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県境山間部の生活文化(平成5年度)

(5)山の生活はこんなに素敵

 ア 地元の人の協力で、

 留学センターの**さんに、留学生の子供たちがここでどんな体験をしたのか、話を聞いた。
 「募集要項」にも書いてありますが、この高市地域は全戸がPTA会員で、地域をあげてPTA活動に協力してくれるんです。それで、都会ではなかなか経験できないような体験学習を、いろいろと行うことができます。皆さんが、「うちの家ヘゼンマイ採りに来んか。下刈りもきれいにして危なくないようにしてるから。」「タケノコ掘りに来い。」と誘ってくれたり、子供の日には家に埋もれていた立派なコイノボリを持ち寄ってくれて、かなりにぎやかに大空を泳ぎました。
 夏には、すぐそこの川に地域の人の寄付でアメノウオやマスを入れてもらって、釣り大会もしました。地元の子も一緒になって、30人ほどの子供たちが合わせて160匹も釣って大喜びでした。暮れが近づくと、お年寄りからしめ縄の作り方を教えてもらい、冬休みには各自が家に持ち帰ったんです。スキーにも連れて行きました。特に、沖縄から来てる子が感激していましたねえ。
 おばあさんがお手玉の作り方を教えてくれたり、竹馬を作って遊んだり。この地域の皆さんが非常に協力的なので、助かっています。

 地元の**さんも、留学生の子供たちとの触れ合いについて次のように語る。

 留学生の子供らが、できるだけ高市になじんでもらうということがいいと思いまして、できることは協力するようにしとります。「子供は国の宝じゃ~」言うくらいで、あの子らがどんなふうに成長するかわからんのじゃけん。ここでおる間親切にしてあげたら、親もいいし、子供自体も「あそこ、よかった。」と、生涯忘れられんと思いますよ。

 イ 留学生の感想

 この制度の主役である留学生の子供たちに、「留学してよかったこと」「留学について感じること」を聞いてみた。家庭での生活と異なり、集団生活ならではの規則もあって、窮屈さを感じている子もいるが、全体的な印象としては、プラスの評価をしている。
 やはり「豊かな自然に囲まれて、都会ではできないことを体験できる。」ことに関する意見が、最も多く聞かれた。また、留学に際して親御さんが子供に最も期待していたであろう、「規則正しい生活ができるようになった。」「がまん強くなった。」等、甘えっ子からの脱却を示す意見も多く聞かれ、留学の成果がはっきりと現われていると感じた。このほか、「いろんな県の人と友達になれた。」という意見もかなり多く、山村留学によって新たな交流が始まっていることがよくわかった。
 「前の学校だと、授業中に一度も先生に当てられないことが当たり前だったが、ここは小さな学校なので、手を挙げなくても何回も当てられ、いやでも、勉強するようになる。」という発言にはうなずく子も多い。競争意識も芽生えるのか、食事の時「友達がおかわりしたら、自分もつられておかわりしてしまう。」には、苦笑してしまった。
 子供なりの遊びも自然に身につくのか、いろいろな工夫をしているようだ。都会の子らしいのは「帰省先の友達にお土産に」といってクワガタを採りに行ったり、電灯の下に落ちている虫集めや、アマガエルやイモリを捕まえるのに夢中になったりするらしい。オタマジャクシなどいろんなものを飼育したいらしく、中にはパジャマの中にイモリを入れるという子もいて、びっくりした。これには**さんも驚いたらしく、「田舎の子よりも都会の子の方が抵抗がないようです。マムシなど危険な生物でも平気で近づきますから。近づかせないように、警告のためにマムシのびん詰を展示してるんです。」といって、玄関ロビーにある1升瓶の方を指し示した(写真3-2-22参照)。
 また、「村の人たちとのふれあい」について聞いたところ、「親切」「やさしい」が圧倒的に多く、毎日挨拶を交わしている日々の生活や、地元の伝統行事などへの参加といった交流をとおして、お年寄りの人たちと心のこもった触れ合いを実感していることが、一人一人の言葉から、伝わってきた。

 ウ 成長の証(あかし)

 留学センターでは、子供たちをのびのびと育てたいと考え、なるべく規則を少なくしている。しかし、それでも現代っ子にとっては、毎日が我慢の連続である。そんな甘えを断ち切るため、親との接触を、参観日や運動会など、年に数回の決まった行事の時だけに制限している。季節の変わり目などに衣類を届けるという松山の親御さんも、子供が学校に行っている間にそっと来て、顔を合わせることなく帰っていく。電話も毎週1回(3分)に制限し、それ以外は手紙のやり取りだけを認めている。

 夏休みが近づいて、30日くらい前になると、「夏休みまであと○日」と言って、カウントダウンが始まるんです。早くうちに帰りたくてそうしてるのかと思って子供たちに聞くと、「ちがう。アッという間に1学期が済みかけたので、みんなと離れ離れになるのがつらいから、あとの1日1日を無駄にしないためだよ。」と言うんで、驚きました。でもやっぱり子供ですから、4、5日前になるとそわそわしてくるのが伝わってきます。
 1学期を終えて子供が家に帰った翌日、あるお母さんから電話がかかってきたという。「連れて帰ったその日に、この子がちゃんと『いただきます』と手を合わせてから食事をし、食べ終わったら、ちゃんと『ごちそうさまでした』って言うんです。今まで、家ではそんなこと一切したことなかったのに、布団も自分で敷いて寝たのを見たときには、思わず涙が出そうになりました。でも、次の日からは、留学前の状態に戻りましたけど。本当にありがとうございました。」
 留学センターの集団生活の厳しさを通して、親のやさしさ・有り難さも、きわだってよくわかってくるのだろう。よく言われる「現代っ子の弱さ、甘さ」を克服し、豊かな自然と温かい人情に包まれて、子供たちは確実に成長している。

写真3-2-22 留学センターロビーに展示された「まむし」

写真3-2-22 留学センターロビーに展示された「まむし」

平成5年11月撮影