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愛媛県史 地誌Ⅰ(総論)(昭和58年3月31日発行)

二 県の成りたち

 経済の地域的偏り 

 愛媛県とは、どのような中味をもったものであるのか、経済活動をはじめ人口の分布などからみてみよう。  
 地方自治体としての愛媛県は、そのなかに松山や新居浜・今治など一二の市と四四の町、一四の村の合計七〇市町村から成り立っている(昭和五八年三月末)。しかし、これら市町村は決して、その面積、人口、経済などの規模をはじめ発展の様相は一様でないばかりか、むしろ特定の産業などは、幾つかの市町村にまとまって発達しているのが実情で、地域的な偏りが目立っていることが特色である。
 人口は、一五〇・七万人のうち県内最大の都市である松山市にその二七%が集中し、これにつぐ新居浜・今治の両市を加えると、総人口の四四%がこの三都市によって占められている(五五年)。これら三都市を母都市とする通勤通学者の発生からみると、明らかに県内に三つの大きな都市圏域が形成されていることがわかる。
 経済活動がどのように展開されているのか、産業別の県内純生産について、その市町村別割合からみてみよう(図1-3)。まず、農業生産では松山市の一一%は例外として、特に著しい集中はみないものの、八幡浜市や吉田町・伊予市・中島町・菊間町などは柑橘生産によって、その割合が高くなっており、松山市もその例外ではない。大洲市や宇和町・東予市・西条市・土居町などは、米や野菜の特産地となっている。
 林業生産は、特定地域への集中がみられ、大洲市をはじめ久万・野村・城川・小田・内子・面河など四国山地の町村に林業が偏っている。水産業となると特定地域への偏りが著しくなって、宇和島市の一五%を首位に八幡浜・御荘・津島・城辺・西海・三瓶・伊方などの宇和海沿岸の市町村が多く、これらで全体の約六〇%を占める。その生産は、ぶり(ハマチ)や真珠などの養殖に負っているところが大きいことも特色である。これに対して今治市や宮窪町、松山市の水産業は瀬戸内海漁業を代表する魚介類が多い。
 工業生産では、松山市の二四%を首位に、新居浜・今治の両市を加えると県内の二分の一以上を占め、さらに伊予三島・川之江・西条の諸都市をふくめると七〇%にも達する。これら諸都市の工業生産は重化学工業が主で、宇和島市や伊予市のそれは水産加工や造船業などによっている。卸・小売を合わせた商業では、工業生産以上に松山市の地位は著しく高く、それは県内の四六%を占める。商業は都市の重要な機能であることから、県内の中小都市には多少なりともその集積をみてはいるものの、割合の高い都市は限られてくる。今治・新居浜・宇和島・伊予三島・八幡浜・川之江の諸都市が二%以上を占めるが、これらは小売業のみならず卸売業の集積に特色がある。
 このように、第一次産業では生産活動に地理的環境の特性が反映されるために、特産地の形成が進んで、その地域的な偏りが認められるが、それは工業生産や商業となるといっそう著しい。とくに松山市をはじめ、地域として中予から東予の、しかも特定の都市に集中している。愛媛県の経済活動は、第一次産業がおもに南予地域から中予地域にかけて、第二次、三次産業は中予から東予地域にかけての特定の都市を中心に展開をみせているといってよい。

 近づきやすさの偏り 

 松山市をはじめ一二の都市に県民の約七〇%が住んでいるが、しかも、それぞれの都市は互いにかなりの距離を置いて離れている。例えば、県内の東端の川之江市と、最も南にある都市としての宇和島市とでは、予讃線利用で二二五㎞も離れていて、特急を利用しても三時間四〇分を必要とする。都市が互いに接近して都市圏をつくっているのは、松山市を中心に北条市・伊予市がその衛星都市となっている松山都市圏だけである。県内の人口は、その分布にばらつきがあって、人口集中をみせている地域が散在している。
 この人口の分布と、人びとが住んでいる地区(コミュニティ)を互いに直線距離を計算して、相互にどのような近づきやすさをもっているかをみてみた(図1-4)。これは、基本的には「ある場所の他の場所への近づきやすさ〈相対的近接性〉」を求めたもので、この近接性とは場所がもっている属性で、居住地としての魅力を評価するときの一つの方法である。
 地区の周辺に多くの人口をかかえているほど互いに接触する可能性は高い。また、一般に人の移動は移動する距離と反比例の関係があるといわれることを考慮する必要がある。計算された数値でみると、最高は松山市の八坂地区、今治市・八幡浜市などの中心部である。とくに八幡浜市の市街地の数値が異常と思われるほど高いのは、せまい範囲に地区が多く集まって、人口が集中しているからで、屈曲の多いリヤス海岸のせまい低地に発達した都市の特色をよく表している。
 県内では、松山地域が人口規模が大きいことから相互接触の可能性が最高となっているが、周辺に対しては数値の差が著しく、むしろ独立した地域となっている。これに対して、今治市から新居浜をへて川之江市に至る東予地域は、今治・新居浜の両市の中心地区を二つの高い値を示す峰として、燧灘沿岸に約六〇㎞にわたっての狭長な高値地域がつながっている。八幡浜・宇和島の両市を中心とした南予地域は、この値の高い地区が互いに離れていること、宇和島地区では内陸の鬼北盆地や吉田地区などに人口が分布しているために広がりをみせるが、大洲市は自市と周辺がともに人口規模が小さいために、都市のなかでは値が最も低くなっている。
 さらに、内陸の四国山地に入った地方では、人口が少なく、まばらに分布していることと、各地からの距離も遠いことなどから、相互接触の可能性は最も低いところとなっている。それが著しいのは佐田岬半島や日吉村・津島町・一本松町など四国西南部の内陸地方、瀬戸内海の島しょ部である。
 相互に接触する可能性が高い地域とは、「物ごとの中心に近づきたい」という人の心を誘うところであり、そのような地域のなかに居たいというのも人の心である。県内では、松山市が最も高い値を示す「人の心を誘うところ」であるが、地理的な条件から松山平野に限られたせまい範囲に表れている。これに対して東予地域は、都市の連担をみることから連なった高値地区が形成されてはいるものの、松山市ほどの高い地域はない。

図1-3 愛媛県の産業別市町村内純生産

図1-3 愛媛県の産業別市町村内純生産


図1-4 愛媛県における人口ポテンシャル(横山原図)

 図1-4 愛媛県における人口ポテンシャル(横山原図)