データベース『えひめの記憶』

えひめの記憶 キーワード検索

河川流域の生活文化(平成6年度)

(2)岩松川のアオサ

 **さんは、現在岩松漁業協同組合の組合長である。昭和40年(1965年)に津島町役場の職員となり、平成元年3月に退職した。家は農業で奥さんと共にノリの養殖にも従事する。前組合長が急逝したので、漁協の理事をしていた**さんが、その後を継いで組合長となった。**さんから岩松川のノリ養殖を中心に話をうかがった。
 岩松川には海面漁業の岩松漁業協同組合(平成4年度組合員271名)と、内水面漁業の岩松川漁業協同組合(同103名)がある。岩松川の漁業権も津島大橋から下流が岩松漁業協同組合に属し、津島大橋より上流が岩松川漁業協同組合に所属する。また、岩松大橋より上流60mと巽(たつみ)橋から200m上流までの区間が、両組合の共同漁業権の区域で、そこでは、アオノリとアオサが岩松漁協、あとの魚類は岩松川漁協が管轄している。ただし、シロウオについては岩松漁協の組合員の操業が許可されている。
 長浜町の大和ノリ組合が天然ノリのアオノリを採取するのに対し、岩松川は養殖ノリのアオサである。岩松川でも従来はアオノリも採取されていた。ここ2、3年はアオノリは収穫できない。種は付くが伸びてこない。新橋の下の共同漁業権のところで種は付くが成長が止まってしまう。以前は50cmから1m伸びていたが、今は取れなくなった。
 岩松川でも昔は天然ノリの採取であったが、昭和35年(1960年)ころより養殖に転換していった。天然の場合、小石に付いたノリを採取するので、どうしても砂などの不純物が混入しやすい。養殖を始めた当初は、竹ヒビを使用したが今は網ヒビを使用している。
 平成5年度の組合員数は、正・準の組合員数を合わせて263名である(図表1-2-9参照)。組合員も高齢化が進み、後継者がいない状態で、実際に養殖に携わる者も40名ほどになってきた。組合員の主たる生業は、米作、ミカン作り、野菜作りでノリは副業でやっている。

 ア ノリ養殖の実際

 ノリ養殖の場合、組合員に対して漁場の割り振りをする。正式には1株15枚の網を割り当てている。15枚以上の養殖を希望する者があれば、事前に希望を調査して漁場の区域を割り振りする。組合員のほとんどが養殖に従事していた時代は、労働力も若かったし、漁場一杯に養殖が行われていた。当時は1株8枚から10枚の割り当てがあった。
 組合員の網の行使料は1枚700円を徴収している。
 種付けのための網の張り込みは例年9月15日前後である。今年(平成6年)は天候の関係で9月19日に実施した。一つのくいに5枚から10枚の網を重ね合わせて張る(写真1-2-14参照)。9月15日前後にノリの胞子が付き始め10月末までに網に付着する。それを1枚ずつはがして網を沖に出して本張りとする。
 種付けの場所は津島中学校の下流20mから30m下がったところである。例年この辺りが高品種の種が付く場所である。個人的には1番・2番・3番と平等にくじ引きで場所を決定する(図表1-2-10参照)。
 そのほかに岩松漁協では、平成5年度も高知県の四万十川漁協(2,520枚)、大分県の杵築(きつき)漁協(185枚)、長崎県の東部漁協(400枚)の委託を受けて種付けをしている。委託を受けた網は、平成5年は9月18日に張り込み、10月28日に杵築漁協と東部漁協に、9月29日に四万十川漁協に網渡しをしている。四万十や杵築では、岩松川のノリが品質的に優れていると高い評価を受けている。これら委託網の作業は岩松漁協の役員10名とほかに組合員を10名雇ってやっている。
 種付けはノリの胞子が放出されれば早い方が良いが、組合で網張り日を決定し規制している。くい打ち作業はそれ以前でもいいので各組合員にまかせている。養殖の期間中の網の管理は、各自の経験によって、潮の状況やノリの付きぐあいで網の上げ下げを調整している。昔は潮の引きぎわに尿素をかけていたこともあった。今は専業でやる人もいなくなり尿素の散布はしていない。
 収穫は1月から4月までである。ノリの生育に応じて各人が採取し、出荷日については組合で決定する。採取したノリは水洗いして天日乾燥させる。乾燥した製品は全量、組合に出荷する。集荷されたノリは宇和島や地元の業者に売り渡されるが、そのうち1月に出荷した分は、ほとんど地元業者に引き取られる。また、1月下句の津島町産業まつりにも出品されている。一部は漁協婦人部で調理方法(アオサの酢物、汁物、佃煮)の説明をプリントして製品を販売している。自然食ブームや成人病予防によいといわれることから岩松のアオサはなかなかの好評である。採取されるアオサは時期の早いもの程、品質的に優れている。4月ころになると色落ちして質が悪くなる。
 ノリ養殖に従事する人々は、ほとんど第二種兼業であるが、農業収入とノリ収入の割合は8対2である。しかしながらノリ養殖に熱心な人は所得率からいえば、米作以上である。ノリ網は1枚1,000円で3年間は使用できる。あとはくいに使用する竹だけである。作業は家族労働である。組合員の中にはノリ養殖で年間200万円の収入を上げている人もいる。
 **組合長が今頭を悩ませていることは、岩松川がもたらすノリという自然の恵みをなんとかして後世に残していくために、近年の河川の汚れをどうするか、また、組合員の高齢化が年々進み、後継者が居なくなる現状をどう打開していくか、ということである。

図表1-2-9 組合員数

図表1-2-9 組合員数

『平成5年度業務報告書(⑥)』より作成(岩松漁業協同組合)。

写真1-2-14 アオサの種付けの縄張り作業

写真1-2-14 アオサの種付けの縄張り作業

平成6年9月撮影

図表1-2-10 平成5年度 種付けノリ綱配置図

図表1-2-10 平成5年度 種付けノリ綱配置図

岩松漁業協同組合資料より作成。