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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

二 気象災害

 気象災害多発の原因

 気象が災害の発生、または拡大のおもな原因となる災害を気象災害という。愛媛県が気象災害でこうむる年々の損害は莫大であるが、県内に気象災害が多発する原因の第一は、前節で詳しく述べたように気象条件そのものにある。季節風気候が卓越し寒暖の差が大きく、低気圧の往来も多く、台風の通路にあたっているなどきびしい気候環境のもとにあることである。第二に、地形が複雑で急峻であるから急流河川が多いことである。とくに愛媛県の山地は起伏が大きく、河川勾配が大きいので浸食力・運搬力が強く、下流では堆積作用が旺盛で、河川災害が多い。県内には肱川を除いて大河川は少ないが荒れ川が多く、とくに四国山地北斜面の河川にいちじるしい。第三に、県内にはもろい地質構造のところが多く、崩壊や土石流が発生しやすく、大雨によわい風化のすすんだ花崗岩地帯や地すべり地域が広く分布している。
 このように県内の自然条件は気象災害を誘発しやすい状態にあるといえよう。しかしいっぽう、災害とは人間が自然に働きかけて土地を人間活動に適するように改変した農地や道路・住宅地などの財産に被害をおよぼし、人命が奪われることである。いわば災害には自然的な側面と社会的な側面があり、歴史的にもこの両者の関係は変化してきた。かつては瀬戸内側では寡雨気候のため干害がたえなかったが、ダムを建設し他の流域から用水を確保する施設がととのった結果、現在では島しょを除けば干害は少なくなった。
 かわって都市化が進み住宅地が拡大すると都市水害が頻発するようになる。農業の商業化が進んだ結果、強風によるビニールハウスの破損の被害が近年多くなっている。昭和五六年冬の異常低温は県内の晩柑類に大被害を与えた。寒さに強い温州みかんのままであったら被害は少なかったと推定され、適地でない地域まで晩柑類に変更したことに対する反省があった。また、五四年二月は異常高温で春もの野菜の価格が暴落し、農家は被害をうけた。暖冬には降雪が少なく、数少ない県内のスキー場は被害をうける。これも広い意味の気象災害で、社会条件が変化した結果災害となった例である。夏の山岳地域には落雷がまれではないが、落雷のさいにそこに多くの登山者がいれば落雷による死傷者がでて、大きな自然災害となる。
 気象災害を考える場合に自然条件についてのみ目をうばわれがちであるが、気象現象はいわば災害のひきがねになっているだけで、主体は社会的条件にあることに注目する必要がある。

 季節別にみた災害

 県内各地で生じた気象災害を種類別・月別に整理してみると、各種の気象災害には明らかな季節性が認められる(図2―62)。このような災害の発生する時期を明らかにすること峡災害の発生機構の解明や災害防止対策上きわめて重要である。図はおもに松山地方気象台発刊の『愛媛県気象年報』の昭和四八年から五六年にいたる九年間における「異常気象と災害」を整理し作製した。気象災害としての取りあげ方の基準は必ずしも明らかではないが、報道関係でとりあげられ、被害額が多く死傷者がでた気象災害はほとんど網羅している。

 春の災害
      
 春の気象災害でまず目立つのは大雨と強風、それに瀬戸内海特有の霧である。災害発生時の天気図をみると、この春の気象災害は互いに深く関連しあっている場合が多いことがわかる。春といえば穏やかな陽光に花の季節という感じをもつが、実際には三・四月は暴風日数が一年中で最も多く春のあらしといわれる。四月下旬から五月になると、時に高温多湿な気流が日本海に発生した低気圧に吹きこみ、低気圧が南よりに進むと大雨になり、北よりに進んで発達するとやまじ風などの強風に、また風がよちいと霧の発生をみたりする。春に低気圧がよく発達するのは北と南の温度差が大きいためであって、急速に台風なみになる。
 気圧の谷の背後には移動性高気圧がやってくる。四月下旬になると日最高気温が二〇度C以上になる日が多く新緑の季節をむかえる。空気が乾燥し、風がよわいと夜間の放射冷却がさかんになり、日最低気温はかなり低下する。このようなときは内陸の山麓や盆地では降霜がみられ、桑・たばこ・春野菜などに大きな被害が生ずる。帯状移動性高気圧の場合には晴天が二日から三日も続き、次の気圧の谷がよわかったりコースがずれたりすると、晴天が一週間にもなる。春の強い日射で地表面が乾燥し、冬に雑草が枯れたあとなので火事がおこりやすい。異常乾燥注意報がだされ、火災のニュースがたえない。大規模な山林火災はほとんどこの時斯に発生している。さらに乾燥の状態が続くと、農地や島しょでは水不足となる。また好天時には光化学スモッグが現われ始める。
      
