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河川流域の生活文化(平成6年度)

(3)松山の川をきれいに

 **さん(松山市南高井町 昭和22年生まれ 47歳)

 ア 水をきれいにするために、実態を知る

 **さんは、松山市森松出身。大学卒業までは、松山を離れたことがない。就職後、広島、東京、大阪で計3年半過ごし、結婚して神戸で約10年間生活した。子供を育てていく中で、いいものを食べさせたい、飲ませたいという考えから、有機農業の共同購入に参加するとともに、毎月1回の食品公害セミナーに通い、水の安全性について学んだ。ちょうど、有吉佐和子の『複合汚染』の本が出たころのことである。
 11年前に松山へ戻ってから2年後に、「飲み水の安全性」の講演会を主催した。関心を持った人たちがせっかく集まったのに、これで終わりになるのはもったいないと、講演会に来た人に呼び掛けて、半年後(昭和61年3月)に「水をきれいにする会」を結成して代表になった。当時は「○○○を考える会」というのがはやっていたが、「考えるだけで、何もようならんでしぼんでいくのは、ごまかしみたい。もっとはっきり、きれいにしようという気持ちを表わそう。」ということで名付けた。「自分たちだけでは、とてもできないのに…」という恥ずかしい気持ちもあったけど、「水をきれいに」という素直な気持ちを反映したのだそうだ。
 「水道の水はどこから来てるか気付いて、川へ関心を持つようになったんです。水をきれいにするには、具体的にどうすればいいのかわからないと。どうするのかを知るためには、実態を知らないと、結論は出ない。ということで、ずっと実態調査を続けているんです。
 また、自分とこの実態を知っているだけでは、わからない。他の地域と比較していくことも必要であると思っています。」

 イ 調べてわかった、川の水質

 水質の化学的分析は、通産省工業技術院の天谷さんが開発した簡易測定器「ユニメーター」を用いて、リン・窒素(亜硝酸、アンモニア)・陰イオン(界面活性剤)の測定を、9年前から継続して行っている。
 「だいたい横ばいですね。汚れている状態が維持されているという感じです。下水道が整備された分だけ、一部はきれいになった。『汚れた、汚れた。』と言っているのは30年前と比べての話であって、実態とは違うんです。
 先日(平成6年9月10日~11日)の24時間ウォツチングは、遊びじゃないんですよ。データ取りが目的で、ものすごく忙しい。松山市の断水時間に合わせて14時~22時は1時間おき、そのあと24、3、6、8、10、12時とサンプリングしました。断水が終わって水を使い始める14時から測定値が一斉に上がって、夕飯時と、給水終了の21時がアップしました。生活排水が処理されないで、直接川に出ていることがはっきりわかります。川が下水になっている状態です。
 水生生物・昆虫は毎年1回以上は調べています。中小河川に比べると重信川はきれいなんですが、虫を調べると、子供のころ当たり前にいたものがいなくなっているのがよくわかります。水生昆虫といっただけで嫌がる人もいます。もともとわたしは『虫が気持ち悪い。』と思う部類で、同定(生物の分類上の所属を決定すること)も難しいし、本当は大嫌いやったんです。昔やったら石とってそこに虫がほうとったら、『もういや。』思て捨てたと思うんですが、初めて先生(水生昆虫の研究家)に指導された時、そういう意識がすっと切れて、当たり前みたいに『これで、川のきれいな具合いがわかるんだ。』という意識に変わったんです。
 今年初めて、メダカを取るフィールドワークを実施したんですが、取れたところが三方コンクリートの水路で、どうもイメージが合わない。講師の先生も、『これは、メダカがしかたなくここにおるんだ。本来こんなところにメダカがおるということではない。』ということでした。川の様子が変わることで、生物にも影響していることがわかります。」

