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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

2 降水量

 冬の降水分布

 降水量は気温とならんで重要な気候要素である。ここでは一月・六月・九月の月平均降水量と年平均降水量分布について検討する。つまり一月は冬の季節風による降水、六月は梅雨期、九月は秋雨台風期の降水分布を代表させ、平均状態として年降水量分布をとりあげる。
 一月の月平均降水量(図2―34)は南予の盆地から久万、四国山地にかけては一〇〇㎜を越え、南予海岸は約六〇㎜、東・中予、島しょでは三〇㎜から四〇㎜で最も少ない。一〇〇㎜以上の地域は降雪が大部分で、従来から指摘されているように準日本海側気候で、中央構造線以南の山地・盆地に分布する。瀬戸内側低地では五〇㎜以下であるが、久万・大洲・内山・野村の各盆地で一〇〇㎜をこえ、降水分布の不連続域が四国山地を境に認められる。この準日本海側気候の南限は宇和・野村盆地までで、鬼北盆地は南予海岸地帯とならんで降水量も少なく、積雪日数も少なくなる。二月の降水分布も一月のものと類似しているが、低気圧性降水が増加するためか地域差は全体に少なくなり、全体として六〇㎜から九〇㎜となる。
 雪と氷の分布についてみよう。雪日数とは雪・しゅう雪・霧雪・みぞれなどのうちの一つ以上の現象のあった日をいう。各地の年間の雪日数は久万盆地四〇日、南予内陸盆地二〇日から三〇日、海岸地帯一〇日から二〇日であるが、半島、島しょは一〇日以内で最も少ない。松山では雪の初日一二月二一日、終日三月七日、雪日数一四・三日。宇和島は初日一二月二一日、終日三月五日、雪日数一六・二日が平年値である。
 野外のたまり水、通常は露場の蒸発皿の水が凍る日数を結氷日数という。日最低気温が四度C以下になると結氷日数になることが多い。年間の結氷日数は久万盆地七〇日、南予盆地四〇日前後、海岸地帯一〇日から三〇日で局地性が大きい。

 梅雨期の降水分布

 梅雨期の六月の月平均降水分布(図2―35)は、冬の降水分布よりさらに地域的差異が大きく、著しいコントラストをみせている・梅雨前線は停滞前線で初夏に南から北に北上する・四国山地の南斜面では梅雨前線と地形性上昇が重なり大量の降水となる。とりわけ南側に開口している谷頭では水平的な収束気流が生じやすく、局地的に大量の雨が降りやすい。銅山川流域・面河川流域・久万盆地・宇和盆地ではとくに多く三〇〇㎜をこす。これに対し風上の南側に山地がある野村盆地、小田・宇和島などは二五〇㎜以下で地形の影響、とくに近くの風上側の地形によって降水量が左右されている。その他の四国山地南部では二五〇㎜から三○○㎜である。
 一方、四国山地北麓、つまり瀬戸内海側はすべて二三〇㎜以下である。ここでも地域性があり、伊予灘・斎灘に面した高縄山地の西部ではやや多く二〇〇㎜から二三〇㎜である。燧灘に面し高縄山地の東部にあたる地域は最も少なく一八〇㎜から二〇〇㎜である。これは梅雨期によくある西よりの気流に対して中予は風上側にあるが、東予では高縄山地があるので風下側にあたるから、降水量が最も少なくなる。島しょでも同様な傾向がある。大三島の西側宮浦で二三〇㎜だが、大島の北東部の宮窪では一六四㎜で少ない。七月もほぼ六月と同様な分布パターンであるが、全般にやや少なくなる。四国山地南部で三〇〇㎜から二〇〇㎜、北部で一五〇㎜から二〇〇㎜である。

 秋雨・台風期の降水分布

 秋雨、台風期の九月の降水分布をみると、仁淀川上流の面河川流域は三五〇㎜から四五〇㎜、銅山川上流の別子ダム・面河ダムでは五〇〇㎜をこえる。このように石鎚山地の南斜面が最多で、そこからほぼ同心円的に降水量は減少する。鬼北盆地、小田・久万盆地、東予海岸地帯で二五〇㎜から三〇〇㎜、その外側の南予海岸地帯、宇和盆地、大洲盆地、鈍川などは二二〇㎜から二五〇㎜、伊予灘沿岸の中予海岸や佐田岬半島、高縄半島北部、越智諸島などはいずれも二〇〇㎜以下で少ない。梅雨時と異なるのは高縄半島をはさんで東予と中予の海岸地帯の降水分布が反対になっていることで、興味深い。つまり梅雨時は東予で最小であったが、秋雨台風期には東予海岸では二五〇㎜から二九〇㎜もあり、中予では二〇〇㎜に満たない。

 年降水量分布

 年降水量が最も多いのは二〇〇〇㎜を越える地域で、南予内陸の鬼北盆地、日吉村・柳谷村、久万盆地、面河川上流域、銅山川上流域に広がり、いわば高知県境の山間地である。多降水域は銅山川・四万十川・仁淀川の上流域の水系にあり、いずれも徳島県・高知県に流出してしまう。一八〇〇㎜から一九〇〇㎜の多降水を流域にもつ県内の河川は肱川のみである(図2―36)。
 南予の盆地では一七〇〇㎜から一九〇〇㎜、海岸はやや少なく一五〇〇㎜から一七〇〇㎜、中・東予の海岸は一三〇〇㎜から一五〇〇㎜、内陸では一五〇〇㎜から一七〇〇㎜でやや多い。半島、島しょは最も少なく一〇〇〇㎜から一二○○㎜である。県内の降水分布の要約をすると、南部県境付近で最も多く二〇〇〇㎜、北部島しょは一一〇〇㎜程度である。東・牛予の平野部では農業用水・工業用水・都市生活用水の需要が多いが、寡降水域で古くから溜池灌漑や地下水の利用に努力してきた。一方、多降水域は銅山川・仁淀川・四万十川の水系にあって他県に流出してしまうので、水資源の利用と開発のうえで問題がある。上記の河川でも銅山川の柳瀬ダム・新宮ダム・富郷ダム(建設中)などがあり、仁淀川上流に面河ダムを建設し、中予の平野の水不足問題の解決を試みている。さらに肱川でも鹿野川ダム・野村ダムを建設し、南予の水資源利用に役立てている。
 つぎに日降水量一㎜以上の降水日数の年平均値についてみると、一三〇日以上の最多の地域は久万・野村・鬼北の各盆地で、南予海岸が一二〇日前後でこれにつぐ。東・中予の南部は一〇〇日から一一〇日、高縄半島北部と島しょが九〇から一〇〇日で最も少ない。ほぼ年降水量の分布図とにているが北部で降水量のわりに降水日数が少ない。

図2-34 1月の月平均降水量分布図(㎜)

図2-34 1月の月平均降水量分布図(㎜)


図2-35 6月の月平均降水量分布図(㎜)

図2-35 6月の月平均降水量分布図(㎜)


図2-36 年降水量分布図(㎜)

図2-36 年降水量分布図(㎜)