県内都市のその平均の割合に対する水準値を用いて、特化の程度をみた(表7―2)。この特化係数は、各都市がどの産業部門に多くの人をかかえているかの相対的な比較によるものである。その係数が一〇〇を超えているのは、県内都市の平均より高いことを示し、特定の産業部門の活動に特色をもっている。
 人口規模が最も多い県庁所在地の松山市は、公務・金融・商業・サービスに特化した都市で、政治・経済の中心都市である。とくに公務が高いのは官公庁の集積によるもので、金融・保険も全国と地方の銀行や保険会社の本社・支店が集まっていることによる。サービス業の特化係数が他の一一都市をしのいで最高であることや、卸売・小売業のそれも高いことは、周辺地域への活動が盛んであることを示している。松山市ほどに人口規模は大きくないが、よく似ているのが宇和島市である。公務・運輸・卸小売・サービスの各部門に特化し、行政や商業交通の中心都市であることに機能が集まっている。ただ、農林水産業のそれが高いのが特色で、これは、農業と水産業に就業者が多く、最近合併した旧宇和海村をはじめ農漁村地域を市内にかかえていることによる。
 松山・宇和島の両市に対して、他の諸都市は幾つかの産業部門に特化した個性のある都市となっている。
 新居浜市は工業都市で、建設業や運輸業などが高いのは製造業の特化に関連してのものである。同じ型に入るのは、伊予三島と川之江の両市である。今治市は、工業・商業都市であり、運輸業がやや高いのは港湾があり海陸交通の要地となっていることによる。西条市は工業・農業都市で、工業立地を多くみていることから、工業化が進行している都市で、また地域の行政機関が集まっているため公務がやや高い。
 農林水産業への特化がいぜんとして高いのは、大洲、北条、伊予の各市で、第二次・三次産業への集中を都市の資格としてみたとき、伊予市を都市とよべるかどうかは疑問である。北条市の運輸業は海運業者が集まっているためで、大洲市では西条市と同じく地域の行政機関があることから公務のそれが高い。八幡浜市は、規模のうえから宇和島市につぐ地域の中心都市で商業・交通にも特化をみせるが、農業就業者が多いことから農商業都市の型に入っている。東予市も農業就業者が多いが、最近の工業化の進行で製造業への特化が高く、農工業都市といえる。
 このような特化係数からみた都市機能による都市の型は、長い都市化の歴史からすると、ある一時期の姿を示すにすぎない。例えば、松山市は明治二〇年代に四国を統轄する第一〇旅団が設けられていたが、これは当時の行政や商工業の機能のほかに軍事(兵営)的都市としての重要な機能を加えていた。また、新しい機能として登場したのは道後温泉を主とした観光機能で、サービス業の特化係数が高いのは、これによるところが大きい。今治市でも、港の整備やトラックターミナルの建設を進めているが、これは、卸売や小売商業に偏っていた商品流通機能を、より大量で広い範囲にわたる物的取引の拠点としての機能を高めるものである。