 ウ くらしの心掛け

 「神戸にいたとき、安全な食べ物を求めるということは、ものすごい手間のかかることだということを実感したんです。だから、自分でもできるだけ環境を汚さないように心掛けるようになったんです。
 台所のゴミ受けは、三角コーナーのかわりに目の細かいザルを置き、野菜くずなどはそこに捨て、水がかからないようにしています。米のとぎ汁は、栄養分は少ないけどネギ畑の水やりに使っています。こんな手間は苦じゃないですよ、流してしまうほうがむしろ苦。
 合所や洗濯の洗剤のほか、わたし自身はシャンプーも、合成洗剤系のものを使わないで、せっけん系を使用しています。シャンプーは、人によっては徐々に頭にトラブルが発生し、長い人は1年くらい続くそうで、子供たちは切り替えが難しいようです。また、洗濯の場合は、合成洗剤かせっけんかという以外に、使用量も問題になってくると思います。水洗いですむものには使わないようにしているので、年間に6kg (2kgの粉せっけんを3箱)しか使いません(標準的な洗剤の使用量は、1日40g×365日=14.6kgと言われる。)。
 このような話をすると、『大変でしょう。』とよく言われるんです。でも、一番エネルギーを使うのはライフスタイルを切り替える時で、一度切り替えたら、逆に戻すのにものすごいエネルギーがいるわけです。だから、今のわたしにとっては、そうじゃない生活に戻すことのほうが、気持ちが悪いし、できない。
 こういう活動をしていると、『あなた、どうしてこんなに汚すの。こうじゃないといかん。』と言って、徹底的に人に押しつける人がいますが、これは困ったことです。それぞれの生活に合わせ、とりあえず一つだけ実行して、あとは目をつむる。習慣になって当たり前になったら、次に進む。いっぱいすることがあるわけですから、どれもこれもつつき回しよったら、どれもできないうちに悪くなる。あれもダメやった、これもダメやった、では、やる気がなくなってしまう。
 この間も、洗濯機の選択(全自動か二槽式か)を尋ねられたんですが、やはり自分の生活環境に合わせるべきでしょう。わたし自身、もし働いていたら、合成洗剤は使わないようにするけど、米のとぎ汁は捨てると思うんです。ちょっと、ちょっとが重なって物理的には大変手間だと思うからです。わたしは、主婦で自由に時間が使えるから、見本として、そうしているだけで、みんながすることではないと思います。
 これから高齢化社会が進み、若い人がみんな働かないかん時代ですから、仕事をするんだったらそっちを主にして、家事はある程度手を抜いて負担がかからないようにしないと、とてもやっていけません。それでも、社会全体としては川はきれいにしていかないといけないでしょう。それは行政がすることで、個人の努力ですることではないですよ。」

 エ 将来の川はこうなって欲しい

 「水を入り口にして、環境問題にずっと関心を持つのがわたしのライフワークだと思っています。子供のころ川に親しんでいるという原体験が、その活動の原動力になっているのかな。夏はいつも泳ぎに行ったし、潜って底の石取ったりしてました。重信橋の所で、親が投網をするでしょ。アユ取りに行くのを夜中に、カーバイトたいてついて行ったですねえ。
 『もう川で泳いだらいかん。』『アユが浮いた。』とか聞いたのは小学校6年生くらいかな。農薬をみんな使いだして、水俣病が問題になったころです。今の川は、絶壁みたいな護岸で入り口がないから、『ここ、入ってみよか。』と思ても、降りることができない。入れても、深さもないし、ドロドロの水が流れて下はヘドロですよね。
 重信川は汚れていますよ。水質検査の数値も、かなりひどい状態です。河川が下水では情けないし、地下水にも影響するわけですから、もっと安心して利用できるようにきれいにしていかなければと思います。例えば、合併浄化槽を普及し、未処理の窒素やリンは川の植物で浄化させるような総合的な川づくり。植物が生えておる川は、親水(しんすい)、いこいの場にもなりますから。
 やはり最終目標は、子供が入って遊べる川、水がきれいで入ったら魚がおって、おもしろいから入ろうかなという川ですね。」