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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

一 地域の設定

 総合的な地域区分 

 地誌は土地の諸相を記述することにあるが、その前提となるのが「地域」の設定である。地域を区分するのは、いろいろな方法がある。地形や気候、植生などの自然環境をはじめ、これら環境の特性を反映するのは土地利用であることから、とくに農業や林業は、自然環境による地域区分とよく一致する。
 工業や商業は、自然環境の制約をなるべく少なくしてゆく生産活動を行っていることが特色である。これらは、都市の機能として重要な産業部門であることから、むしろ市町村別の産業の集積の程度とか、都市のもつ中心性のありかたなどを考えて地域区分を行ってみることは重要である。工業地域からはじまって、通勤通学や交通、消費者の買物行動などによる都市の勢力範囲の設定などを行って、これらを重ねてみる。この結果を総合的な地域区分として、県内を分けてみると三つの地域と一五の地区が確認できた(図1-5)。

 地域と地区

 愛媛県は、大きく東部、中部、南部の三つの地域に分けることができる。この地域名称は県内で一般に広く用いられている東予(東部伊予)、中予(中部伊予)、南予(南部伊予)の呼びかたを用いることとした。ただ、中予地域については県庁所在都市である松山市が地域の中心都市として、優れてその都市勢力圏域が大きいことから、中予(松山)地域という呼びかたも成りたつと考えられる。
 「東予」「中予」「南予」という地域名称は、県政のうえで何時ごろから用いられ始めたかの正式な決まりはないようである。しかし、「地方」をよぶ通称としては、広く一般に用いられていたと考えられる。例えば、県制の公式機関に、この地域名が冠せられた最初は、明治九年(一八七六)に松山の勝山学校内に設けられた変則中学校を、後に北予学校と改名(後に松山中学校と改称)したとある。この北予学校の名称は、同二六年(一八九三)の北予英学校、のちの同三七年(一九〇四)の私立北予中学(現県立松山北高)にも用いられた。「北予」という地域名称は、今日ではほとんど一般に用いられることがないが、県土の地理的位置からすると松山市を中心とした地域はまさしく県内では北方にある。
 また、「東予」は、明治一三年(一八八〇)に設けられた西条中学校の前身を県立中学校東予分校と称していたし、大正二年(一九一三)に宇摩郡地方への電力供給を目的に設立された会社が東予水力電気で、民間企業として東予を冠した名称の最初であったと思われる。「南予」についての最初は明治七年の宇和島に設立された南予変則中学校で、大正三年にも南宇和郡御荘地方に電力供給を目的に設立された南予水力電気がある。しかし、これらは何れも県内の南部にあることから南予を冠した理由は容易に理解されるが、明治二九年に松山と郡中の間に開通した民間鉄道が南予鉄道であったことは、北予や中予とよばれてきた松山地方に登場したために珍しいといえる。むしろ、南予地方の玄関口としての郡中と松山とを結ぶ意味で用いられたものであろうか。
 それにしても、中予地域に先行して「北予」が用いられたことは、県土の地理的位置を正しく認識させたことで注目すべき名称であったが、他方、「中予」が極めて新しい呼びかたであるとも言える。
 地域区分では県内を東予、中予、南予の三大地域に区分したが、それぞれの地域は、また、幾つかの地区からも構成されている。地区は、地域と称するほどにはその広がりはせまく、また、地域のなかにあって共通性をもち、社会的、経済的に小さな圏域をつくってまとまったものとして認められるものである。これら地区のなかには、当然のこととして地区相互、あるいは地域との間の漸移地帯的性格をもったところもある。

 漸移地帯

 地形や気候をはじめ土地利用など自然環境の特色で区分される地域は、市町村という行政単位の区域にはとらわれない広がりをもったものである。しかし、人口をはじめ経済や社会の特色によって区分された地域は、その資料のありかたから市町村単位の区分が行われる。ここに、地域を区分するときの約束が必要となってくるわけで、この愛媛県史の地誌に用いた地域や地区の区分の単位も行政区を用いざるを得なかった。
 また、地域の設定では、多くの区分指標を用いた地域を、幾つか重ね合わせて三大地域に分けたり、そのなかに一五の地区を認めたりすることになるが、地域や地区の境界は決して明確に区別されるものでもない。ある地域は、周辺から地域の中央に移るに従って特性を濃くしてゆくものもある。例えば、通勤通学や消費者の買物行動など機能的要素による地域の設定や、土地利用などでもこのような移り変わりを認めることができる。このような地域を漸移地帯とよぶ。
 県内における漸移地帯としては、長浜町・内子町・中山町などの中予(松山)地域と南予地域との間の漸移地帯、また菊間町は中予(松山)地域と東予地域(今治都市圏)との漸移地帯である。前者は、松山都市圏に属するものの農業地域区分では南予地域に属し、行政でも松山地方局ではなく八幡浜地方局に属し、国会議員選挙区でも南予(第三区)に入っている。後者の菊間町は、松山と今治の都市圏の設定では中間に介在するが、行政のうえでは越智郡で今治地方局の管轄に入る。

図1-5 愛媛県の総合地域区分

図1-5 愛媛県の総合地域区分