 都市間の階層性

 都市機能のもつ重要な特色は、それが都市に集積するとともに、中心として活動していることである。とくに後者は中心地機能とか結節機能とかよばれていて、都市が発展する最も基本的な条件とさえなっている。この中心地機能は、その種類や集積の規模によって、活動する範囲に広狭がある。例えば、松山市には愛媛県庁があって、県域全体にわたる行政管理を行っているし、さらに四国郵政局や電波管理局、NHK四国本部などがあることにより、それぞれの業務管理は四国全体に及んでいて、同市は県内のみならず四国の管理機能の一部をもっている。もちろん、民間企業の本支店の業務についてもこのことは同じである。
 中心地機能のありかたを示すもののひとつとして、就業する人びとの職能からみることができる。まず国勢調査から管理的職業従事者の市町村別の規模別順位をみてみよう。この職業は、民間企業や官公庁の業務活動で、地域を管理し、活動についての情報を集め、その意志を決定することにたずさわっているもので、都市の管理機能の強さの程度を示すものである。これによると、松山市はとびぬけて多く、約七五〇〇人
で県内の三分の一を占めて首位にあり、今治や居浜・宇和島の三市が第二のグループ、そして伊予三島市など四市が七〇〇人台にあって第三グループ、北条市や松前町など五市町が三〇〇人台で第四グループをつくっている(図7―16)。松山市の地位は人口が四〇万人を超え、県内で最大の都市であって、これにつぐ新居浜と今治の二市が一〇万人台で段差が大きいことは、管理職のそれとほぼ対応している。松前町が伊予市よりも上位にあるのは東レ愛媛工場の立地によっている。同じよ
うに専門的・技術的職業についている人びとをみると、松山市が首位で県内の約三〇%を占め、これにつぐのが工業都市新居浜で、以下、今治・宇和島・西条・東予・八幡浜・大洲・伊予三島の各市であり、西条や東予の両市が順位が高いのは、大規模な工場が立地していることによる。
 管理職の集まっている規模の順位から、都市間にはグループがつくられていることがわかった。これから、直ちに都市相互の関係は判断できないけれども、上位の都市は下位のそれよりも、より広く、また活動の意志を決定するのにより重要な地位を占めていることは予想できる。このように都市間には管理機能のうえで階層関係がある。この関係は、人口規模というよりも、産業とそれに従事している人びとの仕事の内容に密接なっながりがある。
 松山市が管理機能を多く集め、県内でもその中枢としての地位を占めていることは、一般によく知られている。それは、民間企業の本社、全国的規模の企業の県内支店、あるいは官公庁などが多いことによっているが、県内の他の都市との間でどのような地位にあるかは、余り知られていない。同市が金融・保険業で都市機能がすぐれていることから、銀行の本支店網を例にみてみよう。
 松山市には、日本銀行支店と全国規模の都市銀行の支店が二、信託銀行支店が一、県外の地方銀行支店が六、同じく相互銀行支店が四、県内に本店をおく地方銀行が伊予銀行、同じく相互銀行が愛媛相互、東邦相互がある。このほか農林中央金庫や商工中央金庫の県内支店もある。金融機関は預貯金を集めて企業や個人に融資する活動を行っているため、その本・支店の配置は経済活動が活発な地域に配置され、金融情報の収集に努め、とくに本店は支店からの情報を判断する中枢機関である。伊予銀行の例では、県内を五つの地区(ブロック)に分け、松山本店をはじめ今治・新居浜・宇和島・八幡浜の各支店がブロック店として位置づけられ、ブロック内の支店を統轄している。その中枢が本部で松山本店内にある(図7―17)。このブロック店と支店による網(ネットワーク)をみると、西条・伊予三島・川之江市の支店が新居浜支店のなかにあり、大洲支店が八幡浜支店の網のなかに組みこまれている。
 ブロック支店のある都市は、それぞれの地域の経済活動の中心都市としてあるが、それは、銀行活動で預貯金を多く集めることができ、また企業などの融資先が多いところでもある。ブロック支店の本部に対する地位は、今治と新居浜の両支店がほぼ同格で上位にあり、宇和島、八幡浜がこれにつぐ。とくに南予地域は二つのブロックに分かれていること、北条や伊予の両市は支店が一つしかなく都市のなかで最下位におかれていることがわかる。     

 都市性の高低

 さきに管理職従事者の数や銀行の支店網などから、県内の都市の間に階層が生じていることがわかったが、改めて、多くの指標を用いて都市性をみてみよう。
 この都市性とは、人口の構造や就業状況、商業や工業の生産性、さらに宅地率や借家率など、都市の社会的、経済的特色を示す指標を一つの約束のもとで分析したもので、この数値の高低は「都市らしさ」の程度を示すものと考えてよい。もちろん、この結果は、都市のもつ中心地的性格をも示していて、その中心地機能と深くかかわっている。
 松山市は都市性を示す点数で最高であったことから、これを一〇〇として、これ以下の一一都市の得点の基準とした。二位は今治市(九二)、三位は新居浜市(八五)、ついで伊予三島(六九)、川之江(六五)、八幡浜(六五)、宇和島(六〇)の五都市は同じ程度で一団となっている。これらにつづく都市は、西条(五八)、伊予(五一)、北条(五〇)と、松山市のほぼ二分の一程度の都市性をもっているにすぎず、最下位の大洲市は四五と低い。
これらの諸都市の順位の間に、松前町(六二)をはじめ伯方(五四)、波方(五三)、大西(四六)、玉川(四六)、砥部(四五)の諸町が入ってくる(昭和四五年)。それは、松前町についてはすでにふれたように、松山市の西郊にあって東レ愛媛工場の立地や住宅団地の増加など工業化や都市化が進んでいることによるもので、そのほかの町でも同じである。伯方や波方の両町は海運業の町としての性格が現れている。
 都市性の高い松山・今治・新居浜の三市は、周辺の町村への都市近郊への変化を進めて、より都市中心性を強めている。宇和島市が予想外に低く、その中心性をようやく保っていて、八幡浜と大洲の両市では中心性を失っている。そして、西条市は新居浜市の、北条市と伊予市は松山市のそれぞれ衛星都市的存在で、中心性は低い。