 夏の災害

 夏は最も気象災害の多い季節である。なかでも大雨による災害が多いが、これは六・七月は梅雨前線の活発化によるもの、八月は台風によるものが多い。この時期の大雨災害は東予地域にやや少ないほかは、県内全域に被害をもたらすものが多い。東予地域で梅雨期の大雨被害が少ないのは南に法皇山脈、西に高縄山地があり、南または西からの前線や低気圧の擾乱の風下側にあたるからである。しかし、高縄半島北部では大雨災害は東予を除く他地域と同様に多い。また昭和五五年の夏のように梅雨前線の北上がおくれると、長雨・寡照・低温の冷害型天候となり、農業だけでなく各方面に多大な被害をおよぼす。
 夏の強風害は大雨被害の割には少ない。梅雨期には一般に風害は少ないが、時に梅雨前線上の低気圧が発達したり、台風が梅雨前線と重なると強風害になる。梅雨前線にともなうもう一つの重要な災害は霧である。霧は降雨のあった後で風がよわく、気温が低下すると発生する。春には放射霧・移流霧が多く局地的で継続時間も短いものが多い。梅雨期の霧は前線性混合霧が多くなって、広い範囲で長時間続く場合が多い。しかし、霧は梅雨期をすぎるとほとんどなくなる(図2―63)。 梅雨の中休みや梅雨末期には地表面が高温になって、上空に寒気が流入すると、大気の状態が不安定になるので雷が発生する。雷害は落雷とそれにともなう火災や局地的に短時間に降る豪雨、雹害などにわけられる。とくに農作物の生育した時期の雹は大被害をおよぼす。
 梅雨も空梅雨になると干害になり、とくに傾斜地の多い南予地域や瀬戸内の島しょでは農業用水ばかりでなく、生活用水も不足する。これらの地域では二年に一回の割合で水不足が生じている。

 秋の災害

 秋は最も気象災害の少ない季節である。九月に大雨、強風害が多いのは大部分台風によるもので、比較的短期間の災害である。しかし台風災害は図2―62でみるかぎり回数は少ないが、災害の規模や被害額は大きく重要な気象災害の一つである。台風は大雨・強風のほか波浪・高潮をもともない海岸線が長く、海上交通がさかんな愛媛県にとってはとりわけ重要である。秋台風は強い勢力を保ったまま本土に接近するため、こうした各種の気象災害が複合して発生する。
 その他の秋の気象災害としては干害・光化学スモッグ・低温害などがあげられるが、いずれも大きな被害にはらない。一〇月末から一二月初旬にかけては年間で最も気象災害が少ない安定した時期である。

 冬の災害

 一二月になると冬型気圧配置の日が増え、冬の気象災害が発生する。シベリアからの寒気は時に寒冷前線をともない南下するが、このとき突風がおこり船舶の海難事故の原因となる。しかし、本格的な寒波の襲来は一二月末のいわゆる年末寒波といわれる時期からである。昭和五一年・五五年の両年一二月二七日に寒波がきて、山間部では強風・降雪による交通遮断、ビニールハウスの破損、電線着雪による停電などの被害が相ついだ。冬の季節風による気象災害は一月にも発生するが、最も多くなるのは二月後半で、この頃になると南岸低気圧がよく発達し、平地では強風・波浪、山間部では大雪・低温による災害が発生する。
 一方、冬型気圧配置が続かず、気圧の谷の接近もない場合には、暖冬となり春先に多い異常乾燥が生じ、各地で火災が多発する。また長期にわたり乾燥が続くと、島しょでは冬でも水不足がおこる。

図2-62 愛媛県の月別気象災害(昭和48~56年)

図2-62 愛媛県の月別気象災害(昭和48~56年)


図2-63 愛媛県内の月別雷日数(松山・宇和島)と霧日数(釣島・佐田岬)(深石原図)

図2-63 愛媛県内の月別雷日数(松山・宇和島)と霧日数(釣島・佐田岬)(深石原図)