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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

3 その他の工業地域

 南予低位工業地域
 
 東予や松山の工業地域以外の県内市町村は、工業の立地や生産からみて、特色のある工業地域として認めることができないほどに、工業は分散し、その製品出荷額の県内に占める割合は低い。
 工業生産水準からみて低位、下位の生産地区が多くを数える県内で、低位地区が隣接しているのは南予地域の宇和島、大洲の両市と宇和、野村、三瓶ならびに保内の四町である。大洲市は事業所生産水準が七九、労働生産水準が七〇といずれも県内平均より低いものの、南予地域の市町村のなかでは最高である。宇和島市は大洲市に比べて水準値はともに半分程度にしかすぎない。大洲市には松下寿電子大洲事業部や明治乳業愛媛工場をはじめ各種工業の立地をみているため水準値が高い。これらは、内陸型の労働力や原料産地によった立地である。宇和島市には造船工業が立地するとともに、かまぼこ製造をはじめ水産加工業の立地に特色がある。これに対して三瓶町や保内町は繊維工業の立地係数がそれぞれ二・五と一・二と県平均を上回っているが、前者では喜福工業、後者では南予メリヤスなどが立地していることによる。このほか、食品工業としては、吉田町の宇和青果の罐詰工場や保内町のハンバーガー生産の西南開発とみかんジュース生産の日本柑橘工業などがある。

 中予・南予下位工業地域 

 この地域は、松山工業地域や南予低位工業地域の周辺に隣接した中予・南予地域一帯に広がり、八幡浜、北条の両市をふくみ町村数が最も多いところである。事業所生産性と労働生産性の水準値は、八幡浜市でそれぞれ三二と四三で著しく低く、むしろ中山町や長浜町がやや高いほどである。このような低水準は、事業所の数と規模、雇用がいずれも小さいことによるもので、せいぜい農林水産品の加工業という特定業種か、縫製業の農村工場などが少数立地する程度である。
 このなかで北条市には倉敷紡績北条工場や瓦製造業が立地し、八幡浜市には水産加工業や縫製業がある。また肱川河口右岸の長浜町臨海工業地区には、炭素電極を生産する昭和サボアが四九年に進出した。このほか、四六年に制定された農村工業導入促進法の適用をうけて、農業従事者が工業に就業する機会を促進する目的で立地した工場が多いのもこの地域の特色である。それは、四九年の内子町への入江工研、菱藤電機、五四年の三間町への共立電気三間工場、五六年の小田町へのタケチゴムエ業、さらに一本松町へ用地一六haを確保して進出を決定した松下寿電子などがある。農村の女子労働力を多く雇用して立地する工業には繊維、縫製業が多く、例えば八幡浜市の酒六は明治二一年(一八八八)の創業で、織物・タオルの生産をしているが、その従業者三三七人のうち現業の七〇%は女子である。同じく四国ソーイングは婦人服やワイシャツなどの縫製加工業であるが、従業者四二〇人のうち八〇%が女性で、しかも同社は従業員数規模が八人から一三〇人に及ぶ協力工場を八幡浜市内をはじめ周辺の三瓶、伊方、明浜、城辺、野村、宇和島、大洲の八市町村に一六、従業者合わせて三七八人を数えている。このような労働集約的な縫製業が、小規模ながら農山漁村の集落のなかにまで立地し、雇用の安定と所得収入に寄与している例は多い(写真5-16)。

 島しょ低位工業地域

 瀬戸内海の越智郡に属する島じまには、中予や南予地域の工業生産が下位の地域よりも水準の高いところがある。とくに岩城村は中位にあり、伯方町は低位であって、他の町村に比べても高水準にある。これは造船工業の立地によるもので、重化学工業の立地係数でも岩城村は二・一、伯方町一・四、上浦町一・二といずれも県内平均より上回っている。これら造船工業は、今治地区の造船工業地域の一部をなすもので、県内の海運業の受注や因島市その他の大規模な造船工業の協力工場としてもある。