 都市としての魅力

 都市の機能やその性格は、決して容易に判断はできない。それは、都市が人間の営む複雑な機能を支えているところで、多様性にとんでいることによる。都市は、全く人間の一人ひとりと同じく個性をもっている。
 しかし、これまでにみてきたように、都市機能にかかわる局面を、ある約束のもとで分析してみると、人口の大小と産業の構成とその規模から、都市の型や階層性、都市性などに相違があることがわかった。これらに加えて、それぞれが、どのような魅力をもった都市であるかについてみてみよう。
 魅力をどのように表すことができるのか、を考えたとき、「働き、休息し、楽しく遊び、教育をうける」環境のいいところだとみることができる。これらを、自然環境(基礎)、文化環境、消費環境、経済中心性、そして工業生産などからみた生産と成長性などの六つに分けて、指標を分析し、対象都市の平均に対する水準を求め、図に示してみた(図7―18)。
 総合してみて、あらゆる局面で魅力のある都市は、人口が二〇万以上でないと現れてこない。とくに中心性が高いことが魅力を高める重要な条件で、周辺の市町村から多くの人が通勤通学や買物などで集散することが必要である。
 松山市は地域中心都市としてあり、すべての指標で平均を超えた標準型の都市である。とくに市域が広く耕地や森林が多く、経済中心性が強い。もっとも、この形は松山市をしてより魅力をもたせる局面に乏しいともいえる。生産と成長が相対的に低いところに、これからの発展が期待される。標準型に類したのが今治市で、生産がやや高いのは工業都市としての機能があることによる。経済中心性が相対的に低く、県内第二の地域中心都市としては、商業・サービス業でいっそう拠点性を高めてゆく必要がある。この二つの都市は、すべての環境が平均的で、暮らしてゆくのに魅力があるとみてよい。
 新居浜・伊予三島・川之江の三都市は、生産と成長が平均またはそれ以上で、工業都市の代表的な形である。働く都市であって、休息、教育文化、消費など、暮らしの豊かさを求めるには魅力を欠く。急速な工業化をみせている西条市は、先の三都市についで魅力に欠けたところがある都市となっている。いずれも都市としての機能整備が工業を主とした経済活動からの波及がまだ乏しいところである。
 宇和島と八幡浜の両都市は、人口が五万以下になると都市の魅力があらゆる局面で低くなる最もよい例で、働くことと、住むことへの魅力が乏しい。土地がせまくて市街地の人口密度が高く、その成長は周辺の農漁村の生産に依存することが大きく、消費や経済中心性も近郊に頼っている。松山市から距離的に遠い南予地域にあって、
中心的な二つの都市が魅力を高めることがその地域に対する都市としての責任が負わされているといってもよい。都市の特化係数で農水産業が高いことが都市機能の整備に結びついていないところに問題がある。
 大洲・北条・伊予の三都市は、農業都市または松山市の近郊都市であって、その魅力は極めて乏しく、都市としての機能を備えていないことによっている。魅力の低さは、松山市の都市性の強さに影響をうけていることは、その商圏の拡大などによって裏づけされる。消費や文化環境などを、どのように高めるのか、影響力の強い都市との間で、農村の中心集落としての小都市のありかたを考えさす好い例となっている。

表7-2 愛媛県内都市の産業別就業者構成からみいた特化係数(昭和50年)

表7-2 愛媛県内都市の産業別就業者構成からみいた特化係数(昭和50年)


図7-16 愛媛県における管理的職業従業者の規模別順位(昭和50年)

図7-16 愛媛県における管理的職業従業者の規模別順位(昭和50年)


図7-17 松山市に本部をおく地方銀行のネットワーク(昭和57年度)

図7-17 松山市に本部をおく地方銀行のネットワーク(昭和57年度)


図7-18 愛媛県内諸都市の魅力パターン

図7-18 愛媛県内諸都市の魅力パターン