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えひめ、昭和の記憶 ふるさとのくらしと産業Ⅷ -新居浜市-(平成27年度「ふるさと愛媛学」普及推進事業)

第2節 新居浜駅前の町並み

 新居浜(にいはま)における最初の鉄道の開業は、別子鉱山鉄道下部線の端出場(はでば)-惣開(そうびらき)間10,461mが開通した明治26年(1893年)5月のことである。同年12月には上部線の石ヶ山丈(いしがさんじょう)-角石原(かどいしはら)間5,532mも開通した。元禄15年(1702年)、新居浜浦に銅の積み出し及び食糧や生活物資の搬入等の業務を行う口屋(くちや)(浜宿(はまやど))が設けられて以来、別子銅山の上げ荷や下げ荷は別子往還道を通して運搬されてきたが、この鉄道の開通によって大量の銅鉱石などの運搬が可能になったばかりでなく、必要資材や生活物資等の輸送手段が格段の発展を遂げるとともに、新居浜における運輸と商業の発展に拍車がかかった。ただし、別子鉱山鉄道は基本的には鉱石運搬用の鉄道であり、本格的な旅客輸送鉄道としては、国鉄(現JR)の開通を待たねばならなかった。
 大正10年(1921年)6月21日、「愛媛県新居(にい)郡泉川(いずみがわ)村十郎(じゅうろう)(①)」(現新居浜市坂井(さかい)町)に、新居浜駅が開業した。駅舎は、すでに商業的に繁栄していた喜光地(きこうじ)(別子往還道と讃岐(さぬき)街道の交差する場所に商店街が成立)と本町通り(口屋付近に商店街が成立)とは離れた、水田が広がる中に設置された。これは、線路の敷設について、当初、現市域南部の山際を通過させる計画があったが、「沿海各村の死活問題として海岸線を陳情、時の知事、郡長もまたこれに同調、国鉄技術陣もその趣意の妥当なることを認め(②)」たためである。当時、多喜浜(たきはま)では塩田が栄えており、こちらに駅舎を設置する必要性から、多喜浜駅から西へ延伸した現地に設置されることになった。このため、すでに繁栄していた臨海部や山麓部と比べ、新居浜駅周辺は開発においても自然発展に任され、人々に寂れた印象を与えることとなった。
 しかし、大正14年(1925年)の星越(ほしごえ)選鉱場の操業開始や、昭和4年(1929年)から同13年(1938年)にかけての大築港工事や交通網の整備、住友関係各工場の増設拡張などにより新居浜が一大発展を遂げ、住友各関係工場への通勤や商用などで新居浜駅の利用者が増加した(図表1-2-2参照)。また、新居浜市の発展に伴う別子鉱山鉄道の地方鉄道への切り替え(昭和4年)、戦局の拡大に伴う増産のための国鉄沿線からの通勤者の確保と、原材料や製品などを大量に輸送するための国鉄新居浜駅連絡線の敷設(昭和17年〔1942年〕)などがあり、新居浜駅周辺は賑(にぎ)わいを見せるようになった。
 駅前から高木交差点へ続く県道国領高木線をはじめ、駅周辺の道路が整備されたことにより、旅館や商店が建ち、多くの駅利用者がそれらを利用した。特に市外から住友各関係工場に通勤する人々は、新居浜駅から自転車で通勤したため、自転車預り所が多数営まれた。昭和40年代ころまでは通勤時間になると道路一杯に自転車があふれる光景が見られ、「自転車の街、銀輪の街(③)」と称された。また、近年では、新居浜駅から阪神方面への高速バスや多くの近・中距離路線バスの発着が行われ、バス交通の拠点としての役割を担うようになり、新居浜駅周辺地域を新居浜市の中心的な役割を担う都市拠点として位置付けるための再開発が検討されるようになった。
 新居浜駅前の開発については、「新居浜駅前土地区画整理事業」として昭和48年(1973年)に基本構想が策定された。一時中断した時期があったものの、平成10年(1998年)に「新居浜駅前土地整備事業」が認可された後、幹線道路や駅前広場を中心とした公共施設、スーパーなどの商業施設や住宅などの周辺施設の整備が行われ、平成27年(2015年)7月にようやく事業が完成し、駅前の景観が改まった。現在は、新居浜駅南地区の再開発に向けてシンポジウムが開催されるなど、地域住民との意見交換を行う取組が続けられている。
 本節では、昭和30年代を中心とする新居浜駅前の町並みや人々のくらしについて話を聞いた。

聞き取り調査協力者
 Aさん(昭和2年生まれ)、Bさん(昭和3年生まれ)、Cさん(昭和7年生まれ)、Dさん(昭和10年生まれ)、Eさん(昭和13年生まれ)、Fさん(昭和14年生まれ)、Gさん(昭和14年生まれ)、Hさん(昭和15年生まれ)、Iさん(昭和16年生まれ)、Jさん(昭和19年生まれ)、Kさん(昭和25年生まれ)

図表1-2-2 新居浜駅の一日平均乗降人員(昭和12年~昭和25年)

図表1-2-2 新居浜駅の一日平均乗降人員(昭和12年~昭和25年)

『新居浜市史 昭和37年版』から作